小話1:アデルの好きな食べ物は?
とある日の夜、食堂にて―――
「アデル先輩!こんばんは」
「ポッコルとウェイトじゃないか、こんな遅い時間に食事取ってるのか?」
「僕等お風呂に入って談話室で話してからご飯を食べるのがルーティンになってまして」
「今日は少し盛り上がってしまってこんな時間に」
「へぇ、どんな話をしてたんだ?」
「僕の実家は酒場を営んでいるのですが出している料理の方が人気になっちゃってて、食事目当てで来店される方が多かったんです」
「以前そんな話を聞いた気がするな」
「覚えててくださったんですか!?嬉しいです!」
「それで?」
「で、料理にもやはり流行があるんですよ」
「そうなのか?」
「アデル先輩は王都にいらしたことは?」
「もちろんある、といっても長く滞在はしていないが……ああ、でも露店は少し覗いたりはしたな」
「それです!!」
「ん?」
「露店にはたくさんの食べ物が並んでますよね?例えば夏ならブルーリッチ港直送のブルーフィッシュのいろんな部位や加工済みの卵や料理なんかが並んでます!夏の味覚の一つだからです!でもその料理には流行りがあって、今年だとブルーフィッシュサンドが物凄く人気が出て流行したんですよ!お店によっては違う味付けや具材が挟まっていたりとバリエーションも豊富で、うちの酒場も持ち帰りで出す程だったんです!」
「そうなのか」
「ええ!そこで思ったんです、アデル先輩の好きな食べ物は何かなって!」
きょとんと驚いたような顔でポッコルを見る。
それを聞いていたナジュが腹を抱えて笑った。
隣のフレデリックも笑い半分不思議半分という顔をしている。
「今年の新入生は面白いのが多いな!」
「好きな食べ物かぁ……そうだなぁ、ファビリオさんの飯はどれも美味しいけど、そういうことじゃないんだよな?」
「そういうことじゃないです!」
「特にこれといったものはないんだが……ああでも、果物のシロップ漬けは好きだな。滅多に食べられないから」
「うーん、希少性で好きになってしまう場合もあるか」
「どうしてそんなことを?」
「食の好みって生まれた場所によると思うんですよ」
「ほう?」
「例えばこの国の人たちはシチューに故郷を感じると思うんです」
「毎日寒いから?」
「というのもあるが、乳とかチーズとか肉だろうな」
「チーズなんかどれも同じなんじゃねーの?」
「何を言う!チーズってのはとても奥深くて味わい深さそれに「わーかった!悪かったってお前の実家のチーズは特別美味いよ!」
「分かってない!うちだけじゃなくてだな」
「あっちは放っておいて続けてくれ」
「あ、はい、っとー……それで、他の国の方々にはシチューが異国の味になるわけです。長く滞在されてる方は故郷の味が恋しくなったりするみたいなんですよ。だからアデル先輩の好きな食べ物を知ることが出来たら、失われてる記憶の部分のヒントになるかと思いまして」
水を打ったように静まり返る。
驚いた顔をして止まるフレデリックとナジュだったが、対照的にアデルは非常に興味深そうにポッコルとウェイトを見ていた。
「なるほど……考えたことも無かった。食の好みから住んでいた場所や生まれを予測することが出来るのか……!」
「断定するのはちょっと難しいかなとも思うんですけど」
「でも食の好みって育ってきた環境に左右される事が多いみたいですから!例えば今何も思い当たらなかったとしても、これからいろんなものを食べた時に、もしかしたらピンとくるものがあるかもしれません!」
「要するにお前等、アデルの事をずっと談話室で話してたってことか?」
「す、すいません余計な事だとは分かっていたんですが」
「考え出すと止まらなくなってしまって」
「2人ともありがとうな、色々考えてくれて」
「出たよ人たらし」
「お前だってたらされたくせに」
「うるせーよ」
〆鯖




