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勇者って呼んでっ!  作者: 未獅 メル
第三章 遊園地事件
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三話 前日談

「あら、何の用って顔してるわね」

 場所は生徒会室。至ってシンプルな壁紙に中央に会長席と名札が飾ってあり、両サイドには役員の席がある。これがあたしの知っている条咲学園生徒会室。会長席に『奮闘』と言う赤いハチマキを額にして目元にクマのある重人会長へと話に来たのだ。

「いえいえ、KFKとして嬉しい限りですよ主様」

 席を立ちあがり眼鏡を付けて立ち上がる重人会長。何気に身長高いんだよな、この人。奇人だし。

「それよりあたしが何故全身ジャージでここに居るって思ってるの?」


「巧妙な罠抜けトリック名人、幼馴染なんですからそれぐらい知ってますよ主様」


「えっとね」

 そんな前置きを置いてあたしはついつい恥ずかしさで目を逸らしてしまう……。

「今日は”利業りぎょう”じゃないから名前で呼んで……良いわよ」

 あはは、と腹筋が崩壊しそうなぐらい笑っている重人会長はどうやら含みが合って笑っているようにしか見えないのはあたしの気のせい、かしら?

「なんですかその表情。ボクの片思いの相手とは思えない表情ですよ。ボクに惚れ――」

「馬鹿!」

 回し蹴りが見事に顔面へと入った重人会長は悶絶しながら、「酷いですよ」とゾンビのような枯れた声でいる。そのぐらい当たり前の始末よ。


「本題、入るわ」

「ど、どうぞ」

 痛い”フリ”をしていた重人会長はエスコートするように椅子を差し出してあたしはそこへと座る……今、ぷぅ~って聞こえたのは気のせいかしら……。

「すいません。ぷぅぷぅクッションって最高で……ほ、本題へどうぞ?」

「あら、痛いフリをして、尚もあたしへ喧嘩売るとは良い度胸ね。この変態ストーカー!」

「もう、酷いですねボクの片思いの人は」

「貴方、人間界からログアウトどころかシャットダウンさせるわよ? その奇人ぶりな脳みそ解剖してあげるわ!」


「――さぁ、本題へ」

 重人会長、いや重人は奇人だ。何をしてもヘラヘラ笑っている。今もフルボッコにしたはずで全身アザだらけなのにニヤニヤして人を小馬鹿にしている。それでも重人は小さい頃からあたしの無茶苦茶を影で支えてくれる人物だ。それは承知して友人としては一緒に居られるが恋人としては生理的に受け付けない。

「分かったわ」

 この人は馬鹿だ。

「まぁ、橘君のことonlyですよね? さすがブラコン」

 余計なひと言を付けるところが余計馬鹿を露呈している。だがもう怒りを通り越してスルー安定な気がするため話を進める。

「何でも良いけど、一つ……あたしの弟に関することだけど頼んで良い?」

「了解です琴音さん。でも見返りはあるんですか?」

 だるいの始まった。さすが生徒会長と遠回しの皮肉も考えたが辞めにした。どうせ見返りはあたしに求めてるのに変わりは無いのだから。

「手料理、御馳走とかどうでしょうか生徒会長」

「奥さんの手料理……冗談冗談、そんな鬼の形相で睨まないでって。皺増えるよ?」

 あたしが馬鹿だった。あたしの提案と思考もあいつの発想力も馬鹿だった。何してるんだあたしは。蒼汰のことを勇者って呼んでもらえるように、あの子のために傷を少しでも浅くして上げようと考えてるのに重人はそんなことをお構いなしな”フリ”をしている。


「貴方ね、少しは弟を心配するあたしの気持ち考えたらどうなの? いつもフリばかりして他人の顔色疑って馬鹿じゃない? 何が生徒会長よ。この奇人!」

 落ち着くんだあたし。怒ったら重人の思うツボだ。何もかも見通して馬鹿にしてくるあの重人だ。本当は”フリ”をしているだけで気にかかっているはずのしげ――

「そんなの考えたことなかったな」

「?!」

 思わず立ち上がり重人の襟元を引き寄せて額に頭突きをするも重人は平然としてこちらを見透かした表情で見つめてくる。

「痛いじゃないですか~」

「嘘よ!」

「はい?」


「貴方だって……貴方だってあたしと同じ立場で、闘ってたじゃない!」

「五月蠅い貴方も僕は奇人なので好きですよ」

「だま――」

「いい加減にしろ、この糞ビッチ」

 襟元の手を払われて堪忍袋の緒が切れたようなのか重人は冷静な口調であたしの口を片手で押えて、あたしの足は床から離れた。どう抵抗しても離れることは出来ない……。


「ボクだってですね、そりゃあ闘いましたよ。飯沼財閥いいぬまざいばつのおぼっちゃんのせいでね」




 ――昔々、とても仲が良くて毎日が幸せな兄弟が居ました。家は決して満足して暮らせる豪邸なんかではありません。それに両親は仕事で忙しくて時には奴当たりをしてボク等を傷つけることがあっても兄弟が居たから支え合って生きてこれたと、兄のボクは自覚していました。”いつまでもこの幸せが続いてくれますように”と願いさえ毎日念じてボク等は生きてきました。仕事で忙しくてボク等に目もくれる暇もなく育児放棄のような状況で家庭裁判所や児童保護施設の方がお見えになってもボク等は笑顔で玄関へ迎えに行っては何の誤りもないという判断で返してました。息抜きといえば兄弟で遊んでるときだけです。両親が家を出て行ったときは解放感があり、両親が喧嘩をし出したらボク等は外へ外出して近くの公園で遊んでいました。いいな、他の子供たちは“親”に迎えに来てもらって。ボク等のお迎え役は毎日警察署の人でした。とある日、体調を突如壊した妹は不治の病にかかりました。細胞分裂が身体中いたるところで発生して次から次へと新しい皮膚が湧いてくる病気です。両親に気持ち悪がられて病院に行くのは毎日ボクだけでした。その日から二日が過ぎて妹は天国へ行きました。何もしてくれなかった病職員と両親を恨み、憎みいままで生きてきました。それからと言うボクは両親を包丁で刺すなどして殺害未遂で少年院へと運ばれました。そこで出会ったのは飯沼勇人いいぬまはやとで同い年の子でした。罰はボクと同じ殺害未遂で同じ末路を辿ってきたと本人は言いました。大人はみんな嘘つきで自分の”利益”だけを考える貪欲な人種と感じました。ましてや人間とは別の人種のようにも感じました。だから反抗期真っ盛りのボク等は監督委員に迷惑をかけたりとやんちゃをしました。月は過ぎて行き、飯沼勇人は少年院から出れるのにボクのことを気遣ってボクと同じ日に出ようと考えたそうです。ですが次の日、彼の迎えにボクの父が来たのです。

『悪いな、重人。お前の親じゃないから今は赤の他人だけどな』

 血のつながりを拒否されたボクはどうやって生きて行くのかも分からない。最愛といっても過言ではない妹は先立ってしまった。ボクに残された道はどこにもなく……生涯孤独で……あまりにもリアルすぎる現実に僕はただただ現実逃避をするのでした。



「ボクはね、大人なんかになりたくないんですよ」

 襟元から解放されてあたしは床へと足が付き、腰が抜けたのか椅子へとちょこんと座る形になった。妹の話は細胞分裂に耐えきれなくなった身体だけじゃない。細胞分裂を発作させるように両親あるいは重人自身が薬を飲ませた――それぐらいの話。

「あんな嘘つきな人種には、えぇ、なりたくないですよ。別に琴音さんの弟を気にしてないなんて話嘘ですよ。ボクの場合は現実逃避のために妹と遊んだが事実ですが」

「あたしの予測だと、重人が薬を飲ませたが割に合ってるわ」

「犯人断定ですか。まぁ正解ですよ。誰よりも先に次の人生を妹には味わってほしかった。何もかも妹のために尽くしたボクが報われないのも世の定理ですよね」

「誰かのためにが、全て正解じゃないわよ。貴方の場合は……”歪んでるわ”」

「褒め言葉、ですよ……ボクにとってわ。それに」

「それに?」

「琴音さんだって弟のために動いてるじゃないですか。それは誰かのためでしょ? みんな誰かのためっていうだけで自分を擁護してるんですよ」

「……そうかもね」


「とりあえずボクの話と”誰かのために”は保留で手伝ってほしい内容どうぞ。”誰かのために”は保留なので今ならその”誰かのために”の言葉を聞きましょう」


「分かったわ。じゃあ蒼汰に勇者を再認識させて。あの子はあたしと貴方と同じで誰かのために動こうとする子なの。失敗したら全部抱え込んで潰れちゃうんだ……」


「了解です。そうですね、手料理が報酬なので”オムライス”明後日注文しますね」


「分かったわ。場所はどこでやるの?」


「遊園地ですよ。あそこに誘き寄せるためにあらかじめ、今日の放課後に勇者伝説探求部の成瀬部長とKFKのメンツとJBKのトップの萌香もえかにボクが連絡入れときますね。皆さん、久々に琴音さんの通達で動けてさぞかし御満足でしょうね。ボクが一番満足できそうですけどね」


「わかったわ。また明日連絡入れて……」

 帰り際に席を立って携帯電話の番号とアドレスが書いてある紙を席に置き、あたしは生徒会室をあとにしたのだ――

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