第23精霊
「さあ、これでお終いにしましょうか」
「げほっ!げほっ!」
グリモアの目の前には血を流して膝をついているハモンと彩加の姿があった。
2人とも体のいたるところから鮮血を流していた。
「はぁ、はぁ…」
「さようなら、お二人さん」
グリモアは斧を二人めがけて降りおろした。
{あぁ…ここで終わるざんすか……友春さん…友春さん}
{…お兄ちゃん…少し先にあっちに逝くね}
2人が死を覚悟した瞬間だった。
ゴオォォォォォォォォォォォォ!!!!
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
2人の間を通って炎がグリモアに直撃し大きく吹き飛ばした。
2人は慌てて後ろを見ると友春が眠っている病院を炎が完全に
包み込んでいた。
そしてもっとも奇妙なのが炎が踊っていた。
比喩ではなく本当に炎が踊っていた。
「ま…まさか…この炎は」
「…知ってるの?ハモン」
彩加がハモンに問う。
「向こうにいたとき一度だけ見たことがあるざんす。今みたいに
炎が踊っていた…この炎はファーブニルの物」
「え?」
そして炎の中から一つの人影が出てきた。
その影は腕を前に出すと凄まじい勢いで炎が霊兵たちを飲み込んでいき
燃やしつくしていった。
その人影は徐々に歩きだしそれに従って炎も広がっていく。
そして炎から出てきた人物は
「お、お兄ちゃん!!!」
友春だった。
「やっはあぁぁぁ!!!」
ゴオオォオォォォォォォォォン!!!!!
ハルピュイアはこれで何発目か分からない落雷をサクヤに落とすが
サクヤは桜を壁にしてその落雷を防いだ。
その瞬間、サクヤ達とは違う方面から炎が遠くの方から見えた。
「あ?何あれ」
「……そうですか…くふっ!」
「あ!待て!!」
サクヤは桜となってその場から消え去った。
「お兄ちゃん!!」
彩加は動いている友春に思いっきり抱きつきに行った。
友春は彩加を拒むことなく愛おしそうに彼女を抱きしめた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
「あぁ、聞こえてるよ彩加。心配掛けてごめんな?」
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
彩加は友春の胸の中で声を大にして泣き叫んだ。
医者からは一年もたないと宣告され絶望の淵をさまよっていたが
今は幸せの絶頂にいた。
目の前に大好きな兄がいる、目の前に愛している男が生きている。
それだけで彩加は救われた。
「ハハ、泣くなよ。ハモンも心配掛けて悪かったな」
「うぅ、良かったざんす。うんうん、良かったざんすぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
ハモンも声を大にして泣き始めてしまった。
友春はやれやれと言ったような表情を浮かべて2人を抱きしめた。
「感動の場面で悪いですが」
ゴオォォォォ!!!!
グリモアが振るった斧の衝撃波を炎が壁となり3人を護った。
「二人とも、ここにいろ」
「気をつけてお兄ちゃん!あいつ強い!!」
「あぁ、大丈夫さ」
友春はグリモアに近づいていくがふと彩加は疑問を感じた。
いつも彼が持っているメモリがなかったのだ。
{あれ?なんでお兄ちゃんメモリを持ってないの?}
「貴方がファーブニルですか」
「あぁ…よくも俺の妹とハモンを傷つけてくれたな」
友春の感情が上がるに伴い炎が地面から噴き出してくる。
「この炎熱…まさしくファーブニル」
友春は涼子が作った刀を持ち炎を集めると刀身が炎で構成されていき
その長さを徐々に伸ばしていった。
「…いいのか?構えなくて」
「ええ……貴方程度に劣る私では」
ザシュ!!!
グリモアが話している途中で友春は刀を振り彼を真っ二つに切り裂いた。
為す術なくグリモアは即死しその遺体は炎によって一瞬にして燃え尽きた。
「だから言ったろ?構えなくていいのかって」
友春は刀をなおし2人のもとへ行こうとした時上から声が聞こえてきた。
「…まさか、グリモアを倒すとは…それも一撃で」
見上げるとそこにはサクヤが立っていた。
「サクヤ…」
「…その炎…貴方まさかファーブニルを完全に覚醒させたのですか」
サクヤのその顔は驚きに染まっていた。
額からは炎の熱を感じているのか汗が滴り落ちていた。
「あぁ…ファーブニルはもう俺の相棒だからな。完全に
力を使わないと宝の持ち腐れになっちまう」
「……貴方をエックス様の命により抹殺します」
ゴオォォォォォォ!!!!
サクヤが友春に向けて大量の桜の花びらを放つが友春はそっと手を前に突き出した瞬間。
ボォオォォォォォォォオオ!!!!!
「なっ!」
友春の手のひらから炎が噴射され桜を一気に燃やしつくしサクヤに向かっていくが
彼女は身をよじらせて炎をかわすが長い髪の毛が炎にあたり焼けてしまった。
「っ!ちっ!完全にファーブニルの炎ですね」
「そりゃ、どうも…今度はこっちから行くぜ?」
ボボボボボボボボボボボボボ!!!!!
炎の小さな弾丸がサクヤに向けて放たれていった。
「くふっ!こんなもの簡単に避けれます!!」
サクヤは高速で移動しながら炎をかわしていくが
「がっ!」
突然横っぱらに衝撃が加えられて壁に激突してしまった。
(な、何が起きたのですか!?)
サクヤは自分が何をされたのか全く分からなかった。
炎の攻撃を避けていたら突然横っぱらに衝撃が来た、それだけしか分からなかった。
「どうした?姫様、こんなものか?」
「舐めないでください!!」
サクヤは大量の桜を友春めがけて放つが友春は炎で一対の翼を作り
空高く飛びあがり避けるが桜を操作して彼を追尾させた。
「それで避けたつもりですかぁ!?」
サクヤは桜を操作して彼を追いかけていくがまったく追いつけなかった。
(な、何故追いつけない!!)
「さあ、その鬱陶しい桜を燃やしてやるぜ」
友春は翼をクロスさせるとその交点に炎を溜めていき巨大な
火球を生成し桜にぶつけるとあっという間に燃やしつくした。
「わ、私の桜が」
サクヤは自分の桜を燃やされた事に悲しみを感じていたが今はそれどころではなかった。
以前戦った際には圧倒した存在が今では立場が逆になってしまっている。
友春は炎の翼を直して地面に降り立った。
「どうした?こんなものか?」
「っ!舐めるなぁ!!我の名において力のすべての解放を命ずる!!」
サクヤは霊解放の言霊を紡いでいく。
「我刃としてその花びらで敵を」
「そこまでだサクヤ」
「っ!シヴァ」
その時空間が歪みそこから男性の声が聞こえてきた。
「な、なんだなんだ?」
友春は目の前の光景に驚いていた。
空間がゆがんでその部分だけ三次元から二次元へと落ちていた。
やがてその歪みから黒の装甲を身に纏い漆黒の刀を携えた男性が現れた。
「シヴァ、何故止めたのです!」
「エックス様のご命令だ」
「っ!……分かりました」
サクヤは渋々その空間のゆがみに入っていこうとするが友春がそうはさせなかった。
「逃がすか!!」
友春は巨大な火球を生成しサクヤに放つが男性の漆黒の刀によって切断されてしまった。
「お、おいおい。炎を斬ったぞあの剣」
『あいつはシヴァ。人間界に初めて現れた精霊だ』
友春の頭に直接ファーブニルの声が聞こえる。
「…懐かしいなその炎。ファーブニル…いや、神崎友春!」
「っ!なんで俺の名前を」
「お前とも闘ってみたいものだ」
そう言い残し男性も空間のゆがみへと消えた。
サクヤが消失したことにより霊兵たちは指揮官を失い
さらには隊長の失ったことにより統率力がゼロとなり超解の隊員たちと
ハルピュイアによって殲滅された。
「あの炎…」
ハルピュイアがメモリに力を封じ込めそう呟いた。
『恐らく完全に覚醒したんだろう。お前とは違うプロセスで
完全覚醒したんだ。もう奴はメモリを使わずして奴の力を使える筈だ』
「……はっ!闘ってみたいものね~」
ハルピュイアを宿した女性は顔を狂気に歪めた。
「やあ、お帰りサクヤ」
「ただいま戻りました、エックス様」
ここは精霊達が住む世界、仮に霊界とでもしておこう。
霊界にサクヤ、シヴァが戻るとすぐさまエックスのもとへと向かった。
エックス、それは全ての精霊を束ねる精霊のトップでありまた最強の存在。
青い髪色の髪を持ち服は髪の毛よりも薄く青色で統一されており
また座っている玉座も全て青色だった。
エックスがいる大広間には他の精霊も何人かいた。
「かかっ!あのサクヤ姫がやられて帰ってくるなんてね~
そろそろ番号も交代かな?」
「黙りなさい、エルンスト」
サクヤに食ってかかったのは黒装束に身を包んだ女精霊、エルンスト。
エルンストは精霊の中でも異常なまでの戦闘欲を持ち強い奴と闘う事が
生きがいという戦闘狂である。
「だが……サクヤ姫も我々の中では強い部類じゃ…誰にやられた」
言葉の節々に年期を感じさせる喋り方をしているのはグース、
この集まっている精霊達の中では最も長く生きている。
「完全覚醒したファーブニルだよね?サクヤお姉ちゃん!」
サクヤをお姉ちゃんと呼ぶ幼い風貌の少女はヒュー。
「へぇ~。完全覚醒したファーブニルか……面白い」
エックスは玉座から立ち上がると他の幹部達が膝まづいた。
「僕たちの目的は裏切り者の三人を抹殺し人間どもを支配する事だ。
計画を進めるためにも君たちには人間界を襲ってもらう。良いね?」
「「「「「「この命!エックス様の為に!」」」」」」
「サクヤ」
「はい」
会議が終わった後サクヤはエックスに呼ばれ大広間に残っていた。
「君は任務に失敗したね」
「……はい」
「じゃあ、お仕置きだ」
そうエックスが言うとサクヤは一気に顔を赤くしだした。
エックスはサクヤに唇にキスをするとそのまま姫抱きにして
お仕置き部屋でもあるXの自室に向かった。
「はい、検査は終了だ」
「な、長かったぁ~」
友春は艦に戻ると涼子に抱きつかれ、彩加とハモンからジト目で
見られさらには検査だと言っていくつもの検査を受けさせられてようやく終わった。
脳波を測るだとかで頭にポチポチと何かを付けられCT、MRIなどなど
色々なもので体を隅々まで撮影された。
「にしてもよくあの傷を治したものだ」
一年ももたないと言われていたほどの傷を僅かな日数だけで
治したファーブニルが凄いのか死ななかった友春が凄いのやら。
「……あ、そう言えば」
「どうかしたのか?」
「確か人間に協力してる精霊って三体ですよね?」
「ああ」
「後もう一体は誰なんですか?」
友春がそう聞くと優は少しの間、黙ったがすぐに話し始めた。
「そう言えばまだ言ってなかったな…残り一体は既に覚醒している」
「誰なんですか?一回挨拶でも」
「駄目だ…それは出来ない」
友春が喋っている途中で優によって止められてしまった。
「…ひと先ず君はもう帰れ」
「え、あ、はい」
友春は優に言われるがままに帰っていった。
お久しぶりです!如何でしたか?
あぁ~なろうで感想の返信を書くのがなくなると考えたら…泣けるで!(泣)




