六話 企み
今日の朝、宅配便で届けられた大きな僕宛の段ボール箱の中身は琴音姉であった。そして何故か琴音姉は葉也以外の人物は知っていた。だがそれは結局のところ琴音姉が条咲学園を退学する前の友達と言えば納得が出来るわけだ。二歳年上で勝手に退学をして勝手にこの高校を進めてきた琴音姉……何もかもが琴音姉に仕組まれてきたように生きてきた僕は少し首を傾げるのである。何が起きてここに居るのかも、自分で分からなくなるぐらいだ。
「二番目到着か~、残念」
放課後に集合場所と指定された図書館の奥の机で突っ伏していた僕。横から囁くように聞こえたその声に顔を勢い良く上げる。勿論声音で分かるんだが、「ミユか……」と口にする。何か気に入らなかったのかミユは死んだ魚のような目でこちらを凝視してくる。僕は無罪を主張する。
「深月先輩はどうしたの? 一緒のクラスだよね?」
「一緒のクラスよ。ナッチーは清掃しに行ったの。執事って自己主張する割には仕事をしない執事を持って、ちょっとネガティブなの私」
心にビービー弾でも入ったのかとても突き刺さるお言葉だ。なるべく目を合わせないように顔を机に突っ伏した状態へ戻るも背中に抱き着いてくるミユ。
「ちょ、ちょっと!」
「……図書館では静かに、だよ」
ミユが自称天然とは深月先輩に聞いたが天然はこんな性質なのか……いや、元から素の自分で居る=天然だったのか……畜生、自分の脳内変換機能が狂ってやがった! 後ろから抱きついてくるミユは勿論制服姿。メイド服だったら、多分トイレへ急行していた……確実に。だが脚は白い肌が僅かに露出させるニーハイソックスという武器があって……トイレへ急行物だ。
「分かった。分かったからどいて。話すなら席に座って、お願い」
青少年の性的衝動というのか、すかさず邪な考えが思い浮かんでしまうのはそれのせいだ。身体の密着を避けてミユを一応安全地帯の席へと座らせてこれなら余計な邪な思いは消えるはず。ミユは困った表情を顔を傍で見せてから渋々とお菓子を買ってくれないお母さんに腹を立てた男子小学生のような表情で座る。アナタハナニガホシインダ、イッタイ。
「で、なんか用があるから僕の横へと座ったんだよね? ね?」
そっぽを向いてプクゥ~っと膨らむほっぺなんだがマシュマロのようだ。触りたい衝動を我慢して話を掛けるがどうやら無視の方向だ。何故だよ。
「いや部活だけど……別に蒼君のためにわざわざ会いに来ると思う?」
「思わないな。そっか、ミユも同じ部活だったよな」
「うん。ところで……なんかえっちな考えでもしたのかな?」
相変わらずな胸とかは思ってないんだが、そう言われると制服の上からの思春期的衝動で判断してしまう癖が……どっか行け邪な僕!
「とんでもないよ。別に胸が小さいとか思ってないからって、すいませんでした!」
思わず口に出してしまった僕に制裁を下すかのように背負っているスクールバックを降ろすなり、勢いを付けてその軽そうで重かったスクールバックは僕の顔へとヒットをしたのだった――
「――早いなお前らって蒼汰、どうしたその鼻血?」
深月先輩が来た頃には僕は鼻にティッシュを丸め込めて情けない表情で機嫌が悪いミユの隣へと大人しく座っていた。何も言わず僕はただ深月先輩に手を振るのであった。
「良く分からんが」
頬を掻きそんな前置きを置く深月先輩。確かに良く分からないと思うよ。
「えっちなことはやめとけよ……図書館だからって」
この人はどんな動画をみたのでしょうか? どうでも良い疑問が脳内を徘徊するが顔を横へと振い「ないですから、そんなこと」と冷静な判断のつもりであった……がまたもスクールバックが床から僕の顔へとクリーンヒットをするのである。
「痛っ!」
「……馬鹿蒼君」
ミユは恥ずかしそうな表情でこちらを見つめてくるがスクールバックは痛いという事実には変わりないぞ。スクールバックをミユへと押しつけて目の前に座った深月先輩へと「あの深月先輩」と話しかける。予想外に「なんだ?」と罵声は飛んで来ないものの頬を抓られる始末。
「痛いです!」
「そりゃ、生きてるってことだ。感謝しろ、俺に」
「深月先輩にですか……いや、おかしいでしょ」
「あぁ?」
「いえ……なんでも」
鬼のような形相でこちらの首をいつ狩りに来るか分からない僕は首を学ランの襟内へと引っ込めて顔を横へと振る。暴力と言葉の暴力反対!
「そういえばなんだ?」
「えっとですね、琴音姉に関して――」
「シスコンきついよ蒼君!」
隣の席からさっきまで不貞腐れていた表情のミユが僕の言葉を遮って反論? なのか分からんが口を挟む。そしてミユの表情はニヤニヤしているんだが、どういうことだ。
「やめろ、ミユ。こいつは真面目に相談しようとしてるんだ、琴音先輩について」
ミユがニヤニヤとした次は深月先輩の悪魔のような笑み。何を企んでいるのだろうか僕には予想がつきもしないぞ?