伯爵の孫娘視点 勝手に魔女にされて拷問されました
「ああああ、暇」
私はベッドの上にひっくり返った。
私はエリザベス・モスリム、お祖父様はこの地の伯爵なの。
本来、私は16になって今は王立学園に通っているはずだった。
この街モスリムはこの辺りでは有数の人口10万人を数える大きな都市だが、人口100万人と言われる王都に比べれば田舎だった。それにここでは領主の孫の私の年齢と同じ貴族令嬢はいず、一番近くの貴族の令嬢は馬車で3時間も走ったところにしかいないし、そうそう馬車で訪れる訳には行かなかった。
その点、王立学園は生徒が大半が貴族で、学園に入れば友達も作り放題、崇拝者をたくさん作って侍らせたり出来たら良いと思っていたのに……
私の学園での青春エンジョイ計画は、王太子殿下がインスブルクから留学していたリディアーヌ様を婚約破棄した時からおかしくなったの。卒業パーティーで婚約破棄されたリディアーヌ様はなんとその場で王太子殿下を張り倒したんだって……私には本当に信じられなかった。
何しろこの国シュタイン王国はこの大陸では帝国に次いで大きいのだ。戦力も50万の兵力を持っていて、リディアーヌ様のインスブルク王国の全兵力の100倍だ。その王太子を張り倒すなんて、これでインスブルク王国の命運も尽きたわと私は思ったのだ。
でも、リディアーヌ様は私がかすかに憧れていたハワードお兄様ら剣術部の猛者を3人ほど連れて逃走したって聞いて私は驚いた。ハワードお兄様は私のおばさまの息子、すなわち従兄なんだけど、背は高いしその姿は凜々しくて友達からも人気が高かったのだ。私は従兄妹だったから、時たま遊んでもらって友達からはうらやましがられていた。その剣術自慢のお兄様が絶対に勝てないと言ってリディアーヌ様の事を崇拝しているのは聞いていた。でも、まさか、辺境伯の跡取りであるお兄様が、その座を捨てて、インスブルクなんて小国についていくなんて信じられなかった。
更に驚いたことにインスブルク軍は攻め込んだシュタイン王国の10万の大軍をリディアーヌ様たちが中心になって撃退したって聞いた時は本当に驚いた。当然お兄様も活躍したんだと思う。
戦争が起こったことで、学園の入学式が遅れていたら、今度はリディアーヌ様がシュタイン王国の王宮を襲撃、王宮を灰燼と化したと聞いて私は開いた口が塞がらなかった。
リディアーヌ様は金色の古代竜を連れているんだって。その古代竜がめちゃくちゃ強いんだとか。
何でも昔この地にあった古竜王国の始祖は、黄金の竜を連れてこの地に現れて魔物達を退治してこの地に古竜国を起こしてくれたそうで、リディアーヌ様はその再来だと一部で言われ出したの。
私の侍女も喜んで私に話してくれた。
辺境伯のおじさまや、地方貴族と言われた友人の家もそのリディアーヌ様の軍勢に合流していた。
我がモスリム伯爵家は古竜王国だった地域を統治するために元々シュタイン王国の中央貴族としてこの地に派遣されていたからリディアーヌ様の軍勢に合流するつもりは無いとお祖父様は言っていたけれど、リディアーヌ様の勢力は日増しに勢いを増していた。
このままでは我が領地もリディアーヌ様の軍勢に攻められるかもしれないと一時期は緊張が走ったけれど、今はリディアーヌ様の故郷のインスブルク王国で兄の王太子が反逆したとかで、リディアーヌ様はインスブルクに帰られて緊張は少し緩和したんだそうだ。
それなら、学園も始めてほしい。こんな田舎にいたら本当にやること無くて朽ち果ててしまうかもしれないと私は思っていた。
私は本当に脳天気だった。
まさか私があんな目に遭うなんて想像だにしていなかったのだ。
その時はいきなり、訪れたの。
「開門! 開門! 我らは王都の聖騎士だ」
その声を聞いて
「これで我が家も助かった」
とお祖父様は周りの者に言ったそうだ。
お祖父様は教会の聖騎士がまさか我が家に仇をなすとは思ってもいなかったの。
私もこれで早く、学園が始まってくれたら良いのにと思っていたの。
「おい、何をする」
「ええい、邪魔だ。我らは教皇猊下の命を受け、この家にいる魔女を引っ立てるように言われているのだ」
「はああああ、魔女とはどういうことだ?」
「ええい、邪魔するな!」
「グワ」
お祖父様の悲鳴が聞こえた。
私はそれを聞いて少しおかしいと思ったの。
しかし、次の瞬間、
ダンッ
と扉が力任せに開けられて
「なんなの、貴方たちは?」
私は叫ぶと、
「貴様、エリザベス・モスリムだな」
「何なのです、貴方方は?」
私の侍女が抵抗しようとして、
「退けっ!」
男達に弾き飛ばされていた。
「サーヤ!」
私はサーヤに駆け寄ろうとして、男達に両手を捕まえられたのだ。
「きゃっ、な、何をするの!」
私が抗議の声を上げると、
「煩い! 貴様には魔女の容疑が上がっているのだ。神妙にせよ」
「ちょっと、貴方たち、モスリム伯爵家に喧嘩売っているの! ただで済むと思うの?」
「ええい、黙れ」
「きゃあーーーー」
お母様が男に突き飛ばされた。
「お母様!」
私はあまりのことに頭の中が真っ白になってしまった。
私は直ちに後ろ手に縛り上げられたのだ。
「エリザベス!」
お母様の声がして、
「お母様!」
私は叫んだが、私に駆け寄ろうとした母は、また、地面に突き飛ばされていた。
「さっさと歩け」
私は有無を言わさず、外に連れ出されたのだ。
私は自分の身に起こったことが信じられなかった。
それも魔女裁判って、昔、教会に逆らった者がかけられた裁判で、実刑になれば火あぶりにされるというものだった。我が家は敬虔あらたかな聖女教信者で、まさか、私が魔女裁判にかけられるなんて思ってもいなかったのだ。
これは何かの間違いに違いない。教会が私にこんな酷いことをする訳は無いわ。
私はこの時まではまだほとんど心配なんてしていなかった。
でもそれは甘い考えだった。
私は鉄格子で覆われた檻の馬車に入れられたのだ。
「おい、あれはお嬢様じゃ無いか?」
「どうされたのかしら」
「何でも教会に魔女の疑いをかけられたらしいわ」
「お嬢様は魔女だったの?」
「まあ、恐ろしい」
その馬車は外から丸見えで、後ろ手に縛られた私は本当に見世物みたいで、いやだった。
それも領民達に白い目で見られるのだ。
馬車はゆっくりと見物人の中を走ってくれた。
私は出来たら隠れたかったが、好奇の視線にさらされて死にたかった。
でも、こんなのは序の口だったのだ。
私を乗せた馬車は街の中にある教会に連れて行かれた。
そのまま私は地下牢に連れて行かれたのだ。
その中にそのまま放り込まれたのだ。
「キャッ」
私はもんどり打って転けた。
魔女裁判ってどんなんなんだろう。
そう考えた時に、恐ろしい拷問道具で拷問されると聞いたことがあった。
でも、それが、どんなのであるのか聞いたことも無かったのだ。
そして、そこには椅子に座った偉そうな男がいたのだ。
「貴様がエリザベス・モスリムか」
「そうよ。あなたは誰なの」
「私か。私は教皇猊下より派遣されたポプキンズ異端審査官だ」
「審査官なの? 審査官風情がこの地のモスリム伯爵家の孫娘をこんなことして許されると思っているの!」
私がそう叫んだ時だ。
パシン
「きゃっ」
私はその男に頬を張り倒されたのだった。
縛られていたのでそのまま地面に顔をぶつけていた。
「な、何をするのよ」
「生意気な女だな。俺様は教皇猊下から貴様が魔女であることを取り調べるように言われているのだよ」
男はいやらしい笑みを浮かべてくれたのだ。
「そのためには何をしてもいいとな」
男はとても嫌らしい目で私を見てくれたのだ。
「おい、この女を吊り下げろ。まずは水攻めからだ」
「いやあ!」
私は悲鳴を上げたが、あっという間に男達によって天井から吊り下げられたのだ。
お兄様、助けて!
私は心の底から願ったのだ。
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エリザベスの運命やいかに?
続きは今夜更新予定です