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夢元のレムニスケート  作者: やまだうめた
魔女の国と少年

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12/16

異変 6

 同時刻。

 表ではラバヤンシュの弓騎士と赤薔薇姫の一騎打ちが繰り広げられていた。

 彼の弓術は多彩で、まるで流星のようなとんでもないスピードの一本矢が飛んできたと思えば、次は霧雨のごとく降り注ぐ矢の雨と言う手数の多さに赤薔薇姫はご立腹だ。


「んっもー邪魔すんな!」


 怒りに任せ攻撃を仕掛けるが、彼女の爪から放たれた凝固した血液の矢は訓練所の入っている低い岩石の岩肌や雪に刺さるばかりで、踊るようにかわす白い鎧には傷一つつけることが出来ない。

 男は弓術の才能を見込まれてラバヤンシュに所属することになったまだ日の浅い騎士であったが、既にアドネル騎士団所属の同期とは比べ物にならない程の研鑽を積んでいた。

 彼の名はダート。青い瞳は赤薔薇姫を捕らえたまま離さず、ハーフアップに纏めた色素の薄い髪を振り乱し攻撃しつつ移動しながら、後方支援が回収した矢を1動作で矢筒に受け入れ休む間もなく戦い続けている。物資が困窮する中での戦いも既に経験済みらしく、動きに一切の迷いがない。

 このような事態になっているのには理由があった。

 それは、アデルがこの騎士団領から脱出するための囮を務めるため。

 職人街前での副団長との話し合いの後、伝令により現状報告を耳にしたドネードはラバヤンシュの騎士を招集した。アデルを目的の岩戸まで逃がすため、魔物を殲滅しつつ赤薔薇姫の気を引くため、あわよくば討伐するための強者が必要だったのだ。が、見つかったのは2人。1人は前線で盾を構え戦闘真っただ中だったため、託されたのは弓騎士だった。

 ダートは「気を引くだけなら可能です」と断言した。1人で何十何百と魔物を倒すあのラバヤンシュの騎士が、気を引くだけならと言う言葉を口にした時点で、この状況で討伐は絶対的に無理だと言う事を理解したドネードが全体に号令をかけた。大手門の守りはそのまま地上の魔物を、他弓騎士は空の魔物討伐に集中し、ダートが全力で戦えるよう援護に徹せよという命令だ。

 こうしてダート対赤薔薇姫という構図が出来上がり、攻撃を受けず、かつ他騎士へ攻撃を向けさせないよう善戦していた。しかし、予想以上に物資が枯渇している事と、赤薔薇姫の魔物を生み出す速度に苦戦を強いられている。

 アデルは現在玄関ホールの中で身支度を整え待機中だ。あとはダートが赤薔薇姫を大手門広場が見えなくなる位置まで誘導することが出来たら合図を送り、走って岩戸まで向かう手筈となっている。

 魔物を一撃で何匹も倒すことはできても、赤薔薇姫を追い詰めるための矢がすぐに尽きてしまう。補給するため走り回り、都度見習いや訓練生が死に物狂いで集めた矢を手に入れてはいるがささやかな数で、思うように誘導できていない。

 赤薔薇姫はダートの矢をことごとく避けていく。避けるついでに魔物も生み出し、そして生まれた魔物達は岩石や騎士達を攻撃していく。なにより巨大蝙蝠の体から落ちてくる長いぶよぶよが厄介だった。どうやらヒル型の魔物のようで、騎士の上に落ちると素早い動きで皮膚に張り付き血を吸い始める。吸われている間は痛みを感じない為、突然貧血状態になりかねない。攻撃と同時に降り注ぐぶよぶよの雨にも注意が必要だ。

 直接叩こうにも赤薔薇姫は一定の高度を保っており矢の雨に見舞われようとも決して地上へ下りてくることは無かった。

 埒が明かない。

 このままでは体力が尽きるのが先か、傷を負うのが先か。嫌な汗がじっとりと額を濡らし始めたその時、後方より見習い騎士がダートに向かって拳を上げた。


「80!」


 それは待ちに待った知らせ。

 即席矢が出来た合図だった。

 長い戦闘の中で矢が切れてしまった場合、落ちた魔物の死骸から矢を引き抜きそれをまた使うのが手っ取り早い。だが今回のようにまともな準備も無く始まってしまった状況ではすぐに物資は枯渇するだろう。矢は真っ先に無くなると見越していたダートは、ドネードに見習いや訓練生たちに即席の矢を作らせるよう頼んだ。作り方を聞いたドネードはそれを承諾し、見習いと訓練生へ指示を出す際に半分を矢の回収に、もう半分を即席矢の制作に充てていたのだった。

 瓦礫から引き抜いた材木を真っすぐに削り先端を尖らせて作ったもので、削った部分を数秒間火であぶり炭化させている。こうすることで硬度が上がるため、このようなじり貧の状況でもどうにか戦える水準まで持ってくることが出来るのだ。

 駆け寄るダートの邪魔をする赤薔薇姫の眷属達は弓騎士の放つ矢により殲滅され、風を切る甲高い弦の音が飛び交う中即席矢は全てダートの矢筒の中へと納まった。

 風きり羽は無く粗削りな木肌はいつも使っているものよりも太いため、それを正確に飛ばすことは難しい。更に即席矢の飛距離は非常に短く、届く距離まで詰める必要がある。目指すは訓練所岩石頂上。

 他の弓騎士達の魔物を狙うタイミングを見計らい、岩石の外側に彫り込まれ階段を跳ねるように駆け上っていった。アデルがツララや氷を剥がしていたおかげで、難なく天辺へと辿り着く。赤薔薇姫を正面に捕らえ、そして持てる全ての技術を駆使してダートは烈火のごとく矢の弾幕を浴びせかけた。

 それは生きた帯のように、正面から包み込むような動きで広がり彼女の行く手を阻む。

 当然、その弾幕を避けるために赤薔薇姫は移動した。目論見通り彼らが見えなくなる位置へ。


「今だ!」


 ガロンが合図を送り、アデルは白いシーツをフードのごとく身にまとい、腰には短剣を、腕には槍を抱え、姿勢を低くして走り出した。

 出で立ちは朝の訓練時と少し変わっており、皮装備の上からヒュドベアーと呼ばれる魔物の毛皮で作った白いコートを腰で絞って着込み、黒のネックチューブが顔半分を覆っている。

 真っ白なシーツを被り移動する人間に気付く魔物はおらず順調な滑り出しだったが、先程まで全体を見渡せる位置に陣取っていたため、赤薔薇姫の戻ろうとする意識を反らすことが出来ない。くるくると上空で回る赤い花が空中ではじかれるように方向転換する様はまるで衝突し合う独楽のようだ。

 あともう少しで岩戸へ届く、というところで、状況を把握するため端で戦っていた事が災いし赤薔薇姫の攻撃を集中的に浴びた足場の岩石が崩れ、ダートの体が割れた岩と共に外へ傾き放り出された。

 他と比べて低い岩石といえど、人が落ちていい高さではない。

 それを見逃す赤薔薇姫でもないだろう。

 あわや攻撃を受ける、と痛みを覚悟した瞬間だったが、赤薔薇姫が優先したのは自分の立ち位置の修正だった。勢いをつけて空を蹴ると中央広場方面から大手門前の広場の方へ体を倒す。

 ダートはその行動に、一気に頭に血が上り沸騰するのを感じた。

 要するに赤薔薇姫は、この国でトップクラスの戦闘力を持つ者だけがなれるラバヤンシュの騎士を脅威と見なしていないのである。


「俺を見ろ!!」


 傷つけられたプライドは怒りの原動力となり、信じられない身体能力を発揮する。

 崩れ落ちる岩石と共に外へ傾いた体を空中で一回転させ、遠心力と共に引き抜いた腰の剣を岩肌へと突き立てた。落下する重力を逆手に取り剣の柄という極めて限定的な部分に両足を乗せしならせ、反動と共に勢いよく岩石の天辺よりも高く飛び上がる。矢筒からまとめて即席矢をつかみ取り、変則的な弾幕を赤薔薇姫へと浴びせかける猛攻撃が始まった。

 何本かは軽やかな身のこなしで避けたが、1本の流星をかわした後ろに隠れていた矢が見事に彼女の首元をかすめ、引き裂かれた布の下から赤い血が噴き出す。

 首元に指を這わせみるみる顔が怒りに歪んでいった。


「あたしのお気に入りの服!!許せない……!」


 自分の首から噴き出した血を指にまとわせ沢山の血のリングを創り出してダートめがけて飛ばした。軌道はブーメランのような曲線を描くものだったが、血液からは想像もつかない程の鋭さで迫ってくるのを寸での所でかわし、ダートは天辺の上で踊るように矢を放ち続ける。

 彼のプライドが赤薔薇姫の意識を反らしてくれたおかげで、一切の攻撃を受けることなくアデルは無事に目的の岩石前までやってくることができた。


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