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勇者って呼んでっ!  作者: 未獅 メル
第二章 ストーカー事件
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二話 馬鹿なメイドとチキンな執事。

「ということでね……岩槻君がね……守ってもらうならチキンな蒼君が良いって……言うからね、たたた、た、頼んでみようと思います!」

 日曜日に朝起きを葉也ようやに要求されて、深月先輩に部活の招集、挙句の果てにはミユを守れと言われて渋々承諾をして……一人だけで居た部屋のドア越しににて、今は会話中。誰がチキンだよ!

「だったら”チキンな僕”なんかより葉也で良いじゃん」

「えっとね……私の横に今、ナッチーが居てね……」

「大丈夫! 僕が守りますから!」

 慌てて勢いよくドアを開けるとそこには図書館のときと同じメイド服姿で体育座りをしたミユが居てあの悪魔はいなかったようで……騙された。

「よろしくね、蒼君!」

 勢いよく起き上がって僕の首へと両腕を回して飛び付いてくるミユ。僕は照れ隠しのようにミユを剥がしてから頬を右手で掻くと何を思ったのかミユは頬を染めて挙動不審になり勝手に部屋の中に入り僕のベットへと隠れて行ってしまった。あぁー何してんだ僕は。



「――お、男の子ってベット下に……幼い女の子のえっちな本とかあるんだよね?」

 偏見なご意見だ。それに付け加えて勝手にベットの中から下を覗くのはどうかと思うんだが。案外部屋は広くて例えるなら教室半分はあると思うんだが感覚は人それぞれだな。

「無いよ。ところでミユ」

「今は心も体もメイドなんよ!」

「知らんわ。……分かったから色気の無い胸から拳銃取り出すの辞めてくれ!」

 さすがにビービー弾浴びたら精神的ダメージを請け負う気がするからな。

「色気の無いって……やっぱり乙女心も何も理解してないよね蒼君って」

「?」

 何を困ってるのか苦笑いをして最後の方の言葉が聞こえなかったようだが色気の無いのはしょうがないかと……生まれつきって奴。僕だって生まれつき……勇者になりたかった訳じゃないのに……。


「そういえばミユ。この学園にある噂の勇者伝説ってどんな噂なの?」

「唐突だね……別にいいけど。伝説と言っても都市伝説みたいなものだよ?」

 ベットの中で鼻から下を布団で隠しているミユの少し手前に椅子を置き聞く姿勢を取る僕。正直、女の子に自分の布団を包まれるのは……ちょっと恥ずかしいがそれどころじゃないか。

「一応……”勇者伝説探求部”の一員だし、聞き損ってことでもないでしょ」

「確かにそれは正解な選択肢だね。じゃあこの学園の勇者伝説を話すね……電気消してカーテン締めて」

「お、おう」

 電気を消してカーテンを指示通り締める僕だが……これは怖い話するときの雰囲気とかと間違ってないか? そんな疑問はお構いなしにミユのお話が始まったのだった。


「退魔の剣って言った方が早いかな?」

「語らないで疑問形で説明するの?」

「いやいや、語るものではないよ。受け継がれるものだよ!」

「同じだよ!」

 意味が全く同じと言うことを理解していないミユは知らなかった恥ずかしさなのか布団の中へと籠り「蒼君の馬鹿」と呟いているが僕は何も悪いことしてないよ。椅子から平然とした態度でミユの動きを監視するが「良い匂いするね!」とはしゃいでいる。勇者伝説は何処いずこへ。

「匂いなんて誰にでもあるからね」

「男の人の匂い……始めてなんだ、えへへ」

 妙に恥ずかしさが匂いの事より勝って顔が暖かくなる僕……。

「良いですから続きをお願いします!」

「しょうがないなぁ」

 照れ隠しをこの暗い部屋で行う意味ってことだが……顔を伏せてしまう。


「勇者伝説は本来の形はそのさっき言った退魔の剣を持った斬新な勇者の伝説なんだよ」

「確かに斬新だな。それでどんな伝説を作ったの?」

「その伝説を作った人は『イチハタ』って人。その人は最初平民だったの。毎朝のように通う悪魔の集まりやすいって悪評がある山へ登ってね、襲われたの……ガァォ!」

「そこまではまるで昔話ですね。最後の方だけですが舌切雀の劣化版のような感じですね」

「驚いても良いのに……蒼君の馬鹿」

「はいはい。ところで続きを」

「嫌だ。蒼君が驚いてくれないと!」

「どんなだよ……分かった驚く。ウォォォォ!」

「おでこから転んでくれないと嫌!」

「どこの芸人?!」


 ガチャ――まるで部屋のドアが開いたようで……そのままの表現で合っていた。

「蒼君! 誰か来たけど……先生だったら厄介だから布団の中に来て!」

「嫌ですよ! そもそもなんで厄介なんですか?」

「男女接触禁止って学園の……」

「布団の中へ入った方が厄介ですよ!」

「良いから……来い」

「あ、ハイ」

 拳銃を額へと目標に構えるミユ……そして従う哀れな僕。布団の中へ急いで潜りなるべくミユに身体がくっつかないように外側へと身体を向ける。だが……背中に思いっきり抱き着いてくるミユ。

「ちょ、ちょっと」

 小声で声を掛けるが応答なく強く握りしめてくる一方……待てよ、僕。今日の朝言われた……ストーカー犯なのかもしれない。僕はベットから身を強引に出して開き掛けてあるドアへと視線を送り、一歩一歩へと足を進めて行く。ミユに至っては布団へと包まってある意味正しい処置をしている。

「私を守るって言ったんだから……頑張ってよチキン執事!」

「わ、分かってるけどさ! ……」

 ダメだ、一歩一歩が小さくて足が竦んで少しずつしか動けない。馬鹿だろ……僕は一度言ったことも守れない臆病者になってしまったのか……。目の前に何かが動く音……床との擦り音……剣道経験者!

「?!」

 すかさず空気を切るような音。身体が反射的にギリギリと左へ避けるも肩には竹刀が掠り学ランが傷む。経験者なのは分かったが暗くて影が見えない。何を言おうとも僕は視力〇、三なのだから……。音で反応するも次次へと足さばきの音に翻弄されて竹刀の振りかざす音が聞こえない。

「お、お前誰なん……っだ!」

 ブンブン、そんな音が耳元で響き竹刀へと目線を向けると足が払われて僕は態勢を崩して床へと尻持ちを付く。次の瞬間だった――竹刀が僕へと振りかざされた時、「蒼君を苛めるな! 苛めていいのは私だけなんだからっ!」そう叫んだミユは僕には見えない影へと体当たりをする。影が床へと衝突した音。安心をする余裕はまだない……。ミユの元へと駆けつけて手を伸ばして立ちあがらせてその場を離れる。

「イタタ、私頑張ったよ!」

「良くやったと思う」

 表情は見えないが彼女の声は弾んでいてテンションが高くて……自分と比べると……。

「……橘蒼汰たちばなそうた

 影が僕のフルネームを呼ぶ……。どこかで聞いたことのある声の主。どこで聞いたんだろうか――




「上級生殴るなんて変わってる」

「……誕生日プレゼントくれる蒼汰の方が変わってる」

「付け加えて去年、僕が苛められてた時にいじめっ子四人衆を一蹴するアリスの方が変わってる」

「琴音さんが大好きな蒼汰……シスコンで変わってる」

「なっ?!」

 少しの間が開いてお互いに笑いをこらえて、横尾道場のすぐ脇の公園のブランコに座り思いっきり爽快に笑う。笑うとはこんなにも爽快に感じたことは……無かった僕。いままで苛められてた過去。全てアリスが水に流すように助けてくれた。剣道でもアリスが輝いて見える。全てにおいて今の僕にはアリスが必要になっていた。

「蒼汰のお嫁さんになりたい」

「僕もアリスのお嫁さんになりたい!」

「お婿さんの……間違え」

「そうだね」

 小学三年の夏。僕とアリスはお互いにそうやって意識をしていたんだ。この関係がいつまでもいつまでも続きますようにと天の川にいる織姫と彦星に向かって……。


 だが現実はそう簡単に上手くはいかなかった。

「その手紙、早く捨てろよ。どうせ秋山からだから捨てられないとか?」

「違う!」

 小学四年生。ラブレターを異性へと渡すのが流行っている中、僕はアリスからラブレターを貰った。去年確かにお婿になりたいと言った……だけどこんな形でとは予想もしてなかった。

「だったら捨てろよ。『僕は秋山ノビルは嫌いです』って言いながらよ」

 放課後の教室にはアリスはいない。今いるのは僕とアリスに一蹴されたメンツと女子のアリスを嫌うグループ。アリスはいない……だから大丈夫。そう思った。

「ぼ、僕は秋山ノビルが嫌いです!」

 思いっきり手に力を込めて手紙を引きちぎりゴミ箱へと投了する……。アレ、おかしいな……目からしょっぱい水がたくさん流れて……心がとても傷む。なんだよ、僕は悪くないのに……。


「秋山さん、見てよアレ」

 気付くと教室の入り口でそのアリスを嫌うグループの数人の女子がアリスを呼んでいたらしく、アリスはただ無表情で教室を立ち去ったのだ。やり過ごせない思い……。怒りと何かが入りまじって……理性が狂った。

「ふざけんな! よくも騙したな! このゴミ人間ども!」

 中心核の男子を飛び蹴りで押し倒してひたすら殴り続ける僕。それを呆然と見過ごす周りの連中。そこからの僕の記憶は一生捨てがたい記憶となったのだ。



 そしてその日から道場であってもアリスと話す機会が無くて一年が過ぎた。

「えっと、残念ながら橘君は父親の転勤で引っ越すことになりました」

 担任の言葉が耳に入らないぐらいに心が荒んで何もかもやる気が出なかった。絶望的だった……。まわりのクラスメイト達はコソコソと話してどうせ嬉しがっているんだ……そう思った。



その日の夜、一本の電話が家にかかってきた。非通知で「……ごめん」

それはきっと僕の推測ではアリスであって、涙がまた出てきて泣き崩れたんだ僕は。





あの頃から勇者になりたくて通った横尾道場。何も進展してなんかしてなかったんだ。他人にいつまでも支えられて僕は『勇者』の言葉の意味も全部理解はしていなかったんだ――

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