序章
時代背景
約十八世紀〜十九世紀
プロイセン(現在のベルリン)
登場人物
【誤射する貴族】
ディーター・フォン・ダンクヴァルト
【悪巧みの天才】
ナータン
【撃ち殺された青年】
オスカル・アレンシュタイン
【青年の母】
コージマ・アレンシュタイン
【ライプツィヒの将校・主人公】
ゼップル・フォン・アクセル
※ナータンの性格は『兵士シュヴェイクの冒険』のシュヴェイクと見てほぼ間違いないっ!
おまけにゼップルとナータンの登場は、じつはあとから加えられたもの。
最初はオスカルとアンドレ・・じゃなくっ、おっさんだけにしようかと思ったんだけど。
「ダンクヴァルト様。ようく狙ってくださいませ」
木漏れ日が木々の隙間から漏れ、きらきらと輝く鬱蒼と茂った森の中。
二人組みの男がいのしし狩りを楽しんでいた。
ひとりはひげ面で、フランスの文豪ヴィクトル・ユゴーとか、ロシアの音楽家・アントニン・ドヴォルザークを思わせる。
もうひとりは細面で狐目が、彼のずるがしこそうな性格をそのまま現していた。
側近のナータン――狐目の男が、ディーター卿――ひげ面のほうのご機嫌をとる。
「待て待て。狙いを定めて・・・・・・と」
舌なめずりをさせつつ、銃の引き金をゆっくりと引く。
「あッ!」
ナータンが素っ頓狂な悲鳴を上げ、転がる勢いで駆け抜けていく野うさぎにつまずき、その拍子でディーターはあろうことか、引き金をうっかり引いてしまった。
弾は、通りかかった青年の肉体を貫通し、誤射してしまったのであった。
ディーターは貴族だったが、戦争に参加しない卑怯者でもあったので、人を殺すなどとはまさか、思いもよらずにいたのだった。
「ナータン。ナータン。わしはいったい、どうしたら、どうしたら」
「落ち着いてください。ダンクヴァルト様」
ナータンは先ほどまでと打って変わり、厳しい表情をしながら、ディーターに告げた。
「心臓を一発で撃たれ、即死です。このままだとあなたは第一級の殺人者にされるでしょう。そうなれば、爵位も剥奪」
「そんな。わしはどうしたら」
「落ち着いてください」
ナータンは含んで笑った。
「私に最良の知恵がございますゆえ」
撃ち殺されたのは、オスカル・アレンシュタインといって、齢はわずかに二十歳の、将来有望な青年であった。
彼の父親は男爵の地位を受け継いでいたが、四十代でフランスとの戦争に散った勇士であり、莫大な遺産がオスカルには残されていた。
ところが、突然の予期せぬ死亡通知に、母親は思わず貧血で倒れそうになってしまう。
「奥様、しっかり」
メイドのナターリエが婦人を支え、どうにかソファまで運ぶ。
「ナターリエ。オスカルが・・・・・・かわいいあの子が、猟銃で撃ち殺されたのですよ」
「しかし、撃ち殺されたかどうかまでは」
ナターリエの言うとおりだと、コージマ・アレンシュタインは唇をかみ締める。
「お気を確かに。ここで奥様がどうにかなさったら、わたしら使用人は、いったいどうすればいいんです。路頭に迷うなんてごめんですよ」
「ああ。そうだったわね。ナターリエ・・・・・・」
「でもあれですねえ。相手の撃った人、ひとことくらい謝ってもいいじゃないですか」
コージマは眼光を鋭くして、核心を突こうとこうナターリエに告げた。
「そうですよ。ひとことくらいあってもいいでしょうに」
そこでコージマは、葬式を早々に済ませた後、ディーターの邸を訪ね、息子の葬儀が無事終わりましたが、真実を知りとうございます、と告げる。
しかしナータンがコージマと対面したのだが、
「だんなさまはお休みだ。それにあれは事故だと申しておるだろう」
「ですが」
と、コージマも引き下がらない。
ナータンはあまりにもコージマがしぶといので、衛兵に追放させるよう命じると、扉に閂をかけた。
「お願いです。息子の墓前で、どうか詫びてください! それだけで、それだけでいいのです!」
ナータンは、厄介な女だと、ため息をつきながら、扉を頻繁にたたき続けるコージマを疎ましく思い、窓の外を眺めるのであった。
歴史+推理ものといった、アガサ・クリスティ風(謎。
メイベルはでてこないけどね〜w