謁見の間で群臣に紛れ込んでいた刺客に刺されてしまいました
「疲れた!」
私は儀式の衣装を脱ぎ捨てて、自室のリビングにぐたーとしていた。
王都はモスリムになり、とりあえず、そのモスリム伯爵の館に立派な別館があったので、そこを仮の王宮とすることが決まった。
そこはシュタイン王が泊まることもあったらしく、とても立派な作りだった。
私はそのリビングの高そうなソファの上で普段着に着替えてぐたーと寝ていたのだ。
「ちょっと、リディ、いい加減にシャキッとしなさいよ」
「そんなこと言ったって無理」
あの後、新たな領主とかと挨拶とかして私は疲れ切ってしまったのだ。
領主達はやる気満々で、是非ともシュタイン王国に侵攻をとか言ってくれるけれど、国が出来たばかりで、到底侵攻なんて考えられなかった。
その相手をするのにつくづく疲れ切ったのだ。
「あなた王女様だったんだから元々こういうことになれているでしょ」
ベティは言ってくれたが、
「王女って言ってもインスブルクはおおらかで、あんまり形式張った事なんてしていなかったのよね」
私は言ったが、
「そもそもあなたはシュタイン王国の王太子の婚約者だったんだから、こんなの何でも無いでしょ」
と言われてしまった。
「うーん、でも、王宮のパーティーとかは学園卒業までは免除されていたからほとんど出たことは無かったし、国王って国のトップだからとても疲れるのよね」
私が言い張ったけれど、
「頑張るしか無いわよ」
とあっさりと流されてしまったのだ。
「姫様、まだ着替えていらっしゃらなかったのですか? 群臣共が姫様のお言葉を頂きたいと待っておりますぞ」
マトライが呼びに来てくれたんだけど……
「ええええ! まだやるの?」
「当たり前では無いですか。姫様も国王陛下ともなられたらのですから、お休みなどございません」
「そんな……」
「判りました。この謁見が終わったら、モスリン伯が自慢のシェフがよりをかけた特別なケーキを作って献上してくれるそうですぞ」
「えっ、そう、さようでございます。お任せ下さい」
マトライからつつかれて何故かついてきていたモスリン伯が慌てて言い出したけれど、絶対に怪しいんだけど……
私が白い目で見ていると
「姫様。ゆっくりしておられるとレナードが食べてしまいますぞ」
「えっ、レナードが!」
私はその言葉に慌てて動き出したのだ。
そう、レナードは年いっているはずなのに、魔術を使うとお腹がすくとかいってとても大食漢なのだ。それも甘い物にも目が無い。一度なんて領民のお菓子屋さんが、私の誕生日にわざわざ差し入れしてくれた巨大ケーキを一人で食べてくれたことがあったのだ。それ以来レナードの傍にケーキは置かないようにしているのだ。
私は寝室でベティに手伝ってもらって、国王用の衣装に着替えた。女王用の衣装だ。真っ赤なドレスなんだけど……赤い衣装ってゲームの中の悪役令嬢リディアーヌが着ていた衣装だ。まあ、シュタイン国王にしたら次々に攻撃してくる私は悪役令嬢なのかもしれないけれど……でもこれ細かい刺繍がいっぱい施されていてとても手間暇かかった衣装に見えた。いつの間にこんな高価な衣装準備したんだろう?
それにこの赤って、戦闘色に見えるし、こんなので皆の前に出たらあたかもシュタイン王国に攻め込めって言い出しそうになるんだけど……
私の前をハワードが先導して、斜め右後ろにレックス、左後ろにアーチがついてくれる。そして、後ろに近衛騎士の面々が。中には見知った顔もあった。
シュタイン国内に私が帰ってきたこともあり、剣術部の面々やクラスメートが次々に合流しているらしい。その数人だ。剣術部の面々は私の近衞騎士として取り立てるみたいだ。
また、インスブルクの砦で降伏してきた兵士5万のうち、新生竜王国の配下になりたいと望む者は解放して兵士にもしているらしい。その辺りのことはハワードやレナードに任せてある。まあ、知り合いが増えるのは良いことなんだけど……
「姫様。出来れば進軍はしばらく控えて頂けると有り難いのですが……占領地の統治がまだ追いついていない状態での進軍は厳しいので」
「判っているわよ。私はこれ以上領土を増やすつもりなんて全然無いわよ」
私は思っていたこととを言った。それで無くても領土が既にインスブルク王国の十倍以上になっている。こんな急造の国、ちゃんと統治体制を整えないとあっという間に瓦礫とかしてしまうだろう。しばらくはマトライ等に任せて、国作りをしっかりやらないと。
「まあ、それなら良いのですが」
何かマトライの口調が歯切れが悪い。
後でレックスに聞いたら、インスブルクの救援もギンガルメへの侵攻もベティの救援も、全部私が勝手に飛び出しているので、宰相はまた私が飛び出すんでは無いかととても心配しているんだとか。
「あれは仕方が無かったのよ。全部人の命がかかっていたんだから。レックスも判るでしょ」
「まあ、仕方が無かったとは思うけれど出来たらいきなり飛び出すのは止めてほしい」
「まあ、善処するわ」
私はレックスに頷いたのだ。
「リディアーヌ様のおなり」
謁見の間に入ると、係の者の声に全員恭しく頭を下げてくれるんだけど、なんかとてもむずむずするというか、やりにくい。
「では、ここでリディアーヌ様より今後の方針をお話頂きます」
私はマトライに促されて、前に出た。
「皆さんも知っているように、この新生竜王国は今、将に出来たばかりの国です。ここしばらくは内政を重視して国を整えることに勢力を傾けたいと思います」
私が言うと、
「あ、いや、少し待たれよ」
いかにもけんかっ早そうな男が発言してきた。
確かバスター伯爵だ。お妃教育で顔と名前は覚えさせられた。元王太子の婚約者という立場はこんな時に便利だ。お妃教育も生きている。この男は地方貴族の生き残りでプライドも高そうな男だ。
「時というものがございます。今リディアーヌ様はシュタインの王宮も壊滅させられましたし、モスリムも解放され、勢いに乗っておられるかと。それに、せっかくここに10万の大軍も集まったのです。今こそ、一気にシュタイン王国を攻められてはいかん」
血気盛んに言い放ってくれた。
「まあ、バスター伯爵が言われるのももっともだが、今はリディアーヌ様がおっしゃるように、少し体制を整えた方が宜しいのではありませんか」
マトライが援護してくれた。
「しかし、マトライ殿。中々、機会を掴むのが難しいものですぞ。今がその時だと思われるが」
「そうだ。私もそう思うぞ」
「私もだ」
好戦派が次々に侵攻を口にし出した。
「いや、それはどうかな」
ドモライ子爵が反対した。
「確かに新生竜王軍は勢いに乗っていますが、まとまりに欠ける部分もございましょう」
そう言いながら何故かドモライ子爵は壇上の私に近づいてきたのだ。
「ここはリディアーヌ様がおっしゃるように……」
その瞬間、ドモライ子爵は剣を取り出して私に突き刺そうとした。
「ギャーーーー」
しかし、飛び出したハワードに一瞬で居合いで斬られていた。
そのまま子爵は後ろに弾き飛ばされたが、何人もの刺客とおぼしき男達が壇上に上がってきたのだ。
レックスやハワード、アーチらが対処するが、一部は対処しきれずに私に向かって来たのだ。
「反逆者のリディアーヌは死ね」
と叫びながら。
私は日頃なら迷わずに蹴倒したんだけど、この日はスカートだった。一瞬躊躇してしまったのだ。
ブスッ
そのうちの一本の剣が私の腹に突き刺されたのだった。
剣を突き刺されたリディの運命やいかに?
続きは今夜です。