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勇者って呼んでっ!  作者: 未獅 メル
第三章 遊園地事件
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二話 創設者

「ごめん、橘君!」

 今日はそういえばレーデルの赤髪ポニーテールの女性似非執事と愉快なメイドさんロードをミユは使わず電車で来たところに正直驚いたな、というどうでも良い事が頭を過っていた。

「本当は琴音さんをこの学園に誘き寄せるために橘君を闇討ちで殺そうとしただけなんだ」

 ちなみに僕の頭をどうでも良い事が過るのは目の前の男のせいである。昨日か一昨日かは忘れたんだが深月みづき先輩に言われたKFK(琴音様ファンクラブ会)のトップ、頭だそうだ。そんな男がどうしてお化け屋敷出入り口で僕に土の上に直に坐り、平伏して座礼をしている、もとい土下座をしているのかと言うと僕の隣にいる黒髪美人、秋山ノビルことアリスの活躍で犯人がこの人と特定されてという流れだからである。

「物騒な事を『今日の夕飯何?』みたいに話さないでくださいよ、怖いです」

「……蒼汰、例え下手だね。『わ、私の息子はどこへやったので――」

「重いよ! アリスのほうがよっぽど……ってどうしたの?」

 彼女は僕の横で俯いている……どうしたのか心配になり肩へと手を置き、「どうしたの?」と僕はもう一度訊き返して、ゆっくりと顔を上げるアリス。ニヤニヤと笑みが止まらないのか笑顔でこちらを向き両手で顔を隠し再び俯く。何か良いことしたっけな?


「……何でもない、続けて」

 咳払いをしてまでも追求を拒否をするとは……。長い黒髪を片手で弄り「呼ばれた呼ばれた」を繰り返してガッツポーズをするアリスが居るのだが、本題へ入ることに決めた。


「で、えっと……名前は?」

浦安重人うらやすしげひとだ……琴音さんの愛弟子の小神の下着は盗んでなんかいないぞ!」

 あぁー、この人犯人だ。それに愛弟子って。なるほど琴音姉の読みは当たっていた。

「アリス、警察呼ぶまであるぞ?」

 携帯電話を取り出して番号のラストの九を押す直前に「「ダメ!」」とのこと。二人して言うことでは無かろうに。

「なんですか、真ストーカー犯さん達」

「……アリス、ストーカー犯になった覚えは無いよ!」

「ボクも実質二回ストーカーしましたけど小神の方はまだバレてません!」

 ダメだ。後者は手に負えない程さっぱりした性格だ。そして阿呆。一応琴音姉と同年代であることは分かったが……ここまで来ると異人だ。

「ボクのこの情報が漏れないテクニック、ご伝授しましょうか?」

 口が物語ってるのによくそんな口から漏れないって思われるよな。

「遠慮しときます、あはは……はぁ」

 溜息以外の何物も出ないとはこのことだ。アリスはずっと僕の背中をポコポコという効果音を付けさせたくなるような叩き方をしているのだが、怒っていると言う意思表示ってことか。

「そうそう、橘君。良い情報有りますよ?」

「……あ、はい」

「信用してない目ですね。ボクの情報は本当なのですよ?」

 信用するしない以前に僕同様キャラが被ってると言うのは秘密だ。

「なんでも良いから教えてください」

「横暴ですけどさすが血縁族! 血を舐めさせてください! いや、待てよ爪の垢でも間違いは無いような……」

 すでにその選択肢で間違いどころか人道外れてますよ~って言ったらこの人怒るだろうな。

「どうでも良いんで早くしてください」

「仕方ないですね……ここではKFKとJBKの第一次対戦が始まるんです。だから――」

「JBKってなんですか?」

「純粋にボーイズラブが好きな会です!」

 そんなに大声で言っていいことなのか……周りから悲観的な目で見つめられてるぞ?!

「わ、分かりましたからボリューム落として下さい」

「我儘な子ですねぇー。仕方ないですがここはボクの恩義を受けたこと忘れないでくださいよ?」

「あ、はい」

 このストーカー犯は何が言いたいのか良く分からんが変態ナルシストがあだ名で決定だ。

「それで第一次対戦の内容はですね……――」





 ――で、なんで僕とアリスが木の陰に隠れたベンチに座っているかは変態ナルシストの計画のようだ。JBKは何としても純粋に同性の愛を見たいが故にアリスがこの流れ上は敵。要するにアリスには囮になってもらう……そしてアリスが囮にすんなり受け入れてくれた条件は『橘君に守ってもらえる得トクサプライズ!』とのことだ。あの変態ナルシストの素性はアリスの口からは疑わしい言葉を聞いたのだ。

「……あの人は条咲じょうがさき学園生徒会第三八代会長なんだよ」

 とのこと。アレだ。世も末だ。ちなみに容姿は黒髪でJBKのメンバー曰く『黒髪鬼畜眼鏡萌え属性』と言う肩書。普通に生きていれば変態ナルシストも少しは救いようがあったが……この先の条咲学園の未来が心配なんだが。


「……蒼汰とこうするの久しぶり」

「だよね。えっとその……あはは」

 無理に口角を上げて苦笑いをするもアリスはこちらを向いてしっかりと笑顔で接してくれている。僕はそのたびに思い出すのが例のラブレター事件だ……。幾度と月が経とうとも記憶からは消し去れない苦い過去。あの日は僕は一日中泣いて後悔ばかりをした。勝手に引っ越してをして、『ごめんね』というアリスの声を聞いて以来だ。

「アリスね……ソフトクリーム食べたいなぁ~」

 ニコニコと笑顔で居られるアリスが今でも羨ましい。小さい頃からの憧れも忘れてもいない。結局あの日から僕は何も変わっていないんだ。

「じゃあ、僕が買ってくるよ」

「アリスも一緒に行く。……蒼汰と一緒に歩きたいし」

「そ、そうか」

 なんだか昔のアリスと違って明るくて可愛らしい仕草もするようになった……彼女は自分で変わって行った、自分が居なくても彼女は自分で変わって行けた。悔しいけど嬉しいような……そんな気持ちがざわめく。

売店へと着き、やや暖かい温度の中で売店でのソフトクリームの売り上げは好調でどうにか抹茶とバニラが残ってた。二つを買い求めて売店の中の空席へと腰を下ろすことにする僕達。

「……イチゴなかったけどなんかお互いに違う味って良いね」

 唐突に僕の抹茶ソフトへと髪を耳に掛ける仕草をして一口、口にしたアリス。唇の温かさなのか抹茶ソフトに口付けた場所が妙に溶けている……その場所をみつめて思わず生唾を飲む僕。

「そ、そうだな」

「蒼汰も食べる?」

 アリスが突きだすバニラソフトに何の抵抗も無しに一口、かじる。中でふわ~っと風味が効いていておいしいけど途中から詰まる喉のつっかえ。口づけた抹茶ソフトの上からアリスが躊躇も無く舐めたりしている姿を見て再び同じ場所を見つめて……間接キス、などと言う小学生のような迷い……僕とアリスだけだから、問題ないよね……うん。という試行錯誤を繰り返す。恐る恐るとそこへ口を付けようとする僕は視線を感じて隣を見るとアリスがこっちを凝視している……食えば男、だよな。

「……間接キス、とか思った?」

「うぐっ……ま、まさか!」

 心の読み、今回は当たって当然か。何を思ったのかアリスは抹茶ソフトを僕の手から奪い取り、コーン以外の全部を舐めまわして再び「どうぞ」と渡してきた……羞恥加減はMaxで売店の女性店員までもがお盆を両手で抱えてみつめている。アリスは気が動転したのかそわそわとし出して、自分がした羞恥を思い出したのか恥ずかしくなって両手で顔を覆う。僕の方が恥ずかしいって言うのに……。

「は、早く……食べて蒼汰」

「そう言われても……」

 こういうときは話を反らせば……。

「あのさ、アリス」

「は、はい!」

 顔を勢い良く上げて息が荒い彼女は何を思ったのか深呼吸をし出して、「……どうぞ」と目を瞑って顔を近づけてくるって意味が違う。けど……迫ってくる。どうする僕?! アリスの手は僕の膝上に置かれてだんだんと迫ってくる……距離は僅か数㎝。避けたら失礼な気がする……。

「ラブレターのことなんだけど!」

 大声で口にしていい事ではないと思うがこの雰囲気を流すために敢えて大声で言うとアリスは目を開いて見据えたような目でこちらを見つめてくる。地雷踏んだか……。

「……どうしたの? 頭逝った?」

「いや、だから……その、僕は……――」



「蒼汰!!」

 抹茶ソフトは有り難いのか宙を舞い床へと着地。僕はそのまま前のめりになりアリスを押し倒すように勢いよく倒れて視界が真っ黒になる。冷静に考えてみれば背中が異常に痛い。そして何故か深月先輩の「は、破廉恥だ!」という怒号。僕は一体どういう状況なのか判断の材料が少なすぎるって押し倒したように倒したって大変だろ! 急いで起き上がった僕の下敷きになったアリスは、「いたた」と声を漏らして僕と目が合いそっぽを向いて頬を染めている……。

「俺を嫁にするって言ってその振る舞い、殺されたいか? あぁ?」

 振り向くとそこには手首の柔軟をして骨を鳴らしている深月先輩が仁王立ちしていた。後ろには葉也が居るが慌てて深月先輩の後ろへ隠れてしまった。待て自分。考えるんだ……って痛っ!

「その女とはどういう関係とかはあとでこってり聞いてやるが、状況が変わった。……本当は……と遊ぶために来たのに」

 最後の呟きが聞こえなかったが僕は脳天にコブを見事に作られてその状況なら受け入れるしかなかった。



「えぇっと……ミユが誘拐された!?」

「お前声でかい」

 ビシッと女性店員から借りたお盆で僕の頭を殴り、真顔で喋り出す。一々「お盆ありがとう」って言って女性店員に返さなくていいのに……。葉也は距離を少し置いたアリスの横顔を眺めているが……一目惚れってそんなものなのか?

「あの女はきっとストーカー犯の真犯人だ」

「いや、それは――」

 口を挟んで死んだ魚のような目でこちらを凝視する深月先輩はアリスと僕を交互に見て、

「擁護したくなるのは、アレか? 彼女だからか?」

 と指摘してくる。

「誰もそんなこと言ってないよ深月先輩!」

「まぁ、良いが。とりあえず俺はKFKとJBKを喧嘩両成敗にする役目がある。琴音先輩に変わって俺が部を受け継いだんだ……」

「え……」

 部を受け継ぐ? それも琴音姉から……そんな話は一回も聞いていない。

「琴音先輩に言わないで欲しいって言われたんだけど、琴音先輩はね……勇者伝説探求部を創設した……張本人なんだ」


 これからKFKとJBKの第一次対戦の準備の最中、僕はこの勇者伝説探求部を創設した本人を知ることになったのであった――






「――もしもし、重人しげひと会長ですか?」


「これはどうも主様」


「主様って呼ばれるのは懐かしいわ」


「そうですか。それよりも今日は主様主催のファンクラブの全面対決を見に来ないんですか?」


「あたしには傍観者が性に合ってる、ただそれだけのことかしらね」


「傍観者、ですか。それよりも誰よりも勇者意識のある人間に”あんな試練”良いんですか?」


「大丈夫よ重人会長。ミユさんにはしっかりと誘拐されてもらったわ。それにね、重人会長」


「なんですか?」


「奇人の貴方には分かると思うけど、人を駒みたいに動かすってね、最高だわ」


「奇人のボクにですか……主様の弟はまだ剣道とも秋山ノビルとも縁が切れてないですよ?」


「話変わり過ぎよ重人会長。あたしが学園辞めた理由知りたがってたわよね?」


「答えになってませんよ主様。主様の辞めた理由を生徒会長のボクが知らない訳ないじゃないですか」


「それもそうね。学園を辞めた理由は、貴方と飯沼いいぬまに問題があるのよ?」


「そうですね。飯沼は今日、顔を出してますよ? あの女装家、売店のお嬢さんの格好でとうとう接触してしまいましたけど、大丈夫なのでしょうか?」


「えぇ、大丈夫。だってあの子はあたし達、橘家の”勇者”ですもの」

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