第一話 遭遇
北極の氷は大半溶けてしまい、南極に陸地が現れる程に世界の天候は荒れていた。
平均気温は年々あがり今年の夏も日中は40度を越える事が珍しくもないという世界の有り様だが、俺は特に危機感も抱かず過ごしていた。
空調設備の整った職場とマイカー通勤により暑さとはほぼ無縁の生活をしている事が大きな理由だ。
俺の夏はいつも仕事と家の往復で終わり、若者のように海水浴や祭りを楽しむような事は無かった。
寂しいやつと思われるかもしれないが、観光地に産まれた者あるあるではないかと思っている。
海や砂浜の美しさを売りにしている観光地が俺の故郷なのだ。毎日がオーシャンビューの生活は自然の美しさなど特に感じず、どちらかといえば自然の脅威を感じずに済む天候に喜びを感じる。
そう、俺はそんな人間だった―――
◆
特に予定も無い休日、最寄のコンビニに昼飯を買いに向かう。
今日も相変わらず猛暑日が続いていたが車移動の俺にはあまり関係ない事だ。
空調の効いた車内から室内に移動するだけの生活が続いている為、日焼け止めも塗っていないのに肌は白い。
猛暑日で真っ昼間。最高気温更新中の最中に出歩けるのはバカか体力がありまっている奴くらいだ。
実際この夏はまだ歩行者も自転車も見ていなかった。
そんな事を考えながら運転していたところ、車道に向かって何かを掲げる人が見えた。
この先工事でもあるのかと注目してみると、遠目で分かるボロボロのジーンズにタンクトップ。傷んだ茶髪のボサボサ頭に日焼けした肌は浮浪者の容姿に近いものがあった。
清潔感を感じない姿に嫌悪感を抱き、人物を見るのを辞めて文字に注目する事にした。
次第に近くなっていく距離。プラカードのように掲げているものの文字が読める距離になってきた。
このクソ暑い中、本当にご苦労様だなと文字を読んで見ると【海】とたった1つの漢字が並んでいた。
あぁ、そうか、ヒッチハイカーか。
そう理解できた瞬間、視線をダンボールに書かれていた文字からヒッチハイカーの顔へと移した。
肌を焦がすような照りつける陽射しに顔を歪めているその人物は遠目からでは工事現場のオッサンにしか見えなかったというのに車で横切る時にまだ若い女であることを理解する。
駅から遠くバスも来ない場所に女が一人?
俺は下心と興味からしばらく運転しながら葛藤する。
5分程悩み、もんもんとした気持ちに決着がつかず、この気持ち悪さに決着をつけるため引き返す事にする。
俺が戻るまでに誰かに拾われているはずだ。
むしろそうあって欲しい気がする。
………
……
…いたな。
優柔不断な俺と下心から、この出会いは成立したのだった。