卒業式の前に後輩が私を援護して婚約者を糾弾してくれました
卒業パーティーの日が来た。今日は朝から卒業式があってその夜に卒業パーティーなのだ。
私は朝から頭が痛かった。私がエイベルに気絶された事でまた周りではいろいろ言われているだろう。そんな中式に出るのが億劫だった。幸いな事にインスブルクからは今日は誰も来れないみたいだ。少しさみしかったが、これから起こる事を考えると私はほっとしていた。両親や家族の前で婚約破棄されるのはさすがに嫌だ。
結局私は婚約破棄について何も対策は出来なかった。私を気絶させたのに、エイベルは見舞いの品さえ寄越さなかった。クラスメートと剣術部の面々は次々に来てくれたのに婚約者で気絶させた本人が来ないとはどういう事だろう。もう、婚約破棄する気満々なのだろうか?
私は制服に着替えて、講堂に赴いたのだ。
「ねえ、見て見て。リディアーヌ様よ」
「ああ、エイベル様に剣でボコボコにされたって言う」
「剣術部の部長だったのにエイベル様に全く刃がたたなかったんですって」
「何でも今日のエスコートの相手がアラベラ様なのが許せなくって虐めていた事に対してエイベル様がぶち切れられて制裁を加えられたそうよ」
「剣術部も形無しね」
「剣術部はリディアーヌ様が部長になってからはリディアーヌ様のおままごと部になったそうよ」
「何それ?」
「よく判らないけれど剣術の腕前は全然だめになったそうよ」
女達が噂している。
私だけなら良いけれど剣術部の事が悪し様に言われるのは許せないんだけど……
「リディアーヌ様!」
そこに大きな声が響き渡った。
げっ、うるさいのが来た。
私はげんなりした。確か、緊急事態が起こったとの事で領地に帰っていたはずなんだけど……
「御前を離れていた時に、暴漢に襲われたとか、誠に申し訳ございません」
私の前に立った大男で剣術部の後輩のハワード・ノール辺境伯令息が頭を下げてくれたのだ。
「おい、ハワード、お前、エイベル様を暴漢に例えるのはさすがにまずかろう」
私の横のアーチが慌てて注意してくれた。
「ふんっ、リディアーヌ様が婚約者を気遣って反撃できないのを良い事にボコボコにするなど男の風上にも置けない男では無いか。そんなのは暴漢以外の何物でも無い」
ハワードは私に剣術で負けてから何故か私を崇拝しきっているのだ。それがまた講堂中に聞こえる大声で話してくれたのだ。本当にあの現場にいなくて良かった。いれば絶対にエイベルは生きて剣術部から出られなかったはずだ。
「おい、ハワード、貴様、今エイベル様を暴漢扱いしたな」
「不敬だぞ」
そこにエイベルの側近のジェイソン・アンダーソン公爵令息とトミー・マクレガー侯爵令息が出てきて注意した。
「何が不敬だ。抵抗できない婚約者を剣でボコボコにするなど暴行犯では無いか。王太子が暴行犯など国始まって以来の恥辱だぞ」
更にハワードの声がでかくなった。
「な、何だと」
「エイベル様は正々堂々とリディアーヌ嬢と戦ってだな」
「ふんっ、ふざけるな。この俺様がリディアーヌ様には未だに勝った事が無いのだぞ。貴様等ごとき10人が束になって戦っても勝てるはずは無いのに、何が正々堂々と戦ってだ。なんならリディアーヌ様の前衛の俺がまず左手だけで勝負してやろうか」
ハワードが言い出した。こいつは身長が190もある巨体なのだ。絶対に体重も100キロを超えている。動物に例えるならヒグマだ。それが剣を振り回しているのだ。それも凄まじい速さでだ。私でも戦う時は本気を出さないと勝てない。こんな奴に互角に勝負を挑めるのは剣術部でもレックスとアーチくらいなのだ。こいつらでは絶対に左手だけでも勝てない。
私はさすがにハワードを止めようとした。
「何を騒いでいるのだ」
そこに来なくていいのに、エイベルが来た。
こいつは馬鹿だ。ハワードは直諫の士で曲がった事が大嫌いなのだ。そんなところに出てきたらどうなるか判らないのか?
私は頭を抑えたくなった。
「これはこれは王太子殿下。最近は婚約者がいらっしゃるにもかかわらず、淫乱な女を連れ歩いているという噂ですが、本当だったのですな」
ハワードはエイベルとアラベラを見比べて大声で叫んでくれたのだ。学園の卒業式の前の講堂でだ。ここには高位貴族の保護者や他国の貴族も来ているのだ。そんな中でやってくれた。
それで無くても今まで大声で叫んでいて皆の注目をあつめてくれていたのだ。一斉に全員の視線がエイベルとアラベラに集中した。
「何を言う。俺はクラスメートと一緒にいるだけだ」
「ほおおおお、殿下はクラスメートと手をつないで歩かれるので?」
「それはアラベラが転けそうになったのでやむを得ず」
「はああああ! 最近はずうーっと公爵令嬢は転けられそうになっていらっしゃるのですか? 相当か弱い方なのですな」
ハワードはアラベラを見下してくれた。
「あなた、二年生の分際で私を淫乱と申しましたね」
言わなくても良いのにアラベラが文句を言い出した。
「当然でしょう」
「何ですって!」
「婚約者のいる男にベタベタくっつくなど淫乱女と言われても仕方がありますまい。公爵家ではどのような教育をされていたのですか。親の顔が見てみたいですな」
そう言うとハワードは大声で笑ってくれたのだ。
アラベラは真っ赤になってブルブル震えていたし、遠くでこちらを見ていた父のトレント公爵は真っ赤になっていた。
そこへ国王陛下と王妃様がご入場の案内がされた。さすがのハワードも黙ってくれた。
でも、ちらっと私を見たエイベルの目は氷のように冷たかったのだ。
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リディの運命やいかに
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