大切な人たちへの手紙
「元カレからの手紙」の別視点です。
シリーズに入れているのでそちらから読んだほうがわかりやすいと思います。
ピッ、ピッ、ピッ、と一定の電子音が病室の中に響きわたる。僕‐鈴木 晃‐は重いまぶたをゆっくりと持ち上げた。あぁ、僕はもうすぐ死ぬんだな。そう考えても恐怖はあまりわかなかった。
数ヶ月前、僕は体調が数日間悪く、病院に行ったところ大きな病気にかかった。詳しくはわからないが、難病で、治療法がまだわかっていない病気らしい。死ぬまでは今までと同じ生活をしたかったが、ここ数日体調が悪化して入院し始めた。そして、死が近づいてきている実感があった。
この前、僕は元カノや親友、両親とかの大切な人たちに手紙を書いた。それを母さんに渡し、自分が死んだら見てほしい、と言ったら悲しい顔で返事をした。
短い人生だったけど、いろんな人に迷惑をかけたなぁ。特に元カノの本多 千尋にはひどいことをした。理由を言わずフッたのは心配してほしくなかったからと言っても千尋はきっと怒るだろうな。
千尋と付き合って約1年間、いろんなことを経験した。告白して返事を聞いたときの喜び。初デートのときの帰り際の君の笑顔。夏祭りでの浴衣姿の君。冬に寒いと言い手をつなぎながらの帰り道。進展は遅い方だったかもしれないが、どれも大切な思い出として心に残った。彼女にはこれから新しい出会いがあるのだろう。
ふと窓の外に目を向けると、空が澄んでいて綺麗だった。
「僕がいなくなった後でも、千尋が幸せになりますように。」
僕はそう祈りながらつぶやき、目を閉じた。