夫婦の日常 #3 〜 見えているもの 〜
今日は、夫の実家に帰省している。
というか、今まさに車で向かっている途中。
片道約4時間。
あえてサービスエリアに寄り道しながら、ゆっくりと進んでいる。
夫のご両親はとても良い人たち。
それでも私は必要以上に気を遣ってしまう。過去にはこんなことがあった。
私が料理を作った翌日、お母さんが同じ料理を作ってくれた。
たったそれだけの事が、気まずくて堪らなくなり、そのせいなのか、
首に蕁麻疹が出てしまった。
状況を説明することもできず、余計に気まずい空気に……。
その時は、普段、人の感情や空気を読むのが苦手なはずの夫が、
驚くほど素早く動いた。
「なんか、つまんないから、もう帰ろうか」
「え? 昨日来たばかりだよ。友達に会ったりしなくていいの?」
「うーん、まぁ別にいいよ。また来れば。」
私は安心と、申し訳なさと、後悔と、
そして、猛烈なかゆみに首を何度も叩いた。
けれど夫が、
「恵だからね、蕁麻疹出るんだよ」と、いつもの調子で淡々と言ってくれた。
――そんなことを思い出すと、少し安心する。
夫はちゃんと私を、理解してくれているのだと。
今、私はサービスエリアでさつま揚げを食べている。
車に戻ると、夫は休憩がてらスマホでゲーム中。
私はというと、ネットニュースで気を紛らわす。
行き先への心の準備と、ほんの少しの緊張を和らげるためだ。
記事の関連するニュースの中に、『戦時中に若者が家族へ宛てた最後の手紙』
というものがあった。読んでみると、そこには、家族を思う切実な思いが綴られている。
そして、恐れや、未練のような悲しみが、温かい言葉に滲んでいる。
叫び出したい衝動を抑えて——そんなふうに見える。
読んだあと、彼らの思いの純粋さが、美しいと思えた。
同時に自分の考えている、浅はかさが、くだらなく思える。
自分に反省する。
私が黙り込んでいると、夫が言った。
「今日さ、蕁麻疹出たらすぐ帰ろうね。また来ればいいんだから」
「うん。ありがとう。流石に大丈夫だと思うけどね。」
「まぁ、恵だからね。」
そしてまた、いつも通り淡々と話す。
「そろそろ課金しようかな。今月くじあるし。」
「すればいいじゃん。そんなに無駄遣いしてるわけじゃないんだし。」
「うーん、帰ったらしようかな。チャチャっと家に行って、
俺たちの家に、早く帰ろう」
そう言って、車は走り出した。
気づけば、私の不安やモヤモヤは静まっていた。
「……あたしも課金しようかな。」
「ガチャる?」
「そこには課金しません!」
窓の外に顔を向けると、お茶畑と緑の山々が、空が広がっている。
その景色が綺麗——そう、強く感じた。
「窓開けたいっ」
「開ければいいじゃん。」
「え、ここ高速だよ。」
「そうだね。」
夫の実家までのドライブを楽しむことにする。
私に、見えている世界を——
最後までお読みいただき、ありがとうございました。人は悩みを抱えると、
自然に周りが見えにくくなってしまうように思います。
本当は、そういう時だからこそ、一旦立ち止まり、
少し視野を広げてみるのが、何かの気づきにつながるのかもしれません。
……わかってはいても、そんなに簡単にいかないのが、
人間かもしれないですね(笑)




