宇宙ってなんか嫌い
「宇宙ってなんか嫌い」
あたしの言葉に、理科準備室が沈黙に包まれ、時が止まった。
「時間が光速で進んだのかと思いました」
「なにそれ」
「タイム・ディレーションと言いまして、速度が光速に近づくほど時間がゆっくり進むんです。特殊相対性理論といえば聞いたことあるでしょう?」
「時間止めるほどショックだったか」
目の前にいるクラスメイトの理系メガネは、科学やら宇宙やら、とくに天文学大好きの男だ。
「アインシュタインがそんなもん見つけなかったら、沈黙も流れなかったのに」
「順番が逆ですよ。それに沈黙も比喩です。実際にはちゃんと流れてますよ、時間」
「わかってるわよ、この科学馬鹿」
わかってる。
この男の頭の良さに、あたしは惚れた。この男を射止めようとあたしは科学部に入部し、近づいた。しかしそれは、毎日あたしの苦手な理科の勉強やら宇宙の話やらを聞かされる地獄の始まりだった。
惚れた弱みとはいえ、あたしは迂闊なことをしてしまったと、ちょっと後悔している。
そして、目の前の宇宙馬鹿は、いつものように講釈を垂れた。
「地球だって宇宙の一部なんですよ?」
「100万回聞いた」
「100万回も言うのは大変です。ちなみに100万秒はだいたい11.57日かかりますよ?」
「うるさい。例え話を計算するな」
「それに、宇宙に比べたら人間のサイズも一生も、どれだけちっぽけなことか」
「だからよ」
あたしは、ムッとした。
そしてあたしは、メガネくんの胸ぐらをつかむ。
「ぼぼぼ! 暴力はいけません! 僕は科学的に建設的な議論を!」
「悪いようにはしないわよ、聞いてもらおうじゃないの! あたしの主張!」
ごくり、とメガネくんは唾を飲む。メガネくんは逃げられない、いや、あたしが逃がしてないからだが。真面目に見つめるあたしから、これから何を言われるんだろう、と困った様子。
瞬間、決意した。あたしはメガネくんの唇を奪った。
「宇宙はあたしたちがちっぽけになるから嫌い、あたしはあなたが好き。おっきな宇宙より、目の前のあたしを見て」
愛の告白だ。
そう、あたしのこの気持ちは、ちっぽけなんかじゃない。
宇宙なんかに負けてない。
あたしは返事を待つ。
「――エントロピーは常に増大します。あなたへの気持ちで、僕はいっぱいになります」
ぶっ。
思わずあたしは笑い出す。
「及第点ね! やり直しのチャンスをあげるわ! 次は素直に好きと言うこと!!」
ふたりしかいない理科準備室で、再び唇が重なった。




