第37精霊
「ハアァァァァァァ!」
友春は指から小さな火球をマシンガンのようにエックスに放つが
エックスは足に青いオーラを纏わせた状態で高速で移動しながら小さな火球を全て避けていく。
「その程度で僕が倒せるとでも?」
「思うかボケぇ!」
友春はマシンガンを放つのをやめると、両の拳に
炎を纏わせ、エックスに殴りかかっていった。
「おらぁ!」
―――――ヒュッ!
しかし、空を切る音を聞こえ、外れたことを示していた。
友春はエックスが移動したカ所を慌てて向くと、そこには余裕綽々のエックスが立っていた。
「見えなかったぜ」
「この程度かい? まだ、僕は全力の一割以下だよ」
エックスは掌に青いエネルギーを集め球体を作ると
それをゆっくりとしたペースで、投げた。
(よく見ろ!)
友春は今まで以上にエックスに神経を集中させ、彼の行動を見続けた。
(避けられる速)
――――ドオォォォォン!
「ッッッ!」
ジッと見ていたにもかかわらずエックスが投げた球体を
友春は見るどころか反応することすら出来なかった。
(あ、あいついつ投げたんだ……全然見えなかった)
「何を固まってんのさ。これからでしょ?」
「あ、当たり前だろうがぁ!」
友春は全身から炎を吹き出しながらエックスに殴りかかっていく。
「遅いねえ」
エックスからすればあまりにも遅すぎる
パンチを余裕の表情を浮かべ当たらない方向へと体を傾ける。
(今だ!)
――――――ゴオオォォォォォォォォォ!
「ッッ!」
突然、友春の肘から炎が勢いよく噴射され、推進力を得た拳は
凄まじい速度でエックスに近づいていき、彼の頬を掠った。
「ちっ!」
エックスは忌々しそうに舌打ちをして、足に纏わせている青色のエネルギーを
利用して友春から一旦、距離を取った。
「何で距離を取るんだよ、エックス」
頬からはエックスの髪色とは正反対の色をした赤い血がツーっと流れ落ちていた。
「はっ! 掠ったくらいで喜んでるようじゃ僕には勝てないよ」
エックスは足の青いエネルギーを輝かせると友春の何倍も速い
速度を使い、一瞬にして距離を詰めて腹部に蹴りを加えた。
「がっ!」
――――ドオォォォォォォォン!
蹴とばされた友春は血反吐を口から吐きながら壁に激突した。
「お兄ちゃん!」
「大丈夫……だ」
彩加が今にも泣きそうな表情を浮かべて友春に近づこうとするが
友春は無理やり笑みを浮かべて彩加を止めた。
「よく、そんな弱さで僕に戦いを挑んできたね。
ハモンやハルピュイアの方がまだ強いと思うけど?」
エックスが何もないところを軽く触れるとそこに、長方形に画面が展開され、
ハモン、加奈、桜、そしてエルンストが戦っている様子が映し出された。
「ま、彼女たちも殺すけどね」
―――――ゴッ!
「がっ!」
エックスはもう一度、先程と同じ過程を経て凄まじい速度で友春に近づき
彼の首を掴んで、壁に押し付けた。
「さぁ、お終いにしよう」
エックスは掌を友春に向けると、そこに
青色のエネルギーを集め始め、大きな球体を作り始めた。
(ヤベェ……勝てる気がしない)
友春はエックスとの圧倒的な力の差に絶望に近い感情を抱いていた。
『当たり前だろうが。エックスは俺たち精霊の王。いくら、俺と同化した
とはいえお前は人間だ。勝てる筈もねえんだよ』
頭の中に呆れたような声音のファーブニルの声が響いてきた。
(もう……無理なのか)
徐々に目の前の青色の輝きは大きさを増していく。
「お兄ちゃん!」
耳に妹である彩加の声が聞こえてきて、そちらの方へ視線だけを向けると
今にも泣きそうな彩加の顔が見えた。
(彩加………)
ふと、友春の脳裏を昔の記憶が過ぎった。
『えぇぇぇぇぇん!』
まだ、友春と彩加の年齢が一ケタ台の頃、二人で家を借りて生活をしていた。
その頃はまだ、友春も彩加も幼すぎて料理はおろか掃除、洗濯などの家事が
十分にできるはずもなく、家は汚かった。
そして、何より毎日のように幼い彩加が泣きじゃくっていた。
『彩加。どうしたんだ?』
『えぇぇぇぇぇん!』
いくら友春が彩加に尋ねても彩加はずっと、泣き続けていた。
『彩加……約束しようか』
『約束? ヒック!』
『あぁ。お兄ちゃんはこれから絶対に何事も諦めない。
そんで彩加はもう絶対に泣かない』
彩加が涙で濡らした頬を服の裾で拭いて、友春は彼女を抱きあげた。
友春の服はもうボロボロでところどころに穴があくほど、古いが
彩加の服は新品のように綺麗で、穴なんか一つも開いていなかった。
『頑張る……彩加は泣かないって頑張る!』
『あぁ! これから頑張ろうな!』
二人は笑顔を浮かべ、お互いの小指を出して指切りをした。
『指切りげんまん嘘ついたらハリセンボン飲~ます♪。指切った!』
(そうだ……あの時約束したじゃねえか)
友春はあの日、彩加と約束したことを思い出し、エックスの腕を掴んだ。
「何をしようと無駄だよ」
(俺は諦めねえ!)
――――――ゴオォォォォォォォ!
「なんだと!?」
友春の思いにこたえるように彼の全身から凄まじい量の炎が吹き出し、
エックスの青いエネルギーの球体を飲み込むと、燃やしつくしてしまった。
(力を抜くんだ……あいつを倒すためだけに使う部分にのみ力を送る)
炎は徐々に彼の体を包み込みはじめ、
その姿はまるで炎を服の様に纏っているような姿だった。
「そ、その姿は……」
エックスは今の友春の姿を見て驚きを隠せないでいた。
「ファーブニルの炎衣じゃないか!」
炎が完全に彼の衣服と化した瞬間、エックスの視界から友春の姿は無くなった。
「消え」
――――――ドゴォォォン!
「ぐぎゃっ!」
エックスの顔面に友春の拳が深く、突き刺さり肘からの炎の噴射によって
推進力を得た拳はどんどん深く突き刺さっていく。
――――――メキメキメキ!
骨にヒビが入るような嫌な音が辺りに響く。
「ふん!」
「がぁ!」
そのまま友春が腕を振り切るとエックスは鮮血を吹きだしながら殴り飛ばされ、
壁に激突するや否や、その壁を突き破り、さらにそのまた奥の壁を突き破り
遠くの方にまで殴り飛ばされた。
「エックス……俺はおまえを倒す!」
友春は背中に炎で作った翼を生やし、羽ばたかせて吹き飛んでいったエックスのもとへと向かった。
「そして! 彩加と、皆と一緒に帰る!」
「人間ごと気が僕を倒すなんて夢のまた夢だ!」
エックスは指先から青い極太のレーザーの様なものを友春に向かって放った。
「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
友春は拳に炎を纏わせ、その放たれた極太レーザーを迎えうつ。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
お互いの攻撃がぶつかった瞬間、辺りに爆音と爆風が同時に放出された。
こんばっぱ~!




