大国王妃視点 小娘の親友を脅すことにしました
「クラーク、インスブルクを制圧したらどうするの? インスブルクには竜がいるんでしょ」
私は夫の国王に聞いていた。
「そうだな。竜がどうかしたのか?」
「小娘に思い知らせてやった後は竜で遊ぶのも良いかなと思って」
「竜は中々制御するのは難しいぞ。それよりは飛竜の方がまだ楽だそうだ。インスブルクの奴らは飛竜騎士団とか言うのを作っているからな、うまく手に入れば馬のように乗れるのかもしれない」
夫が教えてくれた。
「馬に乗るみたいに乗れるって言うの?」
「ああ、そうなったらお前を連れて空の散歩に出られるかもしれないぞ」
「それは素敵ね。でも、その前に小娘に思い知らせないと。トレント公爵は攻撃できたかしら」
「問題ないだろう。10万の大軍で一気にインスブルクに向けて攻め込んだそうだ。いくら小娘が強かろうが一撃だろう」
私の問いにクラークは答えてくれた。
「そうよね。後はトレント公爵が上手く小娘を捕まえられたかだけど……」
「あれだけ厳命したのだ。なんとかしてくれるだろう」
夫は楽観的に言ってくれた。
「そうよね。出来たら五体満足で連れて来てくれたら嬉しいけれど……」
「まあ、トレントも娘を怪我させられて思う所はあるだろうしな。戦場にいるんだから、怒り狂った兵士達に暴行されているかもしれない。生きていれば良いんじゃないか」
クラークが笑って言ってくれた。
「そうね。エイブにしてくれたことを思い知らしめてやらないといけないから、生きてはつれてきてほしいけれど……」
「まあ、いくらいたぶっても良いが殺すなよ。あの小娘には元気な騎士を生んでもらわないといけないからな」
クラークは残酷なことを言ってくれた。
「そうね。エイベルにあれだけ酷いことをしてくれたんだから、それ相応の報いを受けてもらわないと」
私達がそう言って笑い合った時だ。
「申し上げます」
扉が開いて、伝令が連れられてきた。服も顔も薄汚れていた。相当の距離を走ったらしく、疲労困憊のようだった。
「もう、占領できたの?」
私は喜んで聞いていた。
「いえ、我が軍はリディアーヌ率いる飛竜部隊に本体が襲われて、撤退しました」
「何だと、10万の軍勢を向けたのに負けたと申すか!」
「そんな!」
クラークも私も驚いた。
「トレントはどうしたの?」
「総大将のトレント公爵はリディアーヌに急襲されて戦死、本陣が壊滅したので、味方は散り散りに敗走しました」
私の問いに伝令がなんとか答えてくれた。
「なんと言うことだ。まさかトレントが負けるとは」
クラークは呆然としていた。
10万の軍勢はシュタイン王国全軍40万の四分の一だ。それもある程度の精鋭を当てたのだ。
それが破れたとあっては王国も早急に陣容を整え直さなければならない。
直ちに付近の騎士団を国境の町に派遣して、状況の把握を行うことになった。
調べた所では、砦攻めはある程度まではうまくいっていたとのことだったが、小娘が竜に乗って本陣を急襲して、立場は逆転されたのだとか。トレントが殺された後は本隊が潰走して、多くの取り残された兵士達が、インスブルクに降伏したそうだ。
完敗だった。
それを新聞は面白おかしく書いてくれていた。
「何が、もうシュタイン王国は終わりよ。この記事を書いた責任者を呼びなさい!」
私は侍従に叫んだが、
「この新聞はボルツアーノ王国の新聞社でして、我々の言うことは中々聞かないかと」
「そこをなんとかするのがあなたの仕事でしょう」
そう言う侍従に対して、私はきれていたが、
「侍従にきれても仕方があるまい」
クラークが横から言ってくれた。
「でも、あなたどうするのです。このように新聞に書かれては我が国の沽券に関わるではないですか」
私が聞くと
「今対策は練っている。しかし、兵力の四分の一が無くなったのだ。すぐに対策は出来まい」
「あなた何を言っていますの? エイベルの側近のトミーから今のエイベルの状況を聞いていたのですが、エイベルの治りがあまり芳しくないそうですわ」
「そうなのか?」
「はっ、医師が申すにはエイベル様はリディアーヌに顔を張られた衝撃で、下手したら一生涯足を引きずられて歩かれることになるかもしれないと」
クラークの問いにトミーが答えてくれた。
「なんと言うことだ。王太子が足を引きずることになるのか」
「確かなことはまだ言えないそうですが……」
トミーが口を濁してくれたが、医者が言うということはその可能性が大きいということだ。
「あなた、どうするのですか? 私はなんとしてもあの小娘に思い知らせてやりたいのです」
「しかしな。今は10万の兵力の損失をなんとかしようとやりくりしている時だ。これ以上インスブルクに攻め込むのは難しいぞ」
クラークは良い返事をしてくれなかった。
「あの小娘についている側近の親を呼んで、息子に小娘を連れてくるように命じるのはどうですか? 例えば、ノール辺境伯を脅して……」
「ノール辺境伯は息子を勘当したと言っておった。軍の減った今は辺境伯を下手に刺激するのはまずい」
「第二騎士団長は」
「同じ事を言わすな。王都の守りが手薄になるわ」
クラークはにべもなかった。
まあ、いずれは、2人には自分の息子があの小娘についたことを後悔させてやるとして、今は黙っていた方が良いようだ。
私が何か手はないかと考えていた時だ。
「側近ではないですが、リディアーヌと仲の良かったベティというアラカルト男爵家の娘が王宮におりますが」
トミーが言い出してくれた。
「そうなのか。その者は王宮で何をしているのだ」
「確か文官の見習いの一人として出仕しているかと思います。なんでも、周りには王太子殿下がリディアーヌに張られたのはその行いが悪いからだと言いふらしているのだとか」
「何だと」「何ですって!」
私達はその言葉を聞いた瞬間完全にきれていた。
「今すぐその娘を呼びなさい」
私は命じていた。
「はい」
トミーは慌てて出ていった。
私はその娘を脅して、リディアーヌをおびき出させようとしたのだ。そもそも、エイベルをけなすとは許せなかった。場合によっては二、三発張らねばならないかもしれない。エイベルを悪く言う者などこの王宮にいて許されるはずは無いのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
ベティの運命やいかに
今夜更新予定です。