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雨降りの午後

作者: 琴羽

早く私もこの雨降りから抜け出したいな、なんておもう今日この頃。


微鬱注意。

 最近になって思う。私がこの学校に入学したのは間違いなんじゃないかって。入学当初は、初めて着るブレザーにはしゃいだり、新しくできた友達と登校したりと、世界が輝いて見えた。

 そう、入学当初は。

 あれから一ヶ月。早くも私はこの世界に飽き飽きしてきた。というより、なんとなく自分に合わない気がしてきたのだ。別に入学当初から劇的になにか変わったわけではない。相変わらず課題は多いし、授業のスピードは速い。ノートをとるのが精一杯だ。みんなはもっと要領よく課題とかをこなしているみたいだった。私も、きちんとやるべきことはこなしている。課題も提出期限に遅れたことはない。だけど、そのほかにプラスアルファとしてなにをすればいいのかがわからなかった。

「はぁ」

 頬杖をついて窓の外を見る。空から何万粒と落ちてくる雫が窓にはりついていた。その向こうにはべっとりとした灰色の雲。まるで、絵の具を塗ったみたいな。

 昔、絵が苦手だった頃に、ああいう塗り方をしたことがある。面倒くさがりな私は、パレットに絵の具を出し、水もろくに混ぜないでパレットの上に絵の具をのせた。ぬちゃ、という音が聞こえた。それは決して気持ちいい音じゃなくて、なんだかそれっきり筆を握る気力が失せた。結局私は、満足のいかない絵を提出したのだった。

 窓を開けていないので、教室の空気は静止していた。時折、下敷きで扇がれて動くくらいだ。じめじめとした空気は肌にはりついて、あんまり気持ちいいものではない。ノートは腕の汗でびよびよになっている。だから、雨の日は嫌いだ。じめじめしているのもノートが汗でびよびよになるのも、全部雨のせいだ。

 ふと顔を上げて黒板をみると、だいぶ先まで授業は進んでいた。とりあえず、急いで黒板を写す。まだ中学校の内容だから多少授業を聞いていなくてもかろうじてわかる。その証拠に、中学校までの内容がすっかり頭に入っている人は寝ている。その気持ちもわからなくはない。中学校に一度やったことをなぜ高校に入ってまでやらなければいけないのか。学校としては、まだ中学校の内容がわかってない人への配慮だろうが、そんな人はクラスに数人しかいない。ましてや、このクラスは特進クラス。中学の内容がある程度頭に入っていないと、ここには受からない。

 一際雨の音が強くなった。どうやら小雨から大雨に変わったらしい。それでも窓に目を向けるクラスメイトはいなかった。一心不乱に黒板を見つめているか、夢の世界に行っているか。なんてつまらないんだろうと思う。結局特進クラスの子は小雨でも大雨でもどうでもいいのだ。

 いい大学に入ることを目的とするこの特進クラス。高一のときから授業数は毎日七時間で課題は毎日でる。遊ぶ暇なく次の日がやってくる。そして昨日と変わらず、黒板に向かいノートを写す。すべて、機械的だ。ただ淡々と、目の前のことをするだけ。感情さえも無い。疲れたという暇も無い。

 あの頃はまだ良かった。周りには知らない人。そして真新しい制服と教科書。毎日毎日新しいことが行われた。クラス写真の撮影。授業の受け方の説明会。中学校でも行われている身体測定までなんだか楽しい気分になった。

 それなのに……。

 チャイムが考えを中断させた。先生はどうやら雑談をしていたようだった。黒板はさっきと変わっていない。いつもどおり、機械的に挨拶をして授業は終わった。

「ねぇ次、音楽だよ。早く行こう」

 仲良くしている女の子が声をかけてくれる。扉の近くではもう、用意を済ませた級友が待っていた。

「うん、音楽室遠いもんね」

 前言撤回だ。私がこの学校に入学したのは間違いじゃないと思う。だっていつもそばにいてくれるクラスメイトがいるから。間違いなのは私の行動のほうなのだ。毎日毎日機械的にしか動けないから、こんなにつまらない。もし、一つ一つ丁寧に動いたなら、きっと新しい発見が待っているんだろう。

「ほーら、行こう!」

 待っている級友たちに向かって歩き出す。その先にあるのは、真っ青に晴れ上がった空だった。

みなさん。授業は真面目に聞きましょう。

なんて私が言える立場でもないんだけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よくこんなことが考える事ができるなんで、流石凄いです。頑張って下さい。
[良い点] ものすごく「月丘琴羽」自身の実感が溢れていて、一字一字が眩しい… あと前半の、地震の不安を書き綴ってるところの描写は秀逸。 [気になる点] 前言撤回があっさりすぎる感… 友達と、これまで具…
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