四話 第一次対戦
「……この対戦、終わったら話があるの蒼汰」
「僕もだよ、アリス。じゃあ、行ってくるね」
売店で深月先輩からはミユからの連絡手段を探してと言われていたが……一つ僕は何か間違えていたのだ。アリスと久しぶりに対面したのは今日だがアリスは、小さい頃と違っていた。違いは幼馴染だから分かる違いであって外見の可愛いというのとは別。何か知らないうちに成長しているように感じて感化されて僕自身の間違いに気付いた。
それは行動すべきところで行動できる力だ。何もかも今まで琴音姉に頼り切っていた。だから僕も成長しなければ周りに迷惑を掛けてしまうんだ。手を振り売店を後に僕はミユ捜索をすることに決めた。
――ぶぅーぶぅーぶぅー、そんな音がジーパンのポケットから鳴り響き慌てて取り出す。非通知のようだ。電話に出ると変声されている。イタズラ電話に思えたが「オマエノダイジナヒメヲアズカッテイル。タスケニキタケレバジェットコースターデイリグチマエニテ、キサマヲマツ」で途切れた。
「ではみなさん、静粛に」
ジェットコースター出入り口ではジェットコースターマニアなのかタイガーマスクを付けて集合していた。丁度良く落ちていたタイガーマスクに感謝御礼だ。いやジェットコースターマニアというよりかはタイガーマスクマニアの間違えって思ったのも内心で止めておこう。出入り口では片手にマイクを握った全身ジャージで仮面ライダーシリーズのお面を被っている奴が仕切ってるのか。ん、全身ジャージ……。
「これからKFKとJBKの第一次対戦『根性見せてみろー馬鹿野郎』をここにて開幕する!」
それぞれの思いで発狂する人で溢れかえってその全身ジャージの奴が見えなくなる。みんな、はっきり言えばファンクラブと同性愛ラブの人間の対決だよなって思うのは僕だけなのだろうか……いきなりの脱力感に気分を害するのであった。
「KFK会員番号三番橘蒼汰! 準備しろ! ストレッチしろ! 姉の可愛い部分をジャットコースターで何個言えるかが勝負の采配なのだ!」
待て、この人自分で姉って言ったけどそれって僕が弟だからなのあ、どっちなのか気になる。慌てて前へと人を掻きわけて進み、出入り口にはまさかのミユが縄で腹部に時限爆弾を乗せて気を失っていたのだ。
「さぁ、ここで問題ダヨ。大切ナ姫ヲ守レルカナ。タイムリミットハ一〇分三〇秒ダ。帰ッテ来ル間ニ、大切ナ人ハドッカーンダ。ワタシガ勧ルノハジェットコースターニ乗ッテコレヲ宙ヘ投ゲ捨テルコトダ。サァ、ドウスル?」
あぁ、もう無茶苦茶だ。いきなり会員番号三番扱いだ。え、後ろで「え、オレ三番なんですけど……」と悔しがる人が居るんですけど。ちなみに変態ナルシストは、「ボク、高所恐怖症なんだ、ハハ」とのこと。ストーカー犯である自覚こいつにはあるのだろうか。そして早くもJBKにポイントが一点加算された。ジェットコースター耐久レースで最後まで琴音姉の良い所を言い続けなければいけないレースで三人選出で一回戦が一ポイント、二回戦が二ポイント、三回戦が三ポイントで二回負けても最低引き分けだ。そしてアンカーのような僕は二回戦を出入り口のスクリーンで眺めているがどうやらKFKの圧勝だったらしい。JBKのメンバーは緊張のあまり下痢で出場をやめて二ポイントをKFKは頂いて二対一だ。これで三回戦の僕が勝てば……。そしてジェットコースターで勝負とはなんとも斬新な考えをしているんだろうか。
「オマエハタダカツダケジャナイ。ソノヒメヲキュウシュツスルノモフクメテ、ハジメテポイントガエラレルノダヨ」
「上等。家族の絆といままでの僕と勘違いしないでよね、”琴音姉”」
周りは予想通りにざわめき始まり琴音姉が扮する全身ジャージの仕切り役へと近づいて囲んでいる。縄で縛られている僕はJBKが見ている中でミユをジェットコースターへ乗せて発車のベルが鳴る。
「ミユ、起きて!」
横から肩を掴み、揺らすもミユの腹部には時限爆弾……この形……小さい頃、琴音姉と誘拐されたときに見たものだ……プラスチック爆弾なのか。※一、信管はどうやら起動したら取れずじまいの構成だ。逆に言うと人間の手で剥ぎとれる代物じゃないことも確かだ。
『無駄デスヨ。呼ビ起コシテモ睡眠剤複数使用サセテイタダイノデ』
どこからか聞こえる琴音姉のカタコトな日本語。睡眠剤複数使用はさすがにやりすぎだろ。何の恨みがあるんだよ……考えても仕方がない。僕はひたすらにミユの身体を揺さぶる。……アレ、今、目が微かに開いた気がするぞ?
「ミユ、起きた……のか?」
頬を擦り、ミユのスカートの右ポケットへと手を入れる。くすぐったいのか跳ね起きるように目覚めてしまった。そして時限爆弾は起動をし出すのだ。
「ちょ、ミユ!」
「えぇー、私のせいって……なんじゃコリャー!」
時限爆弾と腹部で御対面のミユは本気で驚いたのか、「死ぬの嫌……って、ジェットコースターもきらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」そんなことを言ってる間にもジェットコースターは僕達をカクテルのように上下をし出すのだった。
「……えっと、一応時限爆弾処理は出来ました、はい」
未だジェットコースターに揺さぶられてる僕とミユ。一番大切な事をまだやっていなかった……、琴音姉の事についてジェットコースター中にたくさん言わなきゃいけないということだ。ちなみに時限爆弾は動いたまま宙へ放り投げられた。主な理由は空気の抵抗で下がるときにミユの腹部からポロリと取れてどこかへ飛んで行ってしまったらしい……本来ならダメな気がするがなんともまぁ、変態ナルシストがキャッチをしたとメールであった。
「蒼君……ようするに……ラストの、うっく、あ、あの下りで思いを叫びましょうか……あはは」
ミユは苦笑いで笑顔を見せているが、どうやら一回目の下りで酔い潰れてしまった僕等にとっては過酷な物であった――
※一 信管とは爆薬を起動させるための装置です。