とある男爵婦人の独り言 昔振った男に襲われました
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私の嫁いだアラカルト男爵領はシュタイン王国の中でも北の国境近くにあり、山にも囲まれていて、冬は結構雪が降るところだった。私は近くのバーモント子爵家の出身だったけれど、雪はここまで積もらなかった。少し位置が変わるだけでこれだけ気候が変わるんだと、驚いたのを覚えている。
それを除けば、ここでの生活はとても快適だった。
夫のアレンは私には優しくしてくれたし、生まれた一人娘のベティは可愛かった。
私はアレンと結婚できてとても幸せだった。
ただ、娘のベティについては、この領地の周りは山に囲まれていて隣の領地に行くのも一苦労だし、同じ年齢の貴族令嬢は近くにいず、ベティに友達がいなかったのが少し気にはなっていた。
だけど、ベティは大自然の中でおおらかに育ってくれていた。
そんなベティが16で学園に入った。私は今まで友達もいなかったから友達ができるだろうかととても心配した。
夫のアレンはベティなら大丈夫だと心配していなかったが、私は不安だった。
学園でのクラスは私が心配したようにEクラスだった。そうベティは勉強は苦手だったのだ。
そして、それ以上に驚いたことにベティの初めての友人が隣国のインスブルク王国の王女様でこの国の王太子殿下の婚約者のリディアーヌ様だった。
私は驚愕した。
そもそも娘は男爵家の令嬢で、どちらかというと、礼儀作法などあまりきつく言わずに育ててきた娘だ。そんな娘がどうしてそんな高貴な方と友人になれたか、私には判らなかった。そもそも、娘は最低のEクラスなのだ。それがどうして王女様と知り合いになれたか私には不思議だった。でも、娘から送られてくる手紙には王女様の事がよく出てきた。娘が何かしでかさないかとても心配したが、手紙で見る限りは心配はなかった。
夫はもっと楽観的で、竜王様をご先祖様にもつインスブルクの王女殿下が娘に酷い事をするわけはないと言っていた。
この地方は100年前までは竜王国という、ある程度の大きな国があったのだが、100年前にシュタイン王国に併合されていたのだ。ただ、昔、周りに跋扈していた魔物を討伐して国を起こした竜王様は未だにこの地方では熱く奉られている存在だった。聖女信仰のシュタイン王国に内緒で、未だに多くの貴族達は竜王様も信仰していたのだ。
娘は未来の王妃様の側近になるんだとそれまで蔑ろにしていた勉強も熱心にしていて、私達夫婦はその事を喜んだのだ。
それが大きく狂いだしたのは、卒業パーティーでリディアーヌ様が王太子殿下のエイベル様から婚約破棄されてからだった。
怒り狂ったリディアーヌ様は王太子を張り倒して出奔されたのだ。
しかし、さすが竜王様の子孫なのかシュタイン王国が出した追っ手をリディアーヌ様はものともせずに悠々と帰国されたらしい。
娘はそのまま王宮勤めになったのだ。
でも、リデイアーヌ様のために頑張ると言っていた娘がうまくやっていけるかどうか私はとても不安だった。
リディアーヌ様は婚約破棄されたエイベル殿下を張り倒した時に重傷を負わせてしまったらしい。
信じられないことに現国王はそのリディアーヌ様を懲らしめると言って10万の大軍を出したのだ。
でも、そもそも婚約破棄したのは自分たちなのに、それに怒り狂ったリディアーヌ様がエイベル殿下を張り倒したのは至極まっとうなことだと思う私はおかしいのだろうか?
それで怪我させられたから大軍を派遣するというのは大国としてどうかと思わざるを得なかったんだけど。周辺諸国から笑いものになるのでは無いかと私は夫と話していた。
そんな時だ。
我が領に突然、軍馬の隊列がやってきたのだ。
私は何事が起こったか、判らなかった。
「開門せよ。陛下の命である」
声高に叫んだのは近くのホーキンス伯爵だった。
しかし、門番が開門するとホーキンス伯爵の軍勢は脱兎の如く我が屋敷に殺到してきたのだ。
私は自室にいるところを騎士達に踏み込まれた。
「何をするの?」
私は驚いて叫んだが、
「ええい、黙れ。国家反逆罪で、捕縛命令が陛下から下っておるわ」
「な、何を言っているの。そんな訳はないわ」
しかし、私の言い訳は聞いてももらえずに、私はあっという間に後ろ手に縛り上げられたのだ。
そのまま、引っ立てられてホールへ連れて行かれた。
「キャッ」
私は乱暴に地面に投げ出された。
「クラリッサ!」
アレンが私に声をかけてきた。アレンも後ろ手に縛られていた。
「あなた、どうなっているの?」
「ベティがリディアーヌ様と通じてシュタイン軍の情報を流したと疑われているんだ」
「そんな、文官のあの子が軍の情報なんて掴んでいるはずが無いわ」
「それを決められるのは、陛下だ」
私は聞きたくない声を聞いた。
いつも私をいやらしい目で見ていたホーキンス伯爵だ。
昔、妻にと求められたが、私は実直で優しいアレンを相手に選んだのだ。
よりにもよってこの男が乗り込んでくるなんて最悪だった。
「クラリッサ、久しぶりだな」
ホーキンスは相も変わらず、私を舐めるように嫌らしい目で見つめてくれて、私の背筋に怖気が走った。
二度と会いたくない人物に捕縛されるなんて最悪だ。
「私としては君にこんな事はしたくなかったんだが、陛下の命令でね」
「ホーキンス、ベティは無罪だ」
そういったアレンが、次の瞬間ホーキンスに殴られていた。
「アレン!」
「私を呼び捨てにするな。反逆者の分際で」
ホーキンスはニタニタ笑って言った。
「何するんですか? 酷いわ」
私がホーキンスを睨み付けると
「ふんっ、私はこれでも、紳士的なつもりだよ。反逆罪は市中引き回しの上処刑だ。このまま素っ裸に剥いて王都まで護送してやろうか」
嫌らしい笑みを浮かべてホーキンスは私に言ってくれたのだ。
こいつは最低だ。
「止めろ」
アレンが言ってくれたが、
「貴様、誰に向かって言っている」
ホーキンスは再度アレンを殴ってくれたのだ。
何回も。
「止めて!」
私が叫ぶと渋々ホーキンスは止めてくれた。
「まあ良かろう。これから王都までお前達を護送する。この男を護送車に入れろ」
ホーキンスは部下に命じていた。
血まみれになったホーキンスが護送車に入れられる。
私もそちらに行こうとした時だ。
「クラリッサ、貴様は俺の馬車に来い。少し聞きたいことがある」
「な、何を聞くというの?」
私は警戒して聞いた。こいつと二人きりの馬車は危険だ。
「言う通りさっさとしろ。でないともっと、アレンを傷つけるぞ」
「クラリッサ、言うことを聞くな」
アレンが叫ぶが
「お前は黙っていろ」
ホーキンスがアレンを殴ってくれたのだ。
「もう、止めて!」
私は叫んでいた。
「ホーキンス伯爵と乗りますから」
「そうだ。素直に聞けば良いのだ」
ホーキンスは舐めるように私を見てくれたのだ。
「クラリッサ!」
「アレン、私は大丈夫だから」
私はアレンに精一杯強がりして頷いたのだ。
私は後ろ手に縛られたまま、ホーキンスの馬車に乗せられた。
馬車は動き出した。
「ふんっ、クラリッサも馬鹿だな。私と結婚していればこのようなことになる事も無かったのに」
「何を言っているの? ベティが国を裏切ってなどいる訳は無いわ」
私が反論すると
「それが貴様の娘は陛下の意向に逆らったのだよ」
笑ってホーキンズは言い出した。
「嘘よ」
「陛下は貴様の娘にリディアーヌを呼び出せと命じられたのだ。それに対してお前達の娘は友人を裏切れないとそれを断ったそうだぞ」
ホーキンスは笑って言ってくれた。
私はその言葉を聞いて娘が言いそうなことだと理解した。
そして、それを強要する国王と王妃に絶望したのだ。
もうこの国は終わっていると。
「クラリッサ、このまま行くと貴様は反逆罪で処刑だ。下手したら連座で貴様らの親兄弟も処刑される。それでもいいのか?」
ホーキンスは私を脅してきた。
「そんな」
私は驚いた。いつからこのシュタイン王国は野蛮な国になってしまったのだ。
前の陛下なら絶対にそんな事はしなかったはずだ。
「それが嫌なら、俺様の言うことを聞け。俺様の女になるんだ」
この男は本当にくずだった。
人の弱みにつけ込んで私を自分の女にしようとするなんてなんて奴だ。
私はそんなことは死んでも嫌だった。
でも、今のこの状況では逆らいようが無かった。
ホーキンスはニタニタ笑って私に手を伸ばしてきたのだ。
服の上から私の胸を揉もうとしたのだ。
「止めて!」
私は叫ぶと頭突きをホーキンスの顔に喰らわせたのだった。
ガン、という音ともにホーキンスが、顔を押さえる。
「おのれ、このアマ、いい気になりやがって」
ホーキンスがいきなり私の顔を張り倒してくれたのだ。
「キャッ」
私は叫んでいた。そして、私が椅子に倒れれる。
その私にホーキンスが乗りかかってきてくれたのだ。
「いや、神様!」
私は思わず神様に助けを求めたのだ。
絶体絶命のベティの母親の運命やいかに?
続きは明日です。