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夢元のレムニスケート  作者: やまだうめた
魔女の国と少年

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11/16

異変 5

 大部屋前へいち早く戻ってきたのは玄関ホール方面の階段を確認しに行ったスワラグ、グズリ、ジュノ、レナーゼ他新入生班だった。

 次に戻ってきたのはアズロワ、ケケン、ポッコル、ウェイト、タロン、マルクス、ガルエド、イーゴン他新入生の訓練所方面を確認しに行った班である。

 絶え間ない轟音を聞きながら、訓練所方面の報告から始まった。


「まず、爆発元は空調装置で間違いない」

「訓練所はほぼ倒壊。空調装置を中心に爆発の衝撃で内壁と天井が崩れて居住区内が瓦礫の山で2分割されてる。大衆浴場方面に降りる階段も下の空調装置の爆発で通れなくなってるみたいで、何が起きてるのか把握できていないと言ってた」

「焦げ臭い匂いの原因は訓練所の火災だったぜ。爆発の際に出た炎が飛び火して木材に引火したみたいだけど、火の手が大きくなる前に消火出来たって。爆発の原因は分からないと言ってた。空調装置が木っ端微塵に吹き飛んじまってて判断がつけられないそうだ」

「石の向こうには上級生や見習い騎士が結構いるみたいだったけど、瓦礫の下敷きになっている人がまだ沢山残ってるらしい」

「とにかく怪我人が多く救出が間に合っていないとも言っていた」

「人手も医療道具も足りていない。向こう側からも石を撤去してくれていたけど、爆発に巻き込まれず無事だった人が少ないのと怪我人の手当てで撤去作業がなかなか進まないみたい」

「2次崩落が起きないよう慎重にやるため時間がかかると言っていたけど、動けるけど怪我してるって人が多くて重い石を運ぶスペースも少ないんだと思う。僕等はその手伝いをしに行く」

「玄関ホール方面にも偵察に行ってることを伝えたら、現状を詳しく把握したいからなんでも教えてくれってことだったよ」

「そっちはどうだった?」

「玄関ホール側も割れた石が積みあがって通れなくなっていた。というか階段に続く道が塞がってしまっていたんだが、ドラッド教官の声を聴くことはできた」

「訓練所方面の状況が分かったら伝えるようにってことと、外と内から石の撤去作業を行うと言ってた。僕達は教官の手伝いをしに行くよ」

「それから医療道具ね、包帯もポーションも、医務室に続く道も一部崩落で取りに行けないみたいで足りないって」

「部屋からシーツを大量に運び出す。誰のシーツも例外なく持っていくからな」

「それから」


 ふう、と小さく息を吐きスワラグがケケンを見た。


「現在このアドネル騎士団領は魔族による攻撃を受けているらしい」


 魔族、という聞きなれない単語に驚き固まる。アズロワが代弁するように言葉を続けた。


「じゃあ、ケケンが見た空の女って……」

「ああ」


 翼も無く宙に浮けるなんてただものではないと思ってはいたが、それが文献に残っているような魔女の時代に生きた種族だとは思いもしなかった。

 改めて、自分のとった行動は間違っていなかったのだと確信できたと同時に、顔を見られなくてよかったという安心感がケケンの脚から力を奪い取る。


「ケケンが見た女は魔族の赤薔薇姫≪スカーレット・ルージュ≫と名乗ったらしい。空から攻撃してきてる魔物はその眷属で、現在も上空から魔物を生み出し続けている、と言っていた」

「ってことは、騎士と魔族の持久戦になってるんじゃ?」

「その通り。今はまだ倒せてはいるが、恐らく時間の問題になるだろうとも言っていた。だから崩落に巻き込まれた怪我人や閉じ込められている騎士の救助を急いでいるんだと思う」

「というわけで、互いに報告することは以上か?」


 スワラグの問いかけに頷き合う彼らを見て「よし!」と一区切りを入れた。「では再び行動開始!」と再度彼の号令により各自情報を持ち帰っていく。

 玄関ホールの2班はシーツをとにかくかき集める者と、先に報告を済ませ石の撤去作業を開始するものとで別れたようだ。

 訓練所1班も足早に瓦礫の山へと戻り、人海戦術で撤去作業を始める。3年前の復旧活動時に経験したことを活かし、とにかく足場を整えることから始めた。細かな石を端に避け、行き来しやすいように場を整える。

 その隣でタロンとマルクスが報告を入れ、状況を伝え終えると瓦礫越しでも分かる程、上級生や見習い騎士達は動揺していた。


「なんだって団長がいない時に……」

「今って団長いないんですか?」

「国王への定期報告だよ」

「知らなかった……!」

「まぁ、訓練生には騎士の内情はいちいち伝えないからな」

「いつ頃お戻りになるのでしょうか」

「通常通りなら2~3日で戻ってくる。出立したのが2日前だから、……」

「もしかして、戻ってきてる最中に魔物の群れと鉢合わせ、なんてパターン……」

「やめろ!縁起でもない事言うなよな!!」

「団長ならきっとご無事だ、お前も不安を煽るようなことを言うんじゃない」


 瓦礫の向こうで言い争う見習い騎士のやりとりに失言だったと勢いよく「申し訳ありません!」と謝罪するマルクスの声が廊下中にこだまする。

 しかし気持ちを建て直すのも早い。騎士見習いのフォンジーと名乗った男の特徴的な声が現場の指揮を執り作業は本格的に開始された。

 ケケンは床に近い部分へ視線を落としたところで、木片や瓦礫の間から赤黒い液体が流れ出てきていることに気付く。焦げた匂いが強く鼻に残っていたが、それでもわかる程の鉄と油の匂いに貧民街を思い出していた。

 アズロワを振り返りつとめて冷静に告げる。


「お前は少し引いた場所から、全体指示を聞きつつ2次崩落が起きないよう指示を出してくれ。バランス見るのは得意だろ」


 あまりにも自然な物言いにアズロワは驚いた。彼が自分を頼ってくるとは思っていなかったようだ。

 「もちろんだよ」と少しうれしそうな声と共に瓦礫の山から遠のく姿を見て、報告を終えたタロンは意外そうに見やり、マルクスが「優しいじゃん」と視線を落としたまま口にした。

 そんなやり取りを少し離れた場所で聞いていたポッコルが恐る恐る自分の足元を見下ろした。もしかして、と思うものは見当たらずほっと息を吐くが、鈍く光る何かが視界に入ってきた。少し屈んでみると、瓦礫の山の隙間に鉄の断片が挟まっている。簡単に引き抜くことが出来たそれは歪み焦げ付いた分厚い鉄の板の残骸のようで、片面だけやたら黒く煤けているが、よくよく見ると文字が書かれている事に気付いた。視線を這わせる。

 この国の言葉ではない。他の国の言葉でもないような気がする。記号のようで、けれど法則性もあるような、それでいて見たことのない……。


「ポッコル、どうした?」

「……いや、なんでもない」


 手元を覗き込んだまま動きを止めたポッコルを不思議に思ったウェイトが歩み寄るが、肩越しに振り返ったポッコルが口を開き何事かを伝えようとするも、結局首を横に振り作業を再開し始める。

 少しの違和感はあれど非常時であるため、特に深く追求することもせず再び石を抱えてウェイトは仕事に戻った。素直な彼の行動に安堵しつつ、ポッコルはその板をポケットへとしまい込む。

 鉄の断片と焦げ付き具合から、恐らく爆発時、より近くにあったもの、つまり空調装置の壊れた筒か何かの一部だろうと言うことは推察できる。だが気になるのはそこではなく、焦げ付いた鉄の断片にびっちりと書かれていた見慣れない文字。

 見た瞬間から、胸がざわついて仕方がない。

 そして何故だかこの件を同級生たちに言うべきではないと思ってしまった。

 とにかく早く撤去して、隊長クラス、いや、もっと上の上官へ渡した方がいい。

 直感による焦燥感からか、じっとりと滲む手汗を拭い、ポッコルは平静を保ちながら作業を続けるのだった。



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