王宮の牢から脱獄して友人を助けに向かいました
どれくらい泣いていたんだろう。
私はドラちゃんを抱っこしてそのまま寝てしまったみたいだった。
「キャーーーー」
私は夢の中で、ベティの悲鳴を聞いたような気がした。
えっ?
ベティとは卒業パーティー以来会っていないのになんでだろう?
「リディ! リディ!」
私は今度は誰かに呼ばれていた。
ゆっくりと目を開けると、目の前には心配そうに私を見るドラちゃんがいた。
「ドラちゃん、おはよう」
私は寝ぼけ眼で言った。
ドラちゃんが私を呼ぶ訳はないのに!
「リディ!」
私は後ろから声をかけられた。
後ろを見ると鉄格子の向こう側にレックスがいた。
「どうしたの? レックス」
私はレックスの方に歩いて行くと小声で聞いた。
ここは地下牢、本来はレックスがきて良いところじゃない。
「リディ、お前泣いていたのか」
驚いてレックスが私を見た。
「えっ、そんなことないわよ」
思わず目をこすったけれど、
「目が真っ赤だ」
レックスに言われてしまった。
「こんなんだったらリディだけ牢に入れるんじゃなくて、俺も入るんだった」
「そんなことしたら、砦の連中が我慢できずに暴走したでしょ」
レックスに私が言うと
「お前な、あいつら抑えるの、どれだけ大変だったと思っているんだよ」
疲れ切った顔でレックスが言ってくれた。
「さすがレックス。一緒に来てくれたのが、レックスで良かったわ。ハワードだったら兄嫁とかに斬りかかっていたかもしれないからね」
私が笑って言うと、
「皆を抑える俺の身にもなってほしいよ」
レックスが文句を言ってくれた。
「で、どうしたの?」
私はレックスの文句を聞き流して要件を聞いていた。
「実はベティがシュタインの王妃の所に連れて行かれたらしい」
「ベティが? なんで?」
私にはレックスの言っている意味がよくわからなかった。
「どうやら、リディの件でベティがリディの親友だったとトミーの奴が王妃に言いつけたらしいんだ」
「そんなのベティは何も関係無いじゃない!」
「婚約破棄の時に王太子が張り倒されて俺達が喜んだじゃないか。当然ベティも喜んでいた。それが王妃達に取っては気に入らなかったんじゃないか?」
「そんな、ベティは何も悪くないじゃない!」
私は怒った。
「で、ベティは今どうなっているの?」
私が慌てて聞くと
「はっきりとは判らないが、ベティは王妃に鞭打ちされているらしい。王妃にお前を呼び出せって言われて、ベティは友人を裏切ることは出来ないって断ったそうだ」
「何ですって!」
その瞬間私は完全にぷっつんきれた。
大事な友達があのシュタインの公爵家の出だと自慢していたいけ好かない王妃に鞭打たれていると思うと私は許せなかった。
「助けに行くわ」
「良いのか、リディ? 今回の件は絶対にリディには言うなと陛下には釘を刺されたんだが……」
「そう」
私は急に冷え冷えとするのが判った。
私の親友が鞭打たれて殺されそうなのを知っていて、私に知らせるなって命令したんですって!
例え父といえども許さない!
私は父と心の中で決別した瞬間だった。
「助けに行くってそもそもこの鉄格子をどうするんだ? この鉄格子はそう簡単に動かないぞ」
レックスが言ってくれた。そうこの牢はとても頑丈に作られているみたいで、そんじょそこらの者が開けようとしてもではびくともしなさそうだった。
「鍵は陛下が持っているんだろう?」
レックスが聞いてくれた。
「ふん、こんなのなんとでもなるわよ」
私は開けようと力を入れた。
ぎゅっと力ずくで鉄格子を私が出れるくらいの大きさに広げた。
ジリリリリリリリ
いきなり警報が鳴り響いたのだ。
「やばいぞ、リディ!」
「行くわよ」
私達が牢を出て、階段を上がろうとした時だ。
「な、何をしているのです」
そこへお兄様付きの近衞騎士が階段を降りてきた。
「姫様。姫様相手に剣を向けたくありません」
「じゃあ、邪魔しないで!」
私は叫んでいた。
「そういう訳には参りません」
近衞騎士が剣を抜いたのだ。
「あなた、私の前で剣を抜く意味がわかっているの? 私は竜姫よ。初代様の生まれ変わりと言われている。その私に剣を向けると言うことはこのインスブルク王国に反逆をすると言うことだけど、」
「そんな訳はありません。私は陛下の命にしたがっているだけで」
近衞は明らかに動揺した。
「何をしている!」
そこには氷のように冷たい視線をした父が立っていた。
「何をしているではありません。友人を助けに行くのです」
私はきっとして父を睨み付けた。
「何を言っている。お前は言っている意味がわかっているのか? インスブルクの王女がシュタインの王宮に殴り込みに行くと言っているのだぞ」
父は怒っていった。
「それがどうしたのです。既に両国は交戦状態です。王宮に殴り込んでも問題はありません。そもそも、友人が私のせいで殺されかけているのです。それを助けに行くに決まっているでしょう」
私は言い切った。そう、何よりも大切なのは人命なのだ。
「リディ。初代様は絶対に敵国に侵攻するなと言い残されたのだ。お前はそれを破るのか?」
「この前も申し上げましたが、私の一番大事なのは人の命です。初代様の言葉は関係ありません」
私は父に言い切った。
「そんなの王女のお前が許される訳はないだろう」
「じゃあ、王女を止めます。人の命を守れない王女など必要ありません」
私は父の言葉に対して宣言したのだ。売り言葉に買い言葉だった。
「お前は竜姫だろう。王女を止めると言うことは、その竜も置いていくと言うことだぞ」
「何を言っているのです。ドラちゃんを連れてきた時に、何故連れてきたと散々文句を言ったのはお父様でしょう。当然私にはドラちゃんの面倒見る責任があるので、私が連れて行きます」
「ピー」
私の胸の中でドラちゃんは頷いてくれたのだ。
「そんなことを許すと思うのか? 行くというのならば俺を倒してから行くが良い」
父が剣を抜いたんだけど、
「お父様、邪魔です。こうしている間にもベティが殺されるかもしれないのです。許されないのならば力ずくで行くまでです」
「何だと! お前は父に逆らうのか」
「ドラちゃん」
私は父の言葉を無視してドラちゃんに命じたのだ。
「ギャオーーーーー」
その瞬間、ドラちゃんは巨大化したのだ。
「陛下、お下がりください」
近衞らが父を後ろに下がらせた。
ドラちゃんはぐんぐん大きくなって頭は天井を突き破っていた。
ドカーン
大音響と共にバラバラと天井が落ちてくる。
私とレックスは慌ててドラちゃんの背中に乗ったのだ。
「ドラちゃん、ゴー」
私の声とともに落ちてくる建材から右往左往する父らを無視して私達は一階のロビーに飛び出たのだ。
「ひ、姫様!」
「姫様!」
階下で騎士や侍女が叫んでくれた。
「みんな元気でね」
私は皆に別れの手を振ったのだ。
「そんな、姫様!」
侍女や騎士達が叫ぶ。
でも、もう無視するしかない。
飛び出したもののドラちゃんが出られる出口がない。
私は南面のガラスを指さしたのだ。
「皆退いて、そこに突っ込むわ」
「姫様!」
ガラスの傍にいた皆は慌てて退いた。
そこにドラちゃんが突っ込んだ。
ガシャーン
初代様が魔法で作ったとされる王宮の有名な南面のステンドグラスが粉々に崩れた。
そして、私達は大空に飛び立ったのだ。
「リディ! どこに行くのです」
王妃の部屋のバルコニーに出てきた母が叫んでいた。
「お母様。今までお世話になりました!」
私は母に手を振った。下手したらもう帰れないかもしれない。父に王女を止めるとまで言ってしまったのだ。
一抹の寂しさが私の脳裏を過ったが、今は友人の命がかかっているのだ。
「ドラちゃん、頼むわよ」
私はドラちゃんを一路シュタイン王国に向かわせたのだ。
ベティ、頼むから待っていて、絶対に助けに行くから!
私は心に誓ったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ついに国を捨ててリディは飛び立ちました
ついに次はシュタイン王国王都にそびえ立つ王宮です。
しかし、そこには待ち受ける者達が。
リディの運命やいかに
続きは明朝です