二話 入部テスト?
――ギリギリ、というよりかは何とかアリスを説得して制服姿にさせて僕は深月先輩に来るように言われた部室へと移動をしている最中。一応、常時、学ランという制服スタイルで居る僕とセーラー服と黒ストッキングでアリスは自分に似合う恰好で居る、って言う余談。
現在、位置する場所は何故か真っ暗であって、手元の懐中電灯を頼りに前進をしている。場所の説明になってしまったが学園本館の東階段下の掃除用具庫に入って、それまた下に繋がる階段を下りて、突き当りのところであって異常に埃臭い。そして今さら気になったのが一つ。
「琴音姉、朝から見てないな」
余計な呟き? 知ってる。アリスは驚いたのか拍子抜けな声を上げてしまう。
「ひゃ!」
思わず寄せられる腕、肩。思春期男子の僕にとっては刺激的であって生々しくて、動揺をしてしまったのか懐中電灯を床へと落としてしまい、光はその反動で消えて何も見えない暗闇状態になってしまった。
「……ご、ごめん蒼汰!」
汗ばんだアリスの手が僕の右手を掴み、声を震えさせながら謝りだした。何も悪いことは……無いとは言い難いのも事実。いや、何と言うか僕の余計な呟きが悪いのだが……何か府に落ちないというか、一応悪い、って気持ちはあるんだ。動きを静止して、「大丈夫だよ」とだけ伝えて、しゃがみ込み、無造作に真っ暗な床へと左手を精一杯伸ばして懐中電灯を探し出す僕。
「何か探し物?」
声が震えたと思ったら次は手までも震えだすアリス。僕は何を探してるかと言うと床に落とした懐中電灯以外、何もないのだが。
「この状況で何を言うかと思えば……とりあえず手を離す――」
「嫌!」
全力否定をされた。待て、落ち着け僕。ここで手を離して何になる……捜索がし易いようになるよな、うん。僕の考えは間違ってはいなかった。
「懐中電灯、探すから手を離すんだ。そもそも――」
ギリッ、手を勢いよくアリスは握り、暗闇なのに殺意すら感じ取れる気迫……僕は言葉を失い、我に戻るなり、無言で左手で捜索を続けることにした。
「……静かになったね」
どこかの勇者な少女のせいです、という心の中のツッコミ。アリスの方へと手を差し伸べて、後方の方を手探りしてみると、何かに当たった……柔らかくて、布生地でって!?
「……積極的になったね蒼汰。彼女としては嬉しい限りだよ、えへへ」
照れくさそうに言ったと思われるアリスの発言に身の危険を感じたのかすぐさま、柔らかい物から手を退けて寒気を感じ取る。そして不意に頬に当たる優しくて生温かい風、もとい吐息は至近距離まで近づいている。手を離そうとしても剣道をしていたアリスの握力は平均女子以上で僕同等の握力と見た(弱いな、僕)。
「ちょ、アリス。こんなところで駄目だって!」
「……じゃあ、体育館倉庫の中が良かった?」
「どこのハードなエロティッカルなゲームだよ!!」
「……保健室の方が良い。ベットある」
「もう知らない!」
ヒロインの口から出るのはそこらへんのダウンロードして出来るゲームの代表的な部屋の数々って何でもない。話を元に戻すとこんな予定は無く、更に懐中電灯を無くす訳もなかった、が状況はおかしなぐらい変な方向へと進んでいる。進行形でバッドな方へと終焉を迎えようとしている。
アリスの吐息が再び頬へと掛り、寒気がする……受け身で居る自分が恥ずかしいとかどうこうとかじゃなくて、単純に不純した展開へと持ち運ばれてしまっている自分が腹立たしいのだ。
「……蒼汰の彼女になれた。だから嬉しいだけなの。蒼汰はどう思ってる?」
いきなり質問を投げかけてくることに動揺する僕。アリスは嬉しいんだよな……僕は……。
「……えっとアリスと”前みたいに友達”で居られるから嬉しいよ」
考えた事を述べた僕は彼女へとそう回答をした。何を思ったのか分からないが、アリスはそっと手を離して、「……やっぱりね。アリスの想いは昔のラブレターの時、同様に届かないで終わるのね」と言う意味はおおよそ理解ができた。彼女を傷つけてしまったのはこの暗闇の中でも分かることで、僕は再びあの悪夢を繰り返してしまうと思うと胃がねじ切れそうに痛くなる……。
「……嘘」
「え?」
思わぬ言葉がアリスの口から出てくることに僕は馬鹿口を開けて驚く。向こう側には見えていないと思うが僕は凄く馬鹿な顔で居たと自負して言える。
「……今の心境は?」
「えっと……ごめん」
とりあえず平謝りに聞こえると思うが昔出来なかった謝罪というものをしてみる。笑い声でアリスは、「……大丈夫だって」と流してくれる。少しばかりか、心が身体が楽になった気分だ。
「ありがと」
「……蒼汰また謝ってる!」
「あ、ごめん!」
「……もう、蒼汰ったら」
自然と相手が見えなくても意思の疎通が出来たのか自然と笑い始める僕。つられてなのかアリスも笑いだす始末。何がツボで笑ってるのかも分からないが、きっとこんな感じの雰囲気がじれったくて、面白くて、くすぐったくて……楽しいからこそ笑ってしまったのかもしれない。
一閃と光を放出する方へと視線を預けた僕はいつものように仁王立ちして構えている深月先輩を見て、どことなく笑い涙が出てしまい、アリスも同様、笑い涙が出ておかしな光景を見たかのような深月先輩は「お前ら……何が起きたんだ?」と問いかけて来た。質問に答えるまでもなく、深月先輩は右手をおでこへと当てて深いため息を吐いたのであった。
「入部テスト、する以前の問題だったな」
青空のような外装壁。縦に長細い木製のテーブル。それを囲むように水色のソファーが両脇に一つずつ。これも全て琴音姉が作ったと思うと……らしくない感じがするが、部のために頑張ってきた琴音姉を想像するだけで益々、良い人っぽく思えてくる。悪い人に見えたことは無いがブラコン加減があると弟視点からは悪い人というよりかは怖い人に見えることがしばしば。話を戻そう。
ソファーに座ることを深月先輩に勧められて僕とアリスはお互いの顔が見えるようにと両端へ分けられて正面にはアリスが座っている。そして深月先輩が言った『する以前の問題』とはどういう風に捉えていいのかは分からないままだ……。
「深月先輩」
と意見を主張するために右手を上げて挙手をするもの無言の威圧とでも言うか、こちらをさげずむように凝視。そして舌打ち。ビビる僕を置いて、「……先輩」と独特のペースで喋り、挙手をするアリス。
「なんだ? 残念ながら蒼汰は俺を嫁にするって言ったからお前の物じゃないからな、とだけ言っておく」
決まり文句のようになってきた深月先輩は鼻を鳴らしてそんなことを言い、アリスは眉を眉間に顰めながらも質問を問いかける。
「……アリスはこの部活に入部したいです」
「構わない」
矛盾している。僕の尻を金属バットで殴ってまでも否定した深月先輩は何処へ? 首を傾げて僕は挙手もせず、「え? 良いんですか?」と訊くと、
「言っただろ馬鹿。する以前の問題だったなと。支え合ってこそ人って習わなかったか?」
とのこと。さっきまでの発言はどこへ消えたのかは分からないが僕はこれで全てが解放されて気分がスッキリしたのか、大きなため息を漏らしてソファーに寝転がり、天を仰ぐ。
「……蒼汰のおかげ。ありがとう」
お礼には及ばないが少し照れてしまう自分が居る。寝むそうなのを装って学ランを寝転んで脱いでテーブルにおいて俯きながら顔を隠す僕。そんな僕を笑う二人。やっぱり、この雰囲気が僕は好きだ。
「おじゃましま~す!」
雰囲気をブレイクするように部屋に乱入してきたのは赤ジャージの琴音姉とメイド服が私服のミユ。思わず起き上がり、琴音姉は長い茶髪の髪を巻きあげてピン止めをしたスタイルで下ジャージのポケットから皺だらけのクチャクチャの紙を取り出して、見えるように開いた。その活字に注目する僕と深月先輩とアリス。
「「「第一七回 桜咲祭?」」」