小国国王視点 娘を入牢させることにしました
明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします
私は王宮の中の祈りの間でひたすら龍神様にお祈りしていた。
「龍神様、何卒、何卒、リディの事をお守りください」
そう、私は国王であると同時に一人の娘の父なのだ。
一心不乱に娘の安全を祈っていた。
私の娘のリディは生まれた時から特別だった。
当然とても可愛かった。
そして、とても濃い金髪で、目はその中に引き込まれそうに青い碧眼で、我が王家の血を深く引き継いでいた。
やることなすこと破天荒だった。
生まれた当日、飛竜の谷の飛竜達が盛大に騒ぎ立ていた。
その日のうちに大陸最強の魔術師と言われたレナードが娘の守り役になりたいと訪ねてきたのだ。
大陸最強の帝国がいくら誘っても招聘に応じなかった魔術師がだ……
そして、五歳の時に金色の子竜を拾ってきたのだ。
普通、竜の子供を拾ってくるなんてあり得なかった。
3代目の次男がそうだったのだ。彼は大人になると、竜を連れてこの国を出て行った。
北の未開の地の人々を助けるために行くと。
そして、大半の飛竜騎士が彼に従ったのだ。そして、我が国の北に強大な古竜王国を建てたのだ。
我がインスブルク王国は飛竜部隊がいなくなり、国としてもその後、凶作、イナゴの大群に襲われて、存亡の危機に立った。
3代目は息子を旅立たせたことをとても後悔された。
そして、決められたのだ。以降、いかなる理由があろうとも、他国に竜を連れて出てはいけないと。それを許せば、その者は二度と帰ってこないだろうと。その後、竜のいなくなった国は危急存亡の時を迎えるのだ。
私は娘がそうなったらどうしようと危惧したのだ。
それでなくても娘は始終王宮を抜け出しては、いろんな所に行って傷だらけになって帰ってくるのだ。親としては心配がつきなかった。
娘が10歳の時に、シュタインの国王が我が国を訪れ、その娘を孫の嫁に欲しいと言われた時に、私は悩んだ。
この国を継ぐのは長男のビリーだ。それは昔から決めていた。しかし、飛竜部隊にしても古代竜がなついていることからしても、妹のリディの方が竜王にはふさわしかったのだ。
「娘は、このような小さな国に留めさせておくのはもったいないだろう。それにその方の息子のためにも娘がいることは良くなかろう」
シュタイン王は俺にそう言ってくれた。
当時の我が父の国王も俺もそれを認めたのだ。
当時は国のためにそれが最善のことだと思ってしまった。
でもそれが間違いだった。
16になって、リディはシュタイン王国に留学した。
花嫁修業だ。
古代竜はこの地において一人で留学したのだ。
娘になついていた古代竜はとても不満そうだったが。娘が言い聞かせたのかなんとか飛竜谷で生活することに納得してくれた。
そして、息子のビリーの嫁には隣国のギンガルメ王国からコーデリア王女を迎え入れた。
息子の後ろ盾にするためにだ。
レナードなど、息子のビリーを帝国の女帝の婿に出して、リディにこの国を継がせろと公言してはばからなかったが、そのような事を認めるわけにはいかなかった。
しかし、リディがいなくなり、コーデリアが来た年の食料の収穫が2割落ちたのだ。天候が良かったにもかかわらずだ。私はたまたまだろうと思った。しかし、翌年もその次の年もそうだった。我が国の食糧事情はとても厳しくなった。
違いはリディがいなくなり、コーデリアが来ただけだった。
そのコーデリアは王都に聖女教の大きな教会を建てようとしてくれたのだ。
我が国が竜神様を奉る国にもかかわらずだ。
一部重臣達も苦言を呈してきた。
「何も不作にあえぐこの時期にすることでは無いだろう」
私は息子夫妻にそう苦言した。
「父上、聖女を信じないから、不作になったのです」
そこにビリーが信じられないことを言ってくれた。
「そうなのです。陛下。この地は今まで竜を信仰して聖女様をないがしろにしてきました。それが神の不興を買っているのです」
「ふざけたことを言うな! このインスブルク王国は竜神様の国だ。竜神様の加護の厚いリディがいなくなって、不作になったのだ。この上、異国の教会など建ててみろ。大飢饉が起こるぞ」
私は思わず叫んでいた。
「父上、父上はほかの重臣の言うようにリディの代わりにコーデリアが来たことが不作の原因だと言われるのですか?」
ビリーがとても不機嫌そうに言い出した。
「いや、そうは申しておらんが、この国にはこの国のやり方があろう。コーデリアもそれに早く慣れてくれ」
私はそういうしかなかった。事実を伝えることなんて出来ない。
「コーデリアも必死になれようとしてくれました。でも、古代竜は絶対にコーデリアの手の触れた餌は食べてくれないのです。俺がやってもだめでした」
ビリーが言い出した。
「それはそうだろう。私がやっても同じ事だ。古代竜は基本的に人に慣れん」
私は首を振った。
そうだ。古代竜が人に抱かれるというのは子竜でもあり得ないのだ。リディだけが特別だった。
「ならば、俺は俺のやり方をせねば、この国を統治できないではありませんか」
ビリーの言葉に私は驚いた。
「この国を統べるのはリディでなくて俺です。竜神様が俺を見てくれないのならば俺は聖女様に従おうかと」
「何を言っているのだ! ビリー!」
私は思わず叫んでいた。ビリーはれっきとした竜神様の子孫なのだ。その子孫が竜神様を信じなくなったら、この国は終わるだろう。
私は延々とビリーらを叱責した。でも、それが二人の心に響いたかどうかは判らなかった。
しかし、その時から、いや、その前からか。ビリーは少し変わった。
リディが婚約破棄されて帰ってきた時もそうだった。
国は竜姫が帰ってきて祝賀ムード一色になったのだ。ビリーの嫁はシュタインの攻撃を気にしていたが、国民は心配さえしていなかった。その通りリディはシュタインの大軍を一蹴したのだ。
国は更に祝賀ムード一色になった。
しかし、嫁の実家のギンガルメ王国から苦情が入ったのだ。シュタインと事を構えるのはまずいと。
そこに、ビリーも嫁に言われたのか、古竜王国の始祖の例を出して、リディを罪に問うべきだと言ってきた。
確かに、3代目からの遺言は領地を一歩たりとも出て戦ってはならないだった。
少しでも認めると侵攻を肯定することになり、その結果、古竜国の建国に古竜国の始祖は出奔しインスブルク王国は多大なる犠牲を被ったのだ。
でも、既にリディがシュタインに留学している時に我が国は食料生産高が2割減になっているのだ。今更だと思わないでも無かった。
しかし、ビリーは頑なだった。
宰相に相談したところ、宰相は黙りこくってしまった。
「国民の多くは、竜姫様の活躍に歓喜しております」
かろうじて宰相は反論してきた。
「しかし、宰相。3代目の遺言は絶対だ。ここはそれを破ったリディに罪を問う必要もあろう。ギンガルメ王国に対する言い訳にもなる」
「殿下、別に我が国はギンガルメ王国にそこまで気を遣う必要性はございません。ギンガルメ王国は竜姫様を牢に入れろとおっしゃるのですか」
ビリーに色をなして宰相が食いついてきた。
確かに我が国がギンガルメにそこまで言われるいわれはない。
「マトライ、お父様はそこまでは言っていないわ。ただ、シュタイン王国とこれ以上事を起こすのはまずいのではないかと心配しておられるのよ」
「コーデリア様。あなたは今はこのインスブルク王国の王太子妃なのです。我が国の事を一番に考えて頂かないと」
コーデリアの言葉に宰相は苦言を呈してきた。
「マトライ、私はこの国のことを第一に考えているわ。シュタインと事を起こしているのに、更にギンガルメとやっかいごとを抱えるのは良くないと」
「それを抑えるのはあなた様のお役目でしょう。そもそもなんのためにギンガルメ王国からあなた様を迎えたと思っているのです」
「宰相言葉が過ぎるぞ」
ビリーが注意したが、
「失礼いたしました。殿下。しかし、奥方を抑えるのはあなた様のお役目ではございませんか」
注意したビリーに宰相が噛みついてくれたのだ。
これは良くない。俺は覚悟したのだ。
「両者ともやめい」
私は二人に注意をした。
「リディの責を問う」
「陛下!」
宰相が悲しそうに私を見てきたが私はそうするしか選択肢は無かったのだ。
その結果が物事を加速するとは思いもしなかった。
父親視点でした。
息子を立てれば娘が立たず、娘を立てれば息子が立たず。
ここは息子を立てたのですが、その結果が……
続きが気になる方はブックマーク、広告の下の評価☆☆☆☆☆を★★★★★して頂けたら嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾