小話2:王都の流行りもの
ある日の夜。マルクス、タロン、ポッコル、ウェイトが談話室のソファで寛いでいる―――
「ポッコルとウェイトは王都出身なんだよな?」
「そうだね、僕らは王都の平民街出身だよ」
「平民街ってどんなところなんだ?」
「いたって普通の街だと思うけど……」
「マルクスとタロンは王都に来たことって無い?」
「ぶっちゃけ無い」
「訓練所にはどうやって?」
「俺達はジュセ村から直接来たんだ」
「ああ、地方の村や町だと管轄の駐屯地から出発だったっけ」
「そうだ。王都の近くを通ってきたけど立ち寄らなかった」
「俺の実家は果樹園でさ、出荷の手伝いするから王都いきたいって何度も頼み込んだけど、道中は危ないからって連れてって貰えなかったんだよね」
「地方は騎士の護衛が無いとまず搬入すらまともに出来ないぞ」
「ジュセ村って比較的王都に近いよね?」
「ノルデンヴィントやカホールタハシュに比べればまぁ近いだろうなぁ」
「一番王都に近い村とは言われてる」
「それでも搬入は大変なんだ」
「王都周辺は魔物の群生地だからな」
「あと盗賊被害もあるって聞くよ、巡回隊が見回ったり村や町に寄宿舎や駐屯地を置いて被害を最小限に抑えてるって行商人の人から聞いたことある」
「だから王都の情報ってなかなか入ってこねーんだよね。聞けたとしても口伝いだから既に旬や流行りが終わっちまってたり、間違って伝達されてきたりして伝わってこなかったりで。貴族だとそうじゃないんだろうけど、俺等みたいな普通の家の人間だとわかんなくってさ」
「王都がどんなところで、何が流行っているのか気になってな」
「そっか……うーん、何かあったかなぁ」
「なぁんだよぉ、何もねーのか?」
「店や露店が立ち並ぶ通りがあると聞いたんだが」
「ああ、ファーム通りのこと?確かにあそこは沢山お店があるよ」
「店舗として構えてる所も、露店で構えてる所もあって、結構長いよな。俺の実家もそこにあるよ」
「ウェイトの実家は何売ってんの?」
「布」
「へぇーどんな?」
「貴族様が身に着ける服の生地とか、ドレスの飾り布、他の国の珍しい布とかかな。この前は東の国で作られた織物っていうのを手に入れて、うちの親父は見たこと無いくらい踊り狂ってたよ」
「そんなに貴重なものなのか?」
「東の国って今ほとんど鎖国状態だって話を聞いたことがあるよ、貿易船を制限してる?とかなんとか……よく手に入ったね!」
「うちは旅の行商人と連帯契約してるんだ」
「連帯契約って?」
「複数人の契約主がいるって感じかな?例えばうちだと布、他の店からはアクセサリーや宝石なんかを買い付けてきてほしいってお願いして、かわりに行商人の必要な経費を分散して建て替えるんだ。沢山の店と契約してる旅の行商人はそれだけ腕利きだし目利きもいいから、いい宿に泊まれるしいい食事もできるんだぞってめちゃめちゃ自慢された」
「うちの村にも時々来てたなぁ行商人」
「移動大変そうだけど、おいしい食べ物食べられるのはいいね」
「ポッコルもファーム通りって所に実家あるのか?」
「そうだね、僕の実家はファーム通りをお城方面に突き進んでいった先の噴水広場ってところで酒場を営んでるよ。隣には宿屋もあるから、朝早くから夜遅くまで店を開けてた」
「ちなみにその噴水広場の噴水は、500年前の戦いの後に作られたものでめちゃめちゃ古いよ。猫とフクロウと花瓶の石像から水が出てる」
「あるじゃん観光名所!」
「これって観光名所なの?」
「名所で言ったらやっぱりお城になるんじゃない?」
「いやいや王立図書館だよ!」
「本はいいや」
「ええー!?マルクスって観劇とか興味ない?」
「かんげき?」
「お芝居だよ!今王都で流行ってるものと言ったら本と歌とお芝居なんだよ!」
「そのお芝居の元になってる本も手軽に見れるのが、王立図書館の素晴らしさなんだ!」
「そうなの?全然ピンとこねー」
「でも、一度だけ俺達の村にも劇団が来たことがある」
「そうだっけ?」
「マルクスは覚えてないんだね」
「こいつは風邪ひいて倒れてたからな。原始の魔女生誕祭の日に来て、昼と夜に見た魔女の演目は面白かった」
「あ!?もしかしてお見舞いに飴細工持ってきたのって」
「流石に哀れで」
「くっそー!俺も見たかった!やっぱ王都いきてー!」
「もし一緒に行くことが出来たら、色々案内するよ」
「いいね、逆に僕等がマルクスとタロンの村に行くことがあったら案内してよ!」
「ジュセ村に観光名所なんかねーぞ、広大な畑、だだっ広い牧場、そんだけ」
「食べ物はどれも新鮮だな」
「それだけで行く価値あるでしょ」
「でもさでもさ、王都だとその露店で沢山食べ物が並んでたりするんだろ?流行りのものとかねーの?」
「もちろんあるよ、食にも旬や流行はあるからね」
「そういうの聞きたい!」
「今年だとブルーフィッシュサンドが凄く流行ったかな」
「ブルーフィッシュって、夏のブルーリッチでよく獲れる魚だよな?」
「そう!それ。しっかり骨を取り除いたブルーフィッシュの切り身をふっくらするまで蒸して、いろんな野菜と挟んで出してたよ」
「うまそー!でもなんで?毎年旬が来てたし急に流行り出したのは何か理由があるのか?」
「実は僕もよく知らないんだよね、分からないけどうちの店は流行りに乗るタイプだから昼時に持ち帰りでも出したりしてたよ」
「俺、知ってる」
「ウェイト……!?」
「貴族のお茶会でとあるご令嬢が持ち込んだのが発端みたい。それはそれはおいしくて忘れられない味だったみたいで、出席されてたご令嬢がまた食べたいと駄々をこねて作らせたら、その両親もめちゃめちゃ気に入って、そこから火が付いたんだってさ」
「よく知ってるな」
「うちの布、貴族の御用達だから自慢話とかよくされるんだよね」
「なるほど……流行の発端は貴族からって話は俺も聞いたことある」
「退屈しなさそう」
「そんなことはないよ」
「アズロワ!?」
「どうしたの?普段談話室来ないのに」
「知ってる人の声が聞こえた気がしたから覗きに来たんだ、そしたら楽しそうな話をしていたからついね」
「丁度いいや!アズロワって貴族じゃん?自分で流行作ったりしたことある?」
「マルクス失礼だろ」
「いいんだよタロン。そういった類のことは不得手だからね、僕よりもジュノが流行作りは上手だったよ」
「そうなんだ!?」
「例えばどんな?」
「さっきの話だけど、とある貴族のご令嬢というのは侯爵令嬢なんだ。名をネリーと言って、僕とジュノとは古くから付き合いがあってね、よく遊んだりしていたんだよ。ある日、ご令嬢同士のお茶会だと甘いものが多くてマンネリ化してきていると僕等に相談してきてくれた時、ジュノが提案したんだ。ブルーフィッシュに衣を纏わせて揚げたものをサンドイッチに出してみたらって」
「ってことはジュノがすげーじゃん!」
「どうして油で揚げる、だったんだろう?王都で流行っているものだと生の切り身が多いのに」
「油は高価なものだから」
「わかったぞ、高いものを惜しみなく使える程家はすごいですよって知らしめるためだ!」
「マルクス、タロンが頭抱えちゃったよ」
「でも正解だよ。この国で取れる油は魚、動物、魔物、木の実位だし、揚げ物に使うだけの油となると相当量必要だからね。新鮮なブルーフィッシュを身崩れ起こさず調理するのも腕がいる。油の知識や保存方法なんかを熟知している腕利きの料理人を抱えられる程裕福であり、油も沢山用意できるくらい事業は順風満帆であると、1つの品で知らしめたんだ。ジュノは貴族間のパワーバランスもよく見ていたから、ネリーの家を一目置くべき存在だと暗に伝えるために提案したんじゃないかな。一般に普及したのは想定外だったと思うんだけど、衣で揚げるのではなく蒸して味付けをするというところで貴族と平民の差分化を図り且つ、大勢の人々に親しまれる事でネリーの家に箔を付けたかったのでは……というのは僕の勝手な考えさ」
「……なんか」
「どうしたのマルクス」
「貴族ってすげーんだな」
「俺達は畑や家畜のことなら分かることも多いが、1つの流行で沢山の情報戦が繰り広げられていたとは夢にも思わなかった」
「もちろん、さっきも言った通り本人に確認しない事には真実は分からないけど……流行っていうのは、自然と流行るのではなく、流行らせる人間がいるから成り立つものだと教えられたからね。たとえばポッコルやウェイトが熱心に話してくれたアンジェリカシリーズだって、もしかしたら誰かの思惑にのっとった流行かもしれないよ」
「まっさかぁ~!アンジェリカシリーズは面白いから流行ってるだけだよ!」
「そうだよねぇ~!」
ははは、と笑い声が木霊する。
しかしアズロワだけはどうにもうまく笑えなかった。
〆鯖




