第27精霊
「……」
「あ、目が覚めました?」
日下部が目を覚ましたのはすでに日も暮れて空が真っ暗な時間帯だった。
「…最後までいてくれたの?」
「はい!流石にこんな夜遅くに日下部さん一人で帰らすわけにはいきませんから」
「…ありがと」
そう呟くと日下部は友春の前で寝まきを脱ぎ出した。
「ちょ!な、なんで脱ぐんですか!」
「ん?着替えるのよ…ああ、気にしなくていいわよ」
「こっちが気にします!」
友春は顔を真っ赤にして日下部のいる病室からダッシュで抜け出した。
「……案外優しいのね」
『おい、分かってるのか?』
日下部の着ていた服に入っている緑色のメモリから声が聞こえてきた。
「…心配性ね、貴方は」
『人間はよく分からないからな。あの男に惚れるなよ』
「……恋は気ままな風よ」
日下部はそういいながら服を着は気がえだした。
友春は日下部が着替えている間に会計を済ませていた。
「ん~。眠いな」
友春があくびをしているとポケットに入っている携帯が着信を知らせていた。
「は~い」
『お兄ちゃん?今どこにいるの?』
「ん?病院」
『何か怪我でもしたの?』
「俺じゃないよ。もうすぐ帰るから晩御飯は適当に食っておいて」
『は~い』
友春が通話を終えて携帯をポケットにしまったと同時に日下部が到着した。
「ごめんなさいね、迷惑かけちゃって」
「いえいえ、さ、帰りましょ」
友春は日下部とともに病院を出ると目の前に一台の黒塗りの車が停まり
運転席から初老の燕尾服を着た男性が降りてきた。
「お待ちしておりました」
「彼も送ってくれないかしら」
「承知いたしました」
「あ、良いですよ。俺は電車で帰りますから」
「まあ、乗っていきなさいよ。看病してくれた些細なお礼よ」
友春は一度は遠慮したのだが日下部がお礼というので渋々送ってもらう事にした。
「……この車まさかベンツですか?」
「ええ、安いね」
友春はベンツを安いと発言する日下部の財力に驚いていた。
店はいくつか経営はするわ頭脳は学園で一番いいわ会長は務めるわ
自分とは次元が違うなと感じていた。
「や、安いもんなんすか?」
「まあね、一か月のお小遣いくらいかしら」
(どんなけ貰ってるんだ?)
友春は今日一日で結構な数の驚きを体験していた。
「日下部さんて」
「加奈」
「へ?」
「今度から加奈って呼びなさい」
友春は一瞬戸惑ったが相手が下の名前で良いというので遠慮なく呼ぶことにした。
「加奈さんって凄いですね」
「……凄い…か」
「でも、案外可愛いところもありますすよね」
「……は?」
日下部は一瞬友春の言っていることが理解不能だった。
「いやだって、服とかもなんだか可愛いものとか選んだりしてたから」
「…それはつまり子供っぽいってことかしら?」
「そ、そういうつもりじゃ!」
「ふふふ」
加奈は友春の反応を面白そうに眺めていた。
そうこうしているうちに友春の家の前に到着していた。
「ありがとうございました」
友春がドアを開けて車外に出ようとした時誰かに腕を引っ張られた。
「…加奈さん?」
「へ?…あ、ごめんなさい」
加奈は無意識のうちにか友春の腕をその細い腕で掴んでいた。
「……また、デートしてくれる?」
「はい!こんな俺でよろしかったら」
「そう…じゃあね」
ちゅっ!
「へ?」
加奈は友春の頬に軽くキスをしてドアを閉めて車を出させた。
「……へ?」
突然の事に友春はボーっとすることしかできなかった。
「まさかお嬢様に恋人がいたとは思いませんでした」
「…まだ恋人じゃないわ」
「‘まだ”ということはもう直恋人になられるのですか?」
「……」
加奈は少し頬を赤く染めて窓の外をぼんやりと眺め始めた。
その様子を執事はどこか微笑ましそうに見ていた。
「……ファーブニル」
『なんだよ』
「何か俺幸せすぎて死んじゃいそう」
『……死ね!』
そう言ってファーブニルは深層の方へと潜っていった。
「…入るか」
友春がカギを開けて家の中に入ろうとした瞬間
「…」
「お帰り~☆」
「お帰りざんす★」
「くひひ、お帰り」
バタン!ガチャ!
友春の目の前には恐ろしい顔をした三人の鬼が玄関先で武装して
立っているのが見えた。
鬼に金棒どころか、鬼に核爆弾である。
(な、なんだったんだ今のは!彩加にハモンに茜がいた…いたんだけど
何やらいつもの顔じゃなくて凄まじく怖い顔をして立っていたような)
友春はもう一度決死の覚悟で家のカギを開けた瞬間
「うわぁ!」
一瞬にして何かに腕を引っ張られて家の中へと引きずり込まれると
反抗できないまま縄でグルグル巻きにされ三人に囲まれた。
「あ、あのおさん方?これはいったい」
「お兄ちゃん☆私言ったよね?デートするのはお兄ちゃんも
年頃の男の子だから良いとは言ったけど…ゴールまで行くのは駄目って言ったよね?」
いつもの可愛い彩加の笑顔なのだがどこか冷たさを感じる笑顔である。
「い、いやゴールまでは」
バチバチバチィ!
「ひっ!」
「おっと!ごめんあそばせ、すぐ近くを蚊が飛んでいたので
うっかり電気で焼き焦がしたざますの」
蚊を倒すくらいで精霊の力を使うのならば世界は恐らく
半壊しているであろう。
そして何故か茜はちゃぶ台を友春の前に置きかつ丼を置いた。
「なあ、友さんや。正直に吐いたらどうだい」
「いや、だから何を」
「証拠はもうあるんだよ」
「こ、これは!」
見せられた写真には日下部が友春の頬にキスをしている決定的な瞬間だった。
「もう言い逃れは出来やしないぜ?」
「……すいませんでした!」
何故かその場の空気に飲み込まれて友春は謝罪した。
「…俺なんであの時謝ったんだ」
今さらながらに後悔していた。
「ま、良いや……そういえばこれなんだろ」
友春は精霊と交戦した際に拾った宝石の様なものをズボンのポケットから
取り出してベッドの上で眺めていた。
「なあ、ファーブニル。これ何か知ってるか?」
『いんや、見たことねえな』
「ま、いっか」
友春は宝石をポケットにしまい就寝に着いた。
こんばんわ~感想ください!
にしても更新しないと本当に読者の方が低くなっていく。
まあ、もともと低いんすけどね(泣)
それでは!




