第36精霊
出来る限りの仲間を集めた友春はエルンストが
行っている霊界へ行くための準備が整うまで少し駄弁っていた。
「でも、まさか桜まで来てくれるとは思ってなかったよ」
友春が集めることができたのはハモン、加奈、エルンスト、そして桜だった。
どこからか話を聞きつけたのは分からないが、友春の家に『私も連れていけ』と
霊装を装備した状態で押しかけて来たのである。
「まあな。安心しろ、上には秘密にしてある。もちろん私が
この霊装を使っているのも個人演習の為と言ってある」
桜は対精霊組織の戦闘部隊隊長。我を通すのもある程度まではいける。
「ふぅ~ん。そんなしょぼい装備でいけるの?」
加奈は桜が纏っている霊装を不思議そうな表情を浮かべて見ていた。
桜の纏っているのは最新型なのか背中には人工の翼があり、
足の部分には先端が鋭利になっている小刀がいくつか装備されている。
「失敬な。これは家の最新機で、武装も最高威力を誇るものばかりだぞ」
「まあ、それでも精霊を倒すには届かないんじゃないざんすか? うんうん、届かないざんす」
「さあな、やってみなくては分からない」
「開いたぜ」
後ろからのエルンストの声に全員が振り向くと、そこには空間に穴が開いており、
その先には何やら景色が広がっているのが見えた。
「ここに繋がっているのが精霊の世界か」
「あぁ、ただし。あそこに行けば大量の霊兵は勿論、
幹部がいるぜ? 死ぬ覚悟がある奴だけついてきな」
そう言ってエルンストは穴に入っていき、全員がそれについていった。
全員が穴に入り切ったところで穴は徐々に小さくなっていく。
―――――ファサッ。
「ふぅ」
しかし、そこに一つの人影が現れ、穴の中に入っていき
その人影が完全に入ったところで穴は閉じた。
「ここが精霊の世界」
友春達が入った世界は空は夜のように暗く、床もとてもひんやりしており
精霊の気配など一つも感じられない、静かな場所だった。
「友春の妹が囚われてるのは恐らくエックスがいる場所だろうな」
「そこはどこなの?」
「それは」
―――――――ドオォォォォォォォォォォォ!
加奈の質問にエルンストが答えようとした瞬間、突然、
空から大量の桜の花びらがまるで滝のように友春たちめがけて落ちてきた。
友春達が全員、散りじりの方向へ回避すると上から声が聞こえてきた。
「お久しぶりですね。皆さん、そして裏切り者の精霊さん」
「サクヤ!」
友春が見上げるとそこにいたのはももいろ一色の服に身を包み、自らの周囲に
桜の花びらを浮かばせているサクヤがいた。
「あらあら、どうやらファーブニルと完全に同化したみたいですね。人間」
「あの時の借りは」
―――――ドドドドドド!
友春が炎を手に灯した瞬間、サクヤに向かって大量のミサイルが放たれるが
全て桜の壁によってサクヤには届かなかった。
「お前たちは先に行け。あいつは私が相手をしよう」
桜は背中の翼を羽ばたかせてサクヤに斬りかかるがサクヤの桜の壁に防がれた。
「友春君!」
「ええ、頼んだぞ!」
友春はサクヤを桜に任せて彩加のもとへと向かった。
「逃がしはしません!」
サクヤが友春たちに大量の桜の花びらを放った瞬間、突然、桜の花びらに
火炎放射がぶつけられ、一瞬にして燃え尽きた。
「ちっ! 人間が!」
桜の手にはバズーカの様な形をした火炎放射機が握られていた。
「人間を舐めるなよ? 桜同士、仲良くしようじゃないか」
――――ドオオォォォォン!
バズーカから巨大な炎の弾丸が放たれ、サクヤ姫を飲み込んだ。
「クソ! 雑魚が邪魔すぎるだろ!」
先を急いでいた友春たちを大量の霊兵たちが出迎え、なかなか先には進めずにいた。
「滅びろぉぉぉぉぉぉ!」
エルンストの掌から放たれたどす黒い何かは霊兵たちを喰らい尽くしていき、
ハルピュイアの雷を受けた霊兵は一瞬にして塵になり、ハモンの蹉跌の剣を受けたものは
真っ二つに切断され、友春の炎は一瞬にして塵にした。
「ちっ! 友春! あたしが道を作るからあんたは進め!」
「分かった!」
「おらぁぁぁぁぁ! 喰われろぉぉぉぉぉ!」
大質量の黒い何かが放たれ、大量の霊兵たちは一瞬にして消滅し道を作った。
「行くぜ!」
友春達は開いた道を一気に突き進んでいった。
「じゃ、てめえら雑魚はあたしが全部食ってやる!」
エルンストは狂気の笑みを浮かべて次々と霊兵たちを葬っていく。
「ありゃりゃ、凄い状況になっちゃてるね」
「お兄ちゃん!」
彩加とエックスの目の前には大きな画面の様なものが展開されており、
そこには友春達の行動が全て映し出されていた。
彩加は友春が助けに来た事に喜んでいた。
「いや~まさか、エルンストまで裏切っていたとは。僕は悲しいよ」
エックスはこの状況の中でも飄々とした雰囲気は崩さず、優雅に
先程入れてきた紅茶とケーキを食していた。
「余裕なのね」
「ん? そう見えるかな?」
エックスは青色の髪を揺らして、彩加に問い返した。
「結構、一杯一杯なんだよね。早く、力を取り戻したいっていうのもあるし。
まあ、石はファーブニル兼友春君が持っているらしいしね」
―――――パリン!
「っ!」
突然、飄々としていたエックスの雰囲気が一気に重苦しいものに変化し、
持っていたカップが砕け散ってしまった。
「邪魔なゴミは掃除しないとね」
―――――ピシッ!
「な、何?」
彩加が不安そうに亀裂が入った床を見つめる。
――――ボオオォォォォォォォォ!
「きゃっ!」
床から凄まじい熱量の火柱が立ち上り、あまりの暑さに
彩加は来ている服の裾で顔を隠した。
「よっと」
聞きなれた声が聞こえ、彩加は裾で隠していた顔を現すとそこには待ち焦がれた人がいた。
「お兄ちゃん!」
「よ、彩加。そして、エックス!」
エックスは友春の姿を見ると大きなため息を一つついて、
辺りに力を放出し威嚇行動をとった。
「全く、どいつもこいつも……人間は僕をイラつかせる!」
―――――ダッ!
エックスが走りだしたのと同時に友春も走りだし、お互いに力を纏わせた拳を放った。
「「オオオォォォォォォォ!」」
辺りには炎と青色のオーラが放出され、地面が抉られた。
「彩加は返してもらうぞ!」
「石は返してもらう!」
ぶつけた方の拳とは逆の拳がぶつかり合い、辺りの地面を大きく抉り、
二人の戦いの火ぶたは切って落とされた。
「いやはや、懐かしの精霊の世界だね」
暗躍する影、そして戦う者達。
これらが交わったとき、本当の最後の戦いが始まる。
皆さん! お久しぶりです!
公募制推薦も無事に終了し、後は合否の結果を待つのみになりました!
という訳で十一月に限定して一時復帰をしたいと思います!
よろしくお願いします! それでは!




