第11話 将軍たちの祝福と、肉汁溢れる『絶品ハンバーグ』
嵐のような元婚約者の襲来と、カイル陛下による衝撃のプロポーズ(?)から数分後。
執務室には、奇妙な熱気が充満していた。
「いやぁ、めでたい! 実におめでたいですな!」
「まさかあの鉄仮面の陛下が『俺の伴侶だ』『あーんしてくれ』とは……! 長生きはするもんですなぁ!」
強面の将軍たちが、ニヤニヤと笑いながらカイル陛下を冷やかしている。
先ほどまでの殺気はどこへやら、彼らの顔は完全に「親戚のおじさん」のそれだ。
「……うるさいぞ、貴様ら。いつまで居座るつもりだ」
カイル陛下は机に向かい直り、不機嫌そうにペンを握っているが、その耳が微かに赤いことを私は見逃さなかった。
隻眼のガルド将軍が、豪快に笑いながら私の前に進み出た。
「リリアーヌ嬢! いや、これからは『皇后陛下』とお呼びすべきか。我々帝国軍は、あんたの加入を諸手を挙げて歓迎するぞ!」
「あぁ! あんたがいれば、もう二度とあのドブ色のスープを飲まなくて済むからな!」
どうやら彼らの賛成理由は「食」が九割のようだが、それでも敵意がないのはありがたい。
私はカーテシーをして微笑んだ。
「ありがとうございます。皆様の胃袋の平和は、私が死守いたしますわ」
「おお、頼もしい! ……で、皇后陛下。さっそくですが、この『婚約祝い』に、何か特別なものを作ってはいただけないだろうか?」
ガルド将軍が期待に満ちた目で、チラチラと私の手元(正確にはウィンドウ)を見ている。
ちゃっかりしている。
でも、確かに今日は記念すべき日だ。セドリックとの悪縁を断ち切り、新しい未来へ踏み出した日なのだから。
「ふふ、分かりました。では、お祝いに相応しい『ご馳走』を作りましょう」
私が選んだのは、子供から大人まで、みんな大好きな洋食の王様。
『チーズ煮込みハンバーグ』だ。
厨房に戻った私は、さっそく調理に取り掛かった。
まずは合挽き肉に、炒めた玉ねぎ、パン粉、牛乳、卵、そしてナツメグなどのスパイスを加えて、粘りが出るまで手早くこねる。
パンパンッ! と空気を抜く音が厨房に響く。
「……肉を叩いているだけなのに、なぜかすげぇ美味そうな音がする」
見学していた料理人たちがゴクリと喉を鳴らす。
小判型に整えたタネを、熱したフライパンに並べていく。
ジュウウゥゥ――ッ!!
肉が焼ける香ばしい音と、脂の匂い。
両面にこんがりと焼き色がついたら、そこへ特製のデミグラスソース(缶詰ではない、リリアーヌ特製ブレンドだ)をたっぷりと注ぎ込む。
グツグツとソースが煮立ち、肉の旨味がソースに溶け出していく。
仕上げに、スライスチーズを二枚重ねでオン。
蓋をして待つこと三分。
「さあ、お待たせいたしました!」
私が大皿を持って執務室に戻ると、そこにはすでにフォークとナイフを構えた「待て」状態の男たちが待機していた。
「本日のメインディッシュ、『特製チーズ煮込みハンバーグ』です」
コトッ、と皿を置く。
濃厚な茶色のソースの海に浮かぶ、分厚いハンバーグ。
その頂上では、黄色いチーズがとろりと溶け出し、ソースと混ざり合って美しいマーブル模様を描いている。
「……肉の塊か? だが、いつものステーキとは違うな」
カイル陛下が興味深そうにナイフを入れた。
その瞬間。
ジュワワァァァ……!
断面から、透明な肉汁が滝のように溢れ出したのだ!
「なっ……!? 肉汁の洪水だ!」
「おい見ろ! ソースと肉汁が混ざって、輝いてやがる!」
カイル陛下は、肉汁とソース、そしてチーズをたっぷりと絡めた一切れを、口へと運んだ。
「…………っ!」
咀嚼した瞬間、彼が目を見開く。
「……柔らかい。ステーキとは違う、ほろほろと解けるような食感だ。噛むたびに、肉の旨味と玉ねぎの甘みが口の中で弾ける!」
「この黒いソース(デミグラス)も反則だ! 濃厚なのにしつこくない! これだけでパンが消えていく!」
ガルド将軍たちは、すでにパンのおかわりを要求して暴れ回っている。
カイル陛下も、夢中でナイフを動かしていたが、ふと手を止めて私を見た。
「リリアーヌ。……これは、危険な料理だ」
「お気に召しませんでしたか?」
「いや、美味すぎる。……こんな温かくて、美味いものを食べてしまったら、もう貴様を手放すことなど考えられん」
彼は少しソースのついた口元を拭い、真剣な眼差しで私を見つめた。
「改めて誓おう。……リリアーヌ、生涯、俺の傍にいてくれ。このハンバーグのように、熱く、濃厚な愛を捧げることを約束する」
「……っ、陛下」
ハンバーグに例えられたのは初めてだけれど、その紅い瞳があまりに真剣で、私は顔が熱くなるのを感じた。
「ヒューヒュー! 陛下、ごちそうさまです!」
「ハンバーグより甘ぇぞ!」
将軍たちの野次に、カイル陛下が「貴様ら、全員減給だ!」と怒鳴り、執務室は笑い声に包まれた。
窓の外には、美しい夕焼けが広がっていた。
私の新しい生活は、きっとこのハンバーグのように、温かくて美味しいものになる。
そんな予感がした。
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