一話 事件発生?
季節は夏。五歳から始めて、小学一年になった今年、僕の通う横尾剣道道場に女の子の新入生がやってきた。黒髪が腰まで綺麗に線を描くように……大和撫子とでも言わされざる負えない容姿。何もかもが”完璧”な彼女がやってきたのだった。
当然一年のブランクがある僕にとっては何よりも嬉しくて、悲しくて……実力の無い僕にどうやって彼女に勝てるのかなどは考えてみるも、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「……よろしくね、橘君」
ハッ、と我に返り僕は彼女の差しだすその手を優しく握り、ぎこちない笑みで「おう」と応答。照れ隠しのように僕は頬を指先で掻く癖を彼女は見て笑っている、これが彼女との出会いであった。
彼女の名前は秋山ノビル。何故か訳あってアリスと呼ばないと返事を返してくれないのだ。
アリスに興味を抱き始めた僕は稽古の無い日も毎日道場へと通い、いつもアリスの練習をしている姿を見ていたんだ。そんなある日だった――
「この道場は女子禁制ってどういうことですか先輩!」
稽古が始まる三十分前に道場へ入ろうといつもより早めに来てみるとアリスの叫び声が道場へと響いた。何事かと駆け足で中へ入ると涙目で上級生の男子に訴える姿がしっかりと見受けられた。
「女子禁制だからだよ。第一女子が剣道なんて、男に勝てない癖によ」
何かが切れたような音がした……。しゃがみ込んだアリス。そこから一瞬の出来事のようにアリスの左腕がその上級生の男子の鳩尾へと綺麗に入って行き、「ダメだよアリス!」と叫んだもの遅く、上級生男子を殴り飛ばしたのだった――
「橘君、起きないとあの部長に怒られますよ?」
「――んっ」
目を微かに開けて気付くと目の前に……男が……思考回路が五秒フリーズした。色素薄めの茶髪男なのだが何か清楚感がある……。え? ベーコンレタスな展開?! 布団を足でめくり上げて勢いよく腹に力を入れて起き上がるも二段ベットの特徴として一階にはベタな事故を要求する天井と言う物があり、再び枕へと頭を落とす。
「痛っ?!」
頭部を押さえて渋々と条咲学園の体育着でベットから出てくると相部屋の岩槻葉也が相変わらずな笑みで「大丈夫ですか?」なんて言っているが内心「ざまぁー」だろうな。
いつものような「心配ありがと」と相槌を打つが彼はなにやらそれが気に食わないのか部屋の片隅にある葉也の書棚から毎回、『人間心理』という謎の本を開いて頷きながら熟読し始める。
この学園へと入学して六日が立ち、そろそろ葉也との相部屋も慣れてきた頃。相部屋はランダムに組まされていき、同じクラスメイトというのは珍しいぐらいと担任談。条咲学園へ今年入学した生徒は二一〇人。一クラス三〇人前後なために確かに割合的には珍しい。
それと幼い頃の自分の夢を見るのも。
「邪魔するぞ。入って良いか?」
最後の一文が僕には理解出来なかった。言う前に扉を開き、一歩二歩と部屋に侵入してから言うのはどうかと。入ってきたのは深月先輩で今日は僕と同じ体育着。勿論、透けない。
「入ってるじゃないですか深月先輩」
「堅い事は気にするな……ってなんでお前は俺から何かを守ろうと下半身を抑えるんだ! 破廉恥だ馬鹿!」
堅い事は気にするなって言ったからなのに逆ギレですか、畜生。僕はそのまま「着替えるんで出てって下さい」と用件を訊かずに外へと無理やり追い出したのだ。ドア越しから聞こえてくる「小さい頃から見てるんだぞ、隠す必要あるのか?」という男を理解していない先輩声。いろいろまずいってものがあるんだけどな……。本当、あの人は自分で言う分には恥ずかしがるのにな。
今と昔を比べたら比にもならないって誰かが言ってなかったけな。そう考えると僕の小さい頃の夢ってまだ、強制的に入部した『勇者伝説探求部』でも叶えられたりするのかな……。小さく胸の奥底で呟く僕はどうやら世迷言のようなことを呟いていた。
「もう、良い。とりあえず学園本館三階の図書館集合な」
思わずビックリして空返事で終わってしまった。三階の図書館……三階の図書館……。
「休館日……って」
学園本館の地図を頼りに三階へとやってきて辿りついたは良いものの、休館日だった。ちなみに葉也は先に深月先輩と出て行った。そもそも日曜日休館日って深月先輩やミユは知っているはずなのに……どういうことだ? 首を傾げる僕と風で優しく吹かれる地図。そんなどうでも良いシチュエーションの中、背後に何かを感じて後ろを勢いよく振り向くと腕に何かが当たる……。
「うぉっわ!」
情けない声とともに腕が当たった本人からのビービー弾の連射を頭に浴びる僕。え!? ビービー弾のお化け?! という訳でもなく拳銃の反対側の空いた手で当たったと思われる脳天をさするミユが居た。お化けじゃなかったが、ある意味怖い人物であった。
「痛いなぁ蒼君! 驚くときは言ってよ。構えちゃって失敗したじゃん……もう」
入学式の当日の時の深月先輩のような不機嫌な面構えをするミユ。驚くとき言えって言われて言える奴がどこに居るのだか。それより何を失敗したのやら。ミユの格好はメイド服で……いわば一種の萌えであって異論は認めない。
「ミユ、深月先輩に言われて来たんだよな?」
「馬鹿だな蒼君は(メイド服をスルーしたと言う意味で)。一応私も部員なんだよ」
どうやら六日前の『蒼汰が副部長決定なっ!』という深月先輩の発言に根を持っていたとは。
「そ、そうか。本当にここであってるのか?」
聞くまでもないだろって顔でミユはその休館日と札を捲り上げて中を覗き、図書館のドアを開けて手招きをしてくる。やむを得なく図書館へと入って行く僕。右手側に教室と同じ黒板が有りカンウター設備もしっかりしている。入学二日目で貰った学生証に登録IDがあるとかで翳せば一〇冊が最高で借りれるとのこと。置いてあるのは大体基礎学から最近の若者向け雑誌などでこれまたごく普通の高校の設備だ。違うと言えば左手側に壮大に広がる横長さ。書棚はこのカウンターからでは数えきれない程あり、一番奥にはテーブルが設置されている。図書館の大きさをざっと言うとどこの高校にでもある教室、四つ分の広さ。
図書館の奥へと歩き、テーブルの椅子に座って、がに股状態で携帯電話を片手操作する深月先輩と『人間心理』を片手に座らず反対側の手で逆立ちをして上半身裸で読んでいる葉也……一変変わった奴だけど本当に良い奴なんだ……きっと。
頭に手を当ててため息が出る光景に遭遇したのは過ちだと思う。
「岩槻君、服来て!」と誘拐された以来、口調が激変しているミユが僕の後ろで必死に叫んでいる。男性耐性が無いのか有るのか分からないがその場は『勇者伝説探求部』の部長を務める深月先輩に「服着ろよ」との男性耐性の強いお発言。男の僕でも言いはしないと思うぞ。
携帯電話をポケットへと終い「四人揃ったし始めるか」との合図で僕とミユはなんとも言い難い雰囲気でテーブルにある椅子へと腰を掛けるのであった。
「実は今回、『勇者伝説探求部』のストーカーが現れた件何だが……なんでお前ら顔面硬直してるんだ?」
何度聞きなおそうとも同じ答えだと分かっていても挙手をして「もう一度お願いします」と受け入れる準備をするように深く息を吐いて吸ってを繰り返して深呼吸をする。
呆れた表情を表に出しきった深月先輩の表情が妙に刺さるが気にしないでおこう。
「実は今回、ストーカーが顔面硬直した」
端折った! 物凄い所で端折ったよこの人! 別に同じセリフを繰り返せとは……言ったように見受けられるけど違うって。どんな端折り方だよ。
「端折り過ぎです」
との注意を払い已むを得なく先程の深月先輩の言葉を真摯に受け止める。
ストーカーってどんなストーカーだろう……(以下蒼汰妄想)。
「ご主人様にご奉仕するために追いかけてきちゃった、えへっ(ミユ)」
「俺の馬になってもらうために追いかけてきちゃった、アハハハ」
「後者は無い無い」
思わず妄想の結果論が口に出てしまい焦るがどうやら聞こえていなかったようだ。隣には春に似合わないメイド服を来て、スカートの裾が短かったのかスカートを両手で押さえてソワソワするミユ。
その仕草だけで男は悩殺ものだよ、けしからん。
「その……ストーカー事件ってことですか?」
笑顔の裏にはきっと何かがある同級生の葉也は動揺しているのかしていないのか相変わらずの笑顔……何か違和感を感じたと思ったらちゃんと目を見て話しているではないか。進歩って奴なのか? それとも動揺……。あ、テーブルに置いてる右手が微動だにしているではないか、動揺か。
「それしかないだろ阿呆」
容赦ない深月先輩の罵倒もどうかと思うが今のは愚問だよな。
「お前ら一年の初仕事だ。ミユを守ってやれ」
右人差指を平然と僕に突き立てる深月先輩……。
「「「……え?」」」
と、驚く僕らの心と考えが一つになった気がする。なんとストーカー被害者はミユであって最初に言っていた深月先輩のは嘘で……ってアレ?! なんか激しく端折られた気がする!