賭けに負けた話
今、滅びが確定した世界の中。
私は独り、過去の記録を読み漁っていた。
「なるほどね」
くすりと笑う。
書物は。
というより、文字は人間の作り出したものの中で最も偉大な発明だ。
何せ、知識や思いを未来に残すことが出来るのだから。
普通ならば劣化する記憶を鮮明なままに残す。
受け取り手は何も本人だけに限らない。
それが最も優れたことだ。
他の生物なら自分が生まれた以前のことを知ることはできない。
まして、数千年も前のことなど。
「『人類は確かに愚かかもしれない。しかし、その知恵はこの星を救うことになるかもしれない』か」
数千年も前に残された当時の文字。
形を変えて現代まで残った意思。
記録によればこの記録が残されたとき人類は滅びかけていた。
当時の人々は二つに分かれたらしい。
即ち素直に滅びるか。
あるいは何としてでも生き延びるか。
そして人類は生き延びる道を選んだ。
地球に無視できないダメージを与えながらも。
「なるほど。なるほど。あなたの言う通りだよ。確かに『人類の知恵は地球を救う方法を見つける可能性はあった』と思うよ。私も」
空しく。
悲しく。
私の笑い声が響いた。
「『これは賭けだ。だが、十分に勝算のある賭けだ。何せ、今回。人類はあまりにも自らの愚かさを知ったのだから』」
読み進める声が寂しい。
もう人類は自らの殺し合いにより私しか生きていない。
他の生き物を。
この星を巻き添えにする形で滅びたのだ。
「つまり、賭けに負けたんだよ。あんた達は」
命がたった一つしかない場所。
そして、直にそれが失われる場所。
賭けに負けた世界で私は過去を嘲笑しながら紐解き続けた。
それができなくなるまで。




