第22精霊
『よう、お目覚めか?』
「……ああ…」
俺が意識を再び覚ますとそこはやはり火の海だった。
とてつもなく暑く、強さが伝わってくるような炎だ。
俺が使っていた炎は線香花火みたいなものだった。
『一つお前に訊こう』
「…なんだよ」
『これからも俺とともに闘う気はあるか?』
……以前の俺ならはっきりと首を縦に振れたのだが今の俺は
首を縦には振れなかった。
さっき戦ったサクヤとの戦いもそうだしハモンと闘った時も俺は怖かった。
相手は俺を殺す気でかかってきているのに俺達は対話を目的としていて
完全に協調できないと判断してから倒さないといけない。
その間に殺されるかもしれない……俺は怖い。
霊兵の群れは友春が眠っている病院の目の前にまで押し迫っていた。
「は~い、そこまでざんす」
霊兵たちの前にハモン達が立ち塞がると
隊の中から一体の霊兵が前に出てきた。
「これはこれはハモン様。なつかしゅうございます」
「霊兵隊隊長、グリモアざんすね?」
グリモアと呼ばれた隊長は他の隊員たちとは明らかに鎧から武器まで全てが違っていた。
隊員たちは一本の刀を帯刀しているがその隊長格は巨大な戦斧を持ち
さらには腰に2本の長刀を帯刀していた。
「ハモン様、その他の精霊様。そこを退いてはくださらぬか?」
「NOと言ったら?」
「殺すだけだ」
グリモアの雰囲気が一気にピリピリとしたものに変わった。
「んじゃあ……譲れないっすね」
ハモン達はメモリを己にさして力を取り戻すと一斉に全員が
霊解放を始めた。
「我の名において力の全ての開放を命ずる。雷、ことごとく我が
刃となり、雷、我が楯となりて全てを滅ぼせ!!!!!」
「我の名において力の全ての開放を命ずる。我が刃よ!
我の名のもとに全てを切り刻め!!」
「我の名において力の全ての開放を命ずる。我が龍よ!
我と一体となり全てを踏み潰せ!!!」
「我の名において力の全ての開放を命ずる。我の拳よ!
全てを薙ぎ払え!!!」
「我の名において力の全ての開放を命ずる。我が矢よ!
全ての敵をうちぬけ!!!!」
次々と霊解放が行われていき地面が大きくへこんだ。
「残念です。貴方がたを殺すのは」
「やられるわけにはいかないざんすよ!!」
ハモンの放った落雷が試合開始のゴング代わりとなった。
「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ハモンの蹉跌の刀が複数の霊兵を貫き、巨大なドラゴンとなった
者の火球で一気に葬りまた、巨大な弓から放たれた複数の矢は
次々と霊兵たちの頭部を貫いていった。
「流石はハモン様ですね」
グリモアは笑みを崩すことなくハモンの前に立った。
「前々から闘ってみたかったざんす。うんうん、
戦ってみたかったざんす。霊兵隊隊長を務める貴方と」
「これはこれは。ありがたき幸せなり」
ズゥゥン!!!!
グリモアが巨大な戦斧を地面に置いただけで地面が大きく陥没し
砂ぼこりを撒き散らした。
「では、この斧の砥ぎ石となってもらいましょう」
「それはお断りざんす!!!」
キィィィィィィン!!!!
ハモンが蹉跌を鞭の様に振るいグリモアにぶつけようとするが
グリモアは戦斧の刃の部分でそれを防ぐとそれを背負って
ハモンに近づいていった。
「喰らいなさい」
「っ!」
ズガァァァァァァァン!!!!
グリモアが軽く斧を振っただけで数十メートル先まで地面に
斬撃の跡が伸びた。
「この位で驚かれては困りますぞ。まだ、1割です」
「っ!凄いざんすね!!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
凄まじいほどの落雷が次々にグリモアに降り注ぐがグリモアは
斧でそれらを真っ二つに斬っていった。
「雷を斬る斧初めてざんす」
「この斧はエックス様からいただいた最強の斧です。
この斧はひと振りで地面を砕き全てを切断すると言われています」
グリモアが斧を横に振ろうとした時だった。
ピキピキピキピキ!!!!
「ん?足が凍ってしまいましたね」
「さ、彩加さん!!」
上を見上げるとそこにはレヴィアタンをその身に宿した彩加がいた。
「…死になさい」
背筋が凍りつくような低い声音で彩加がそう呟くとどこからともなく
大量の水が彩加に集まってきた。
「ほほぉ~。流石はレヴィアタンを宿した者、遠くの海水を
ここまで持ってくるとは…しかし、まだ彼女とは比べ物になりませんね。
彼女がこちらにいたときは水を持ってくるたびに洪水が起きましたよ」
グリモアは余裕なのか顎に手を当てながらそう言った。
「……凍りつけ」
冷たい呟きとともに水が龍の形に変わり瞬間的に
凍りつき10は優に超えている数の氷の龍が完成した。
「ほほ~。まるで曲芸ですな」
「…死ね」
ゴオオォオォォォォォォォオォォン!!!
氷の龍がまるで生きているかのように咆哮をあげながら
グリモアに猛スピードで近づいていった。
「ふん!!」
バキィィィ!!ガッシャァァァァン!!!!
氷の龍は跡形もなく綺麗に斧で粉砕された。
「……あんた達がうるさくしてるから…お兄ちゃんがゆっくり寝れないじゃない!!」
「彩加さん!ああもう!!」
彩加はジャベリンを持ちグリモアに近づいていき接近戦を試みに行き
ハモンは彩加に続く形で蹉鉄を自分の周りに配置し突撃していった。
「はぁぁ!!」
キィィィン!!!
彩加が振るったジャベリンと斧がぶつかり合い火花を散らした。
「隙ありざんす!!」
「甘い!!!」
ハモンは蹉跌を伸ばしグリモアを貫こうとするが空いている手で
振り払われた。
「な!素手で蹉跌を!!」
「素手ではありませんよ。手に力を流し込んで
コーティングしたんです。ふん!!!」
「ぐふっ!」
グリモアは彩加を持ち手の部分で腹部を殴り吹き飛ばした。
「彩加さん!!」
ハモンは吹き飛ばされた彩加を地面に落ちる前にキャッチした。
「さあ、これからですよ」
「くっ!」
ハモンは今の状況に歯ぎしりした。
霊兵の数は減るどころか増えており徐々に状況はハモン達が劣勢になってきていた。
「……なあ、ファーブニル」
『何か用か?』
友春は炎の海の遥か上の所で浮いていた。
「今、彩加達はどうなってるんだ?」
『…これみろよ』
何もないところに炎が長方形に展開されていきそこに映像が映し出された。
その映像にはハモンや彩加、そして超解の面々達が戦っている様子だった。
彩加もハモンもところどころ斧で切られ血が滲んでいた。
「彩加!ハモン!!……ファーブニル…俺に力を貸してくれ!」
『…お前が俺の力を使いこなせるとは思えない』
ファーブニルが呟いた事実に友春は一瞬たじろいだ。
「……確かにそうかもしれない…でも!俺は彩加を!皆を護りたいんだ!
これから生活習慣だって変える!早起きだってするし寝癖もちゃんと整える!
戦闘馬鹿達の鍛錬も毎日やる!だから俺に力を貸してくれ!ファーブニル!!」
数分間ファーブニルは黙っていた。
『……だったらこの炎の海に飛び込んでみろ』
「っ!」
友春は恐る恐る下を見るがそこは炎が踊るように燃え盛っており
結構な高さのところにいるにもかかわらず熱が来るほどの炎だった。
そこに飛び込めば確実に死ぬ。
だが友春は止まるわけにはいかなかった。
「……分かった…なあ、ファーブニル」
『なんだ』
「…俺は心の中でお前の事…怖がってた…でももう怖がらねえ。
お前は……俺の大事な相棒だ」
そう言い友春は炎の海の中に飛び込んだ。
『ようこそ、友春――――――精霊の世界へ』
如何でしたか?良ければ感想ください。




