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第15話 腐敗役人の一掃と『帝国グルメギルド』の設立

「こ……こ、皇帝陛下ぁぁッ!?」


 市場を管理する小太りの役人は、カイル陛下の顔――見間違えるはずもない、あの紅い瞳と覇気――を見て、カエルのように押しつぶされた悲鳴を上げ、その場に平伏した。


「も、申し訳ございません! まさかこのような下賤な場所に、陛下自らお出ましになられるとは……!」


 後ろにいた兵士たちも、慌てて武器を捨て、額を地面に擦り付けている。

 市場の空気は、熱狂から一転して、ピリピリとした緊張感に包まれた。


「下賤な場所、か」


 カイル陛下は冷ややかな声で呟き、役人の頭を踏みつけるように見下ろした。


「帝国の民が食を得るこの市場を、貴様はそう呼ぶのか。……なるほど、だからこんなゴミのような野菜しか並んでいないわけだ」


「ひぃっ! め、滅相もございません! これは、その……土地が痩せているせいで……!」


「嘘をおっしゃい」


 私が横から口を挟むと、役人はギョッとして顔を上げた。

 私は手に持っていた「しなしなの野菜」を彼の前に突きつけた。


「この野菜、枯れているのではありません。……『腐っている』のです。収穫してから何日経っていますか? おそらく一週間は経過しているでしょう」


「そ、それは……輸送に時間がかかるため……」


「いいえ。輸送ルートの問題ではありません。貴方たちが、『賄賂』を払った商人の荷だけを優先して通し、そうでない農家の荷を検問所で止めているからでしょう?」


 私の指摘に、役人の顔から血の気が引いた。

 図星だ。

 先ほど市場を見回った時、一部の屋台だけが法外な値段で売っていたのを見て、ピンときたのだ。

 この国の食糧難は、環境のせいだけではない。この腐った流通システムこそが元凶なのだ。


「民は飢えているのに、貴方のお腹はずいぶんと立派ですこと。……その脂肪、私たちが提供したトウモロコシよりも甘い汁を吸って蓄えたのではありませんか?」


「あ、あわわ……」


 私が冷たく微笑むと、役人は言葉を失い、ガタガタと震え出した。

 カイル陛下がため息をつき、氷のような視線を送る。


「……聞く価値もないな。衛兵! この男とその一味を捕らえろ。不正の証拠を全て吐かせた後、鉱山送りにしてやれ」


「はっ!」


「お、お助けをぉぉぉ!」


 役人たちが引きずられていく様を、民衆は拍手喝采で見送った。

 長年彼らに苦しめられてきた人々にとって、これは最高のショーだったに違いない。


「さて、リリアーヌ」


 カイル陛下が私に向き直った。

「害虫は駆除した。だが、それだけでは腹は膨れん。……貴様なら、どうする?」


「そうですね。まずは『仕組み』を変えましょう」


 私はウィンドウを開き、高らかに宣言した。


「本日ただいまをもって、この市場を『カイル陛下直轄』といたします! そして、私が代表を務める新組織――『帝国グルメギルド』を設立します!」


「ぐるめ……ぎるど?」


 聞き慣れない言葉に、民衆がざわつく。

 私はトウモロコシの空き箱を演台代わりにして、声を張り上げた。


「やることは三つです!

 一つ! 農家からの直接買い取りルートを確立し、検問での賄賂を撤廃します!

 二つ! 私が持つ『保存技術(現代知識)』を使い、野菜の鮮度を保ったまま市場へ運びます!

 そして三つ! ……不味いものを売る店は、私が許しません!」


 シーン、と静まり返った後。

 わぁぁぁぁぁッ!! と、地響きのような歓声が上がった。


「すげぇ! 皇帝陛下直轄だってよ!」

「あの姉ちゃんがトップなら、毎日美味いもんが食えるのか!?」


 先ほどの男の子も、「おねえちゃん、すごい!」と目を輝かせている。

 カイル陛下も、満足そうに頷いた。


「いいだろう。その『グルメギルド』とやらに、全権限を与える。……資金はいくらでも使え。俺のポケットマネーから出してやる」


「太っ腹ですわ、カイル様!」


 こうして、帝国の食卓を根底から覆す大改革が始まった。

 私の手元にある『お取り寄せ』スキルと、カイル陛下の『権力』。

 この二つがあれば、無敵だ。


「まずは手始めに……そうね。市場の皆さんに、私のギルドが提供する『本物の味』を知ってもらいましょうか」


 私はウィンドウを操作し、大量の『調理器具』と『食材』を取り出した。

 今日の夕食は、革命の味がするはずだ。


「さあ、皆さん! 今日は『大試食会』の第二弾です! 今度は野菜だけじゃありませんよ。お肉も、パンも、全部最高級のものをご用意しました!」


 歓喜の声が上がる中、私はカイル様にこっそりと耳打ちした。


「……カイル様。これでお忍びデートは中止になってしまいましたが、よろしかったですか?」


「構わん。……貴様が民に囲まれて笑っている姿を見るのも、悪くないデートだ」


 彼は少し照れくさそうに笑い、私の手を取った。

 その掌は、市場の熱気よりもずっと温かかった。


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