卒業式の送辞を後輩が生徒会長を脅迫して変わってくれて、私はその言葉に泣かされました
卒業式はそれから粛々と行われたと思う。
卒業証書をもらう時に
「「「「リディアーヌ様!」」」」
という剣術部の面々から大声援があったことは除いて。
私はとても恥ずかしかった。
皆粛々ともらっているのに何で私の時だけ声を出すかな……
それも私は成績最後だったから一番目立ったのだ。
先生方も最後だったから注意も満足に出来なかったんだと思う。
私に卒業証書を渡す学園長の顔は怒っていた。
でも、私がやらせたわけではないし……これも私が強引にやらせたことになるのかもしれない……今までの全てがそうであったように……
振り返ったら王妃様の目が光っていたし……
まあ、今日は最後の卒業式だ。最後くらい大目に見てほしい。
「本学において、成績が極端に悪い者もいたが……」
「一部徒党を組んで反抗する不届きな者もいたが、社会に出たらそれは許されないことで……」
学園長が祝辞で、言葉の端々に私を見て嫌みを言うのはるのは止めてほしかった。そのたびに嘲笑と怒りのざわめきが同じくらい起こったし……
「続いて在校生の送辞。在校生代表ハワード・ノールさん」
「はい!」
司会の先生の声に大きな声でハワードが立ち上がったんだけど……
「えっ?」
何でハワードなの?
ハワードは確かに次期剣術部の部長だが、生徒会長でも学年一位でもないはずだ。
後で聞いたら送辞を是非ともやりたいと立候補して、他の生徒会長らを決闘をちらつかせて押しのけたんだとか……
何をしてくれるんだ、ハワードは!
私がその事を知ったのは後になってからだった。
そもそもハワードは私と同じ脳筋のはずで、絶対にこんな場で話せるわけないのに!
大丈夫なのか?
私はとても頭が痛くなった。
「卒業生の皆さん。在学中はとてもお世話になりました。在校生を代表してお礼を申し上げます」
よし、うまく出来た。そこで終われ!
私は思わずそう思った。
それは剣術部の皆も同じ考えだったと思う。
しかし、これで終わるわけはなかったのだ。
「私は本校に入る前は剣の腕に自信がありました。皆さんもご存じのように辺境伯領は魔物も多く、私も国のために日々魔物退治をしていました。だから当然のごとく剣術部に入りました。
でも、私はそこで驚きました。なんと部長が女だったのです。王太子殿下の婚約者だからと言って弱い女がこの王立学園の剣術部の部長にいるなど私には許せませんでした。私はこの思い上がった女の鼻っ柱をたたき折ってやろうと軽い気持ちで対戦を申し出たのです。
でも、一瞬で地面に這いつくばらされたのは私でした。
私は唖然としました。王都に来て騎士団の訓練所でもほとんど負けたことのない私が一撃で地面に這いつくばらされたのです。
私は全く刃が立ちませんでした。
私は驚きました。未来の王妃様はなんと強いのだろうと。さすが竜王国といわれるインスブルク王国の姫君だと思いました。それから天狗になっていた私は死にもの狂いで訓練しました。必死に朝から夜まで訓練したのです。でも、最後まで一回も勝てませんでした。それだけが心残りです」
なんかそこで涙を脱ぐっているんだけど、私も少し涙を目にためてしまった。
でも、卒業式の送辞で私のことだけで良いのか? と思わないでもなかった。
「でも、そんなリディアーヌ様は成績では学年最下位にいらっしゃったのです。それを知って学業なら勝てるかもしれない。私は喜び勇んでテストの点数勝負を挑みに行ったのです」
皆の笑いが起こった。特に貴族連中の笑い声が私には堪えた。
「ハワード殺す」
私はハワードの言葉に切れた。何で学年最下位ってばらすのよ。ここまでのいい話を最低の話にするなんて……私のハワードに対する好意は一気に地に落ちた。
「しかしです。私は6割とれた王国の歴史なら絶対に勝てるだろうと比べに行ったら、なんとリディアーヌ様は90点だったのです。私は驚嘆しました。上の学年は90点が最下位なのかと。皆そんなに出来るんだ、と先輩達を見る目が本当に凄いと尊敬の眼差しに変わったのです」
これを聞いて皆唖然としたはずだ。私より点数の高い人間なんてほとんどいないのだ。なにしろ歴史は私が一番得意としている科目で私は学年トップクラスだと先生にも言われていた。私より上にいる人間なんてレックスくらいしか知らない。
「でも、それは間違いでした。学園の卒業生であらせられる保護者の父兄の方々もよく判っておられるはずです。王国の歴史を3年間教えられるゲイツ先生は厳しくて有名で、その平均点は40点なんです。その横にいたアーチボルト先輩の点数はなんと30点でした」
「ハワード、余計なことを言うな!」
思わず横のアーチが真っ赤になって叫んでいた。
良かった、良い点数の時で。私はほっとした。
「他の先輩方も似たようなものでした。でもこの厳しくて有名な歴史で高得点のリディアーヌ様が何故最下位にいらっしゃるんだろう? この成績だと絶対にトップのはずだと。私はとある先生に聞きに行ったのです。『ハワード君。それはリディアーヌさんがとても慎み深い方だからよ』とゲイツ先生はおっしゃいました。そうか、まともにやると婚約者の王太子殿下の上に立ってしまうから、一番下の最下位の位置にいらっしゃるんだと私には判ったのです」
私はその言葉に真っ赤になった。それは絶対にハワードの勘違いだ。私はそこまで成績は良くない。少なくてもレックスにはテストの成績で勝てた試しはないのだ。
遠くに唖然としたエイベルの顔が見えた。
「文武両道で慎み深いリディアーヌ様が未来の王妃様でこれほどうれしいことはありません。我々在校生は未来の王妃様のリディアーヌ様に忠誠を尽くすとここに誓い送辞の言葉とさせていただきます。在校生代表兼次期剣術部部長ハワード・ノール」
その瞬間だ。
「ヒューーーヒューーー」
「よく言ったハワード」
「そうだそうだ」
「リディアーヌ様」
「リディアーヌ様、万歳!」
盛大な拍手と歓声が巻き起こったのだ。
おそらく剣術部を中心に……
もう私は真っ赤になっていた。
確かにハワードにはいろいろ苦労させられたけれど、ハワードがここまで私を褒めてくれるなんて思ってもいなかったのだ。
ここまでエイベルや貴族達に散々嫌みとか嫌がらせとか受けたけれど、後輩達は私のことをちゃんと見てくれていたんだ。私は気付いたら涙を流していたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
号泣するリディでした。
次は憎きエイベルの登場です
お楽しみに
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