男の子
自分の中ではガチホラーです。
西日に照らされたカーテンが、部屋を明るく照らす。
今は冬のはずだが、私は長袖一枚と薄い生地のパンツを着ているだけ。
真冬の季節にこんな薄着だけだと寒いはずだが、不思議なことに寒さは感じなかった。
昔住んでいた自分の部屋に、一人立っていた。
何をする訳でもなく、ただ部屋の中でぼぅっとしている。
家の中には、私しかいないのだろう。
辺りはとても静かで、何の音もしなかった。
ただ微睡むようなトロリとした温もりが部屋に満ち、居心地の良い空間がそこにはあった。
しかし突然、静寂は終わる。
玄関から私の部屋へまっすぐ続く廊下から、ダダダと足音がしたのだ。
開けっ放してあったドアから、何事か覗く。
男の子が玄関から家の中へ入って来ている。
年は四歳か五歳くらい。
見知らぬ男の子は笑顔だった。
半袖半ズボンの格好をしており、彼は靴を脱いで上がり框へ上がったのだろう。
玄関は開けっ放しにしたまま、私の部屋へと続く廊下へと彼は足を踏み入れた。
笑顔の男の子は私に向かって、廊下を駆けて来た。
白の靴下を穿いた足で、笑顔でまっすぐ駆けてきた。
咄嗟のことに、驚いて固まる。
この部屋の中へ入って来るつもりかと思ったが、彼は廊下の流れに沿って、壁に手をつきながら走る速度を減速して、私の目の前を通り過ぎて行った。
九十度直角に廊下を曲がって、そのまま駆けて行った。
少しホッとした。
私の部屋へ突っ込んでくるのかと思っていたから。
私の部屋の前の廊下の形は、L字型の構造になっている。
玄関をゴールとするなら、私の部屋が縦棒の終わりの位置。
長い縦棒の位置をあの子は駆けてきたのだ。
そして縦棒の行き止まりとなる私の部屋の前で、彼は九十度直角に曲がって、妹の部屋のドアにぶつかった。
ぶつかったかと思ったが、ただドアにタッチしただけな気がする。
何故なら、彼は来た道筋を戻り、私の部屋の前を通り過ぎ、玄関へ向かって廊下を駆けて行ったからだ。
帰るのかと思ったが、彼は廊下の終わりまで近づくと、Uターンして笑顔で私の部屋を目掛けて、廊下を駆けてくる。
ゾッとした。
何故か、彼はこの部屋へ入ろうとするという、確信にも似た直感があった。
硬直していた身体を素早く動かし、私の部屋のドアを勢いよく中から閉めた。
ドン!という衝撃がドアから伝わってくる。
男の子がドアに突進して、体当たりをされた。
体当たりした衝撃で、僅かに開いたドアの隙間から、笑顔の男の子の顔が少し見えて閉まる。
背筋にゾワッとした怖気が走る。
そしてまた玄関側へ廊下を駆けていく音がして、また此方へ向かって駆けてくる。
ドン!!先程よりもドアにかかる強い衝撃に、ドアを開けさせまいと必死に抵抗する。
僅かに開いたドアから、笑顔の男の子の顔が見えて閉まった。
目を見張る。
彼は成長していた。
先程までは四歳か五歳の年に見えたが、今は八歳から十歳くらいになっていた。
成長した分、彼は強い力でドアに圧力をかけることが出来たのだ。
そしてまた、玄関へ向かって廊下を駆けていく。
ドアに鍵があればと思うが、鍵はないのでドアを押すしかない。
私の部屋に鍵がないのは、母親が子供の部屋のドアに鍵を掛けられると、子供は非行に走るという訳の分からない心情に基づいた経緯の結果だ。
ダダダダダダ!!
玄関から廊下を掛ける足音が聞こえて、パニックをおこしそうになりながら、あらん限りの力でドアを外へ押す。
ドン!!!
とても強い衝撃がドアに走り、火事場の馬鹿力で部屋へ押し入られる事を拒否した。
死守したドアがぶつかった衝撃で、また僅かに開き、力付くで閉じた。
ドアの隙間から見えたのは、無垢な笑顔の青年だった。
ゾオオオッと全身の血が体の下へ落ちる。
戦々恐々としながら、必死にドアを外へ押した。
ドアを押す上下に置いた上の手に、温かな感触があり、目を向けると私の手に大きな手がドアを通過して、優しく重ねられていた。
今日の夢でした。
この場面の後で恐怖にかられて目覚めたので、この後の事は分かりません。
起きた後も余りにも怖すぎたので、作品に落として気持ちを浄化させる目的で、思い出しながら書きました。
夢占いで調べたところ、笑顔の男の子が夢に出ると、気力に満ちている状態らしいのですが、そんな事より私は怖かった。もっと出方を考えて、としか言えない気持ちでいっぱいです。
この状況で彼にトゥンク出来る人は強者ですね。