名探偵ゼップル登場!
「こんにちは」
コージマがディーターの邸を追い出されてから、約二日が経過していた。
「まあ。これはアクセル伯爵様」
コージマは自らでむかえ、この将校ゼップル・フォン・アクセルに挨拶をする。
「堅苦しい挨拶は抜きにして、おばさま。大変でしたね、オスカルのこと」
ゼップルは将校のしるしであるヘルムを脱ぐと、ソファに腰をかける。
「ええ、そのことで相手の方にちょっと・・・・・・」
コージマは葬儀にも顔を出さないディーターに不審を抱きつつあったことを告げると、ゼップルは身を乗り出して協力したいと申し出た。
「おばさまには世話になった身だ。なにせ・・・・・・身よりもない僕に、オスカルと同じような愛情を注いでくださり、ボヘミアの大学にまでやってくれた。おかげで今は出世し、貴族を称号も得られました。僕は今こそ、恩返しのときだと考えます」
「アクセル様・・・・・・」
コージマはハンケチで涙をぬぐうと、
「わかりました。ふたりでオスカルの仇を討ちましょうね」
決意を胸に、ゼップルの両手をかたく握り締める。
「ところで、おばさま。彼の描きかけていた絵ですが、まだ完成しなかったのでしょう? 僕に見せてほしいんだけどなあ」
オスカルの描いていたものは、ゼップルの肖像画。
キャンバスにかぶせられていた布をめくると、真っ白なオーストリア軍の軍服に身を包んで、すまし顔をしたゼップルの姿が、凛々しくも、勇ましくも写って見えるのが不思議であった。
「ほんとうに、立派になられました。これでオスカルが生きていてくれたら・・・・・・」
「そんな、おばさま。さあ、弱音を吐いてばかりもいられません。これからが大勝負なのです」
「大勝負?」
ゼップルはコージマに大きくうなずいて答えた。
「そう、博打ですよ。なんとしても彼が殺されたという証拠を見つけなければ。ただでさえ、相手は憎らしい貴族です。といっても、あのダンクヴァルトなど、公爵になれそうでいてなれない、へっぴり腰の少尉にすらなれぬ器でしかありません。実は僕の邪魔ばかりをしてきて、やつは将校の地位に就きたがっているんですよ・・・・・・外道め!」
「なんということ」
「ですから、なんとしても真実を突き止めるんです」
コージマはそんなことを露とも知らない、ただの女でしかなかったことを思い知らされると、はらはら涙をこぼしながら、ゼップルを今の地位から引き摺り下ろすわけには行かないと、固く誓うのであった。
「あなたのことはわたくしが、命がけでお守りするわ。最初こそ、謝ってもらえたらすむと思っておりましたのに、あなたからも地位をうばおうだなんて、虫のいい話ですわ。おばさまにお任せなさい」
「いや、そのことよりも、オスカルの仇が先決です」
コージマはそれはそうだが・・・・・・と考えあぐねるのだが、今、彼から士官の地位を息子の仇相手から奪わせるわけになど、いかなかったのだから。
「おお! 神様。どうしてあなたは、このように酷い仕打ちをなさるの!? わたくしの子にばかりでなく、ここにおわすアクセル様までも不幸になさろうというの」
「あまり気にはしていませんから・・・・・・」
コージマは思い込みが激しいというか、ここがゼップルには付き合いにくい理由でもあった。
根はいい人なんだけど、ゼップルは苦笑しながら心の中で、そうつぶやく。
う〜ん・・コージマのキャラは、パルムの僧院のジーナおばさんに似てる・・笑