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勇者って呼んでっ!  作者: 未獅 メル
第一章 入学
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一話 橘家の日常

  

 PPPPPPPPPPPP。いつも以上に耳元で鳴り大音量で現実へと引き戻す道具、目覚まし時計によって僕は相変わらず起こしていただいている。これは感謝すべきことなのかな。


目覚まし時計の天辺を誰かの頭の上に手を置くようにして止めると大音量は止まる。そしてOFFにしないと再び有り難迷惑の大音量が僕の部屋で鳴り響き、耳の鼓膜を刺激する。

「あと、五分」と言う相手もいないが故に渋々、まだ肌寒い春の朝へと身体をベットから乗り出してカーテンを開ける。そこには燦々と輝く太陽が……いや、訂正。物凄く雨……僕の心が。

「波浪注意報~、あおちゃん」

 きっとハローと波浪を掛けたと思われるが、やはりそれ一択だ。

「おはよう、琴音姉ことねねぇ。……窓越しで少ししか聞き取れないが」

 ベランダ側からドアに顔をくっつけて器用に話しかけるのが、姉、橘琴音たちばな ことねで朝起きで自慢の腰まである茶髪がボサボサだ。毛先はパーマを掛けられて居て、異性として、どストライクというのは内心にとどめておく。そして会話の受け身で自分の部屋から聞いているのが僕、橘蒼汰たちばな そうた。止むをえなく部屋へと姉を入れるのは正直、外の獣を自分の檻へと招待するも一緒。何故ならば姉はブラコンだからだ。

「おいしょっと、今日も素敵な鱗だね~とか言わないの~?」

「魚類にでも転職する気持だったんですか?」

 ドアを閉めて我ながら適当なツッコミだと思ったが姉はニヤニヤして笑っている。いつ襲われるかなどの警戒も張っておく必要性が見えた。何か欲しい時の姉の癖で右人差指の第二関節を舐めるなどは家族だから知っている。

「おしい、深海魚でした~」

 あれだ。スルーも可って奴だ。姉の話をスルーして話を進めるがここ、橘家は二階建一軒家で母は病気で亡くなったが祖父母と父と姉と僕、二世帯五人で暮らしている。僕が小学六年の頃にこっちに引っ越してきてから、僕の部屋は相変わらずのままであって姉の部屋は……汚いままだ。

「おしくない」



 ――「今日は入学式だね!」

「そうだな」と相槌を打って姉の作ってくれたサラダへ箸を進める。現時刻は七時で新入生は八時に体育館集合と前日の新入生案内書に書いてあった。如何にも見てくれよ、と言わんばかりのライトノベル一冊分の厚さの案内書。誰も見てないと思うが目次に『重要事項』と赤字で書いてあったからそれは見ない訳にも行かなかったわけだ。条咲学園じょうがさきがくえんは基本全寮制で自炊も食堂もどっちで食事を取ろうが執事を雇おうが関係なしに自由。ただ、そのせいでもあるのか学園内での『生徒としての時間』の校則は厳しすぎると地元で有名。高校生の必要不可欠な話で言うと『男女交際禁止』と『男女接触禁止』の二つがあげられて一応、健全な保護者からの抗議で騒動が起きたが結局は変わらないままって奴だ。

 鯖の味噌煮を一口と。

要するに理事長らへんのお偉いさんはホモ信者って訳だ。多分違うと思うけどそれをネタに出来る漫画研究部の女の子が学園祭一の売り上げを出したとか出さなかったとか。

 ほくほくのご飯を一口と。

「そういえばさぁ……蒼汰そうた

 不覚にも背中に寒気が走る。食事位置はお互いに目が合うように考慮したと姉が言ってたように真っ正面に姉が居る訳で……。悪寒がするのはともかく名前で呼ばれるのは若干、苦手。嫌な事の前触れと僕は捉えるぞっ!

「あの学園って交際禁止って知ってた?」

 ニコニコfaceは良い事だ。実に良い事だ。だがその笑顔の奥には獣が眠っているのは僕は知っている。それと交際禁止はさっき脳内の話題になったから知らない訳がない。僕は首を素直に縦に振り、目を合わさないようにと右手で味噌汁のお椀を持ち、一気に啜る。こういう際の味って表現しにくいよね。なんか鉄の味がしたのは自分で舌を噛んだからなんだよな。口内炎のようにヒリヒリするよ、畜生。

「知ってるなら問題ないけど……”事故”、起さないでね?」

 最後の一言に力が籠っていて、琴音姉は身を乗り出して僕の右手と左手を取り、両手で覆って握りしめる。暖かくて普段は安心できるが安心できない恐怖感が僕には伝わってきたのだ……長年の付き合いだからだよな。

声が漏れることもなく、僕はひたすら頭を縦に振るのだった。


 条咲学園までおよそ歩きで十分程度で途中、歩きでも思うSlope of heart breaking(心臓破りの坂)があるのが難点。英語で言ってみたのは心の中の余裕を取り戻すためだから気にしないで。

二階へと再び階段を上り自室へと戻り、荷物の確認をする。荷物はエナメル(小)が二つ用意されていてスクールバック(中)が一つに黒のボストンバッグ(中)が一つ。そのあと、学園へと輸送される荷物が少々で荷物の方は大丈夫だが輸送されてくるのは今日から一週間後。だから事前に買ってある教科書などは自分で今日持っていかなくては1週間授業に出ても無駄な時間を過ごすだけだ。隣の人に見せてもらうと言う手段はあるが基本、最初は隣女子で接触禁止なために見せてもらない。だったら男子と女子で教室分ければ良いとか思うぞ。


腹立たしく思えてきた事実に僕は肩を落とし溜息を吐くのであった。


 ぶぅーぶぅーぶぅー――そんなバイブ音で学ランの胸ポケットにある携帯電話を急いで取りだすと『馬鹿な俺様ツインテ先輩』と表記された人からの電話であった。

「もしもし?」

 第一声はこんなもので時々、裏返ったりもするんだが今回は相手が相手なために緊張がほぐれて会話出来るものだ。

「あ、蒼汰そうた? 俺だ、おはよう」

 声の質は良い女の子なのに一人称『俺』とか似合わないな。僕は条件反射の内のおはようを返すと先輩は何故か苦笑いをしている。どうしたんだろうか。

「どうしたんですか、その苦笑い。宇宙人にでも好かれましたか?」

 どこの宇宙人が好くのかは分からないが冗談交じりに苦笑いの理由を聞くと照れくさそうに、気分だそうだ。なんとも御偉い身分ですことで。

「それよりさ、蒼汰」

「本題ですか?」

「俺はお前の茶番を流しただけなんだが……まぁ良い。今日入学式だよな?」

「先輩も入学式ですか?」

「どこの先輩だよ。俺はお前の1つ上で条咲学園の二年だぞ、おい」

「へぇ~、世も末ですね」

「どういう意味だ!?」

 おっと怒りだしたぞ。僕は右手で携帯電話を天井へと向かせてその怒鳴り声をスルー。姉が来る心配性も含んだが姉は下で朝食最中だからな。


「もう、良い。本題行くから余計な口挟むんじゃねぇ~ぞ?」

「言葉づかい上手ければ僕のお嫁さんにしていることなのにな」

 口挟むなとけん制された隙に口を挟むと相手は無言だ。どうしたことやら……僕、調子乗ったのを反省してます。

「……お嫁さん……」

 小さくそのような言葉が聞こえた。え、どうしたのやら。

「お嫁さんって冗談ですよ?」

「冗談かーーーーーーーー!!」

 いや、まったくその通りですけど?

「お前の嫁、考えとく。さて本題だ」

 右人差指をこちらへ向けて声音が最初は可愛らしく、後半、どこぞの島を守るおっさんの声がしたんだが。嫁って考えるものだっけ? それと人に指差すんじゃありませんよ。

「どうぞ」

 やむを得なく話を進行させようと返事で促して先輩はそれを紡いだ。


「そのだな……今日、一緒に行かないか?」

 声音が一気に可愛らしいツインテ先輩を思わせるが現実は厳しい。そんな先輩の隙を突くように言葉を紡ぐ僕。

「ヴァルハラへ?」

「誰が天国行くって言った?! この阿呆!!」

 罵声を浴びたが毎度なのでもう慣れっこだい。首を傾げてよく考えてみると、そうだな。なんで僕はヴァルハラなんて言い出したのか自分で迷走してしまう。

「学園へ一緒に登校するんだよ! この腐れビッチ!」

 漫画のようにツインテは毛先が逆立って威嚇をしているように想像して見えて少し面白い、なんて言えないけど。

「分かりましたから落ち着いて下さいよ。どこ集合ですか? やはりヴァルハラですか?」

「だからちげーって馬鹿!」

 酷い先輩もいるもんだね。後輩を馬鹿呼ばわり。特殊性癖の人には好かれそうだな。

「もう……お前の家の下にいるから来てくれ……また後で――」

 電話の内容からして僕の家の玄関付近……姉に見つからなければ平気……いや古い縁からして大丈夫だと思うけど……僕の生命線が消えない内に無駄な死亡フラグには会いたくないものだ。


 姉は条咲学園を二年の時に中退した。今本来で言うと三年。理由は誰が聞いても答えてくれないとのことで僕は姉に聞かないまま、今日までやってきた。正直、弟身分、家族身分としては興味はあった。けど他人に触れてほしくない部分は幾らでもあってそう簡単に聞き出せるものではないんだ。誰にだってダークサイドな部分はあるんだから……。


 僕は携帯電話を胸ポケットへと仕舞い、荷物sを持ちあげて階段下の玄関まで持って行くがこれまた重労働。一階へ降りると姉と父と祖父母が待っていて、祖父母はハンカチで目を覆っていた。みんな……優しいな。

「蒼汰! お嫁さんはなぁ、ニーソを履いている子で頼む! 爺の一生のお願いじゃ!」

「蒼汰! お嫁さんはなぁ、男の娘でよろしく頼む! 婆の一生のお願いじゃ!」


「……誰がこんな家、帰ってくるか馬鹿ああああああああああああああああ!!」


 ――一瞬にして裏切られた僕の気持ち、返してあげて下さい!

玄関を勢いよく締めて、外に出てみると銀髪ツインテでしっかりと学園の制服を着こなして、軽荷物スクールバックだけを肩に通して持っていた先輩が居た。

「すいません、先輩。遅れて」

「蒼汰。俺の事はフルネームを答えてみろ」

成瀬深月なるせみづき……?」

「なんでクエッショ~ン?!」

 なんかハイテンションだなこの人。それに日差しは強いけど頬が赤く染まるまで熱くは無いと思うんだが。

「長い付き合いなんだし、深月みづきって呼べよ。俺だけお前の名前言うとか恥ずかしいじゃねぇ~か」

 そういう意味ね。

「深月……先輩?」

「先輩付けんな!」

「えぇ~!」

 理不尽なツインテ攻撃で僕の顔へとその髪から匂う仄かなシャンプーのような甘い香りでいろいろ刺激をされてしまう。ノックアウト寸前かもしれん。

「それより、時間良いのか?」

 ツインテ攻撃が当たった頬をさすりながら腕時計へと目をやる。七時四八分。歩けば間に合うか間に合わないかだ。

「大丈夫ですよ」

「それなら良いけど」

 ツインテ攻撃してくるけど結局は深月先輩は僕をちゃんと心配してくれて姉とは違う安心感がある。姉と言うのは本来深月先輩のようなぶっきら棒な……痛?!

「なんか恥ずかしかった……」

 気付くと頬を抓られていて見事にその恥ずかしさは命中してましたよ。

「とりあえず立ち話もあれなんで歩きましょうか」

「そうだな」


 他愛もない話で盛り上がっている内に例の心臓破りの坂は登りきっていて気付くとコンビニが目に入っていて深月先輩が「ちょっとなんか買う?」とのことで僕はそれに同意するように首を縦に振ることにした。

「いらっしゃいませ」

 店員の明るめの挨拶に心が和むの普通だよな。緊張の面持ちでコンビニ入るのは強盗ぐらいだろうけど。

メロンパンとミルクティを買って僕は深月先輩に「朝食だけ買いたかったんで」とだけ言って買い物をして外へ先に出てることにした。


傘立ての脇に荷物を一旦降ろして、太陽へ向けて背伸びをするとあちこちの関節から聞こえる骨の音。学園まではあと歩きで2分。今の時刻は七時五九分。げっ、間に合わないじゃん!

急いで荷物を取ったが……僕の視界はいきなり、謎の真っ黒な世界へと変わって行ってしまったのだ……――

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