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第16話 宝石のようなカキ氷

 グルメギルドの設立から数日。

 帝都は、うだるような暑さに包まれていた。


 ガルア帝国の夏は短い代わりに、強烈だ。

 じりじりと照りつける太陽。湿気を帯びた熱風。

 石造りの街並みは熱を蓄え、フライパンの上にいるような状態になっていた。


「……暑い」


 執務室のカイル陛下は、氷の魔石を組み込んだ送風機(扇風機のようなもの)の前で、ぐったりとしていた。

 額には汗が滲み、いつもの覇気がない。

 窓の外を見れば、警備の兵士たちもフラフラだし、城下町の人通りもまばらだ。


「これでは、ギルドの活動どころではありませんね。……まずは、この暑さを何とかしましょう」


 私は冷たい水を差し出しながら提案した。

 カイル陛下が気だるげに顔を上げる。


「何とかすると言ってもな……。氷魔法使いは貴重だ。城の冷却だけで手一杯で、民にまで涼を提供するのは不可能だぞ」


「ふふ、魔法使いなんて必要ありませんわ。……私には『科学の力』がありますから」


 私は不敵に微笑み、厨房へと向かった。

 そして、料理長のガントたちを招集した。


「さあ、皆さん! 今日は火を使いません! 代わりに、この『雪』を使います!」


 私がウィンドウから取り出したのは、巨大な透明な氷の塊(純度100%の食用氷)。

 そして、レトロな手回し式の『カキ氷機』だ。


「な、なんだその透き通った水晶は!? 氷か!? こんな巨大な氷、冬の湖でしか見たことねぇぞ!」

「この機械はなんだ? 拷問器具か?」


 驚くガントたちをよそに、私は氷を機械にセットした。

 そして、ハンドルを回す。


 ガリガリガリッ――!!


 涼しげな音が厨房に響き渡る。

 刃によって薄く削られた氷は、まるで新雪のようにふわふわと舞い落ち、器の中に積もっていく。


「うおおお! 雪だ! 夏なのに雪が降ってるぞ!」

「すげぇ……! 触るとすぐに溶けちまう!」


 山盛りの雪ができあがったところで、私は三色のシロップを取り出した。

 真っ赤な『イチゴ』。

 鮮やかな緑の『メロン』。

 そして、爽快な青の『ブルーハワイ』。


 真っ白な氷山に、とろりとシロップを回しかける。

 白かった氷が、鮮やかな宝石の色に染まっていく。

 仕上げに、甘い練乳をたっぷりと。


「完成! 『特製・ふわふわレインボーカキ氷』です!」


 私はできたてをワゴンに乗せ、執務室へと運んだ。

 カイル陛下は、目の前に置かれた極彩色の山を見て、目を丸くした。


「……なんだこれは。宝石の山か? 冷気を放っているが……」


「カキ氷です。氷を薄く削って、果実の蜜をかけたものですわ。……溶けないうちに召し上がれ」


 陛下はおずおずとスプーンを差し入れた。

 サクッ、という軽い手応え。

 赤いシロップの染みた氷を口に運ぶ。


「……!?」


 瞬間、彼の肩が震えた。


「つ、冷たい……っ! 口に入れた瞬間、強烈な冷気が弾けたぞ!」


 彼は驚きつつも、すぐに二口目を運ぶ。


「だが、美味い! 氷の冷たさと共に、甘酸っぱい果実の味が広がる! 火照った体が内側から冷やされていくようだ……!」


 彼は猛スピードで食べ進める。

 しかし、三口目を飲み込んだ時だった。


「ぐっ……!?」


 突然、カイル陛下がこめかみを押さえて悶絶した。


「ど、どうしたカイル!? 毒か!?」

「頭が……頭が割れるように痛い……! これは、氷の呪いか……!?」


「いいえ、ただの『アイスクリーム頭痛』です。冷たいものを急いで食べると、キーンとなるあれです」


「キーン……? くそっ、だがスプーンが止まらん!」


 頭痛と戦いながらも、カイル陛下は完食した。

 食べ終わる頃には、汗はすっかり引き、表情も生き生きとしていた。


「……生き返った。リリアーヌ、これは奇跡の食べ物だ。これを民にも振る舞えば、熱中症で倒れる者も減るだろう」


「ええ。そのつもりです!」


 その日の午後。

 帝都の中央広場には、長蛇の列ができていた。

 グルメギルド主催、『涼』のおすそ分けだ。


「つめたーい! あたまがキーンってする!」

「なんだこの青い味は! 海みたいだ!」


 子供たちが、舌を赤や青に染めて笑い合っている。

 大人たちも、仕事の合間に涼を求めて列に並び、一時の休息を楽しんでいる。


 かつて泥だらけの野菜しかなかった市場は今、色とりどりの氷と、人々の笑顔で溢れていた。

 それを見守るカイル陛下が、私の肩を抱き寄せて囁いた。


「……リリアーヌ。貴様が来てから、この国の色は変わったな」


「あら、まだまだこれからですよ。……秋にはもっと美味しい色が待っていますから」


 私がイタズラっぽく笑うと、陛下は「楽しみだ」と、私の頬に落ちたシロップを舐め取った。


 帝国の夏は、かつてないほど甘く、涼しく過ぎていこうとしていた。


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