大国王妃視点 でかい口を叩いた小娘にきれて、総攻撃命令が出ました
戦争をしているとは思えないほど、王宮での生活はゆったりとしていた。
エイベルのけがの治りは遅遅として中々進まなかったが、主治医の話では少しは治ってきているようだ。
私はトレント公爵のインスブルク征伐軍の凱旋を心待ちにしていた。
軍を発するに当たって、トレント公爵は準備を万端にしていた。征伐軍の編成は我がシュタイン王国の中でも精鋭を選りすぐって選抜していた。元々インスブルク軍は総勢5千人しかいないのだ。対して我が軍は精鋭10万人。インスブルクの総兵力よりの20倍を向かわせたのだ。どんな下手な将軍でも楽勝できるはずだった。
そう、私は引き立てられた小娘をどのようにしていたぶるか考えていたのだ。エイベルのように顔を張り倒すのは当然だ。私が気の済むまで張って、後はエイベルが復活すればエイベルに引っ叩かせるのも良いだろう。エイベルが出来なければ騎士達に小娘の顔の形が変わるほど引っ叩かせても良いかもしれない。泣きわめいて助けを呼んでも、絶対に許してやらないのだ。
「キャメロン。せっかく父上が我が王国に強い騎士の血を入れるために連れてきたのだ。ただ、殺すだけではもったいないだろう。王族か誰かの子供を作らせればどうか」
クラークが鼻の下を伸ばしていってくれた。
「クラーク、まさかあなたの子供を作らせる気ではないでしょうね」
「いや、それはだな……」
クラークが驚き慌てた。
「あなたは何を考えているのです。あなたの子供が生まれたらエイベルとの王位争いが起こるやもしれないでしょう。それは絶対に許せませんよ」
私が睨み付けて言うと、
「いや、必ずしも私でなくても良いが」
「次の王はエイベルなのです。後生に禍根を残すようなことは出来ません。もしやるなら強い騎士の中から選別してその騎士達の子供を作らせれば良いでしょう。まあ、お義父様が思うほど強い子供が出来るとも思えませんが」
私ははっきりとクラークに釘を刺したのだ。本当に男どもときたらどうしようもない奴らだ。
まあ、それをあの小娘が嫌がるのならば私の罰を受けさせた後でそうするのも良かろう。
あの小娘は私の大切なエイベルを傷つけたのだ。この大国シュタイン王国の王太子をだ。
当然厳罰を受ける必要があった。
そんな話をしていた時だ。
「申し上げます」
伝令が駆け込んできたのだ。
「大勝したか?」
クラークが喜んで言ってくれた。私はそれが当然のことだと思っていたのだ。
「いえ、その……」
伝令は口ごもったのだ。
「どうしたのだ? まさか、負けたというのではあるまいな」
「はっ、申し訳ありません。先遣隊のバウディ伯爵軍が潰走いたしました」
「潰走とはどういうことなの!」
私には信じられなかった。
「バウディ伯爵がリディアーヌを挑発した所、リディアーヌが一人で砦から出てきまして」
「捕まえたら終わりではないか」
クラークが当然のことを言ってくれた。
「それが砦から飛び降りると同時にバウディ伯爵を一刀両断し、同時に門が開いて、敵兵が突出してきたのです。我が軍はそれを支えきれずに潰走しました」
跪いて伝令が報告してくれたことが私にはよく判らなかった。
「先遣隊とは申せ1万人もいたのだろう。敵は全軍が出てきても5千人だ。5千に1万が潰走させられたのか?」
私の代わりにクラークが聞いてくれた。
「申し訳ありません。リディアーヌの強さは並々ならぬものがあり、我が方は太刀打ちできませんでした」
「トレントはどうしておるのだ?」
「国境の町にて体制を立て直しておりまする」
「まあ、まだ1万人がやられただけなのでしょう」
私が言うと
「はっ、前衛の被害は思いのほか少なく100名もいないかと」
「ならば何をしておるのだ。すぐに攻め込むようにトレントに伝えよ」
「はっ、判りましてございます」
伝令は跪いてくれたのだ。
「あなた、前衛の質が悪かったのですか?」
私が聞くと
「いや、我が軍の中でも強いと言われる第三師団を当てたはずだ」
「なら、何故負けたのです?」
「油断したのであろう。再度トレントに油断せずに事に当たれと指示を送ろう」
クラークの言葉に私は頷いた。誰しも失敗はある。今回はあまりに油断しすぎたのだろうと。
しかし、それから次々に伝わる戦況は良くなかった。
それに、あろうことか、インスブルクは各国の新聞社に戦況を大げさに伝えたみたいだ。
『10万の兵。インスブルクの竜姫の前に潰走』
とかいう見出しを見て私は怒ったのだ。
「直ちにこの新聞社を呼び出して訂正しなさい。潰走したのは1万の前衛だけだと」
私は私の侍従に指示したのだが、
「妃殿下。この新聞は帝国傘下の新聞社でして我が国が指摘しても修正されないかと」
「ならば帝国の大使を呼び出して注意するのです」
私がきれている時だ。
「妃殿下大変でございます。直ちに謁見の間にお越し下さい」
侍従が私を呼びに来たのだ。
何事かと謁見の間に行くと、クラークが荒れていたのだ。
「なんだこれは。直ちにこの新聞社を呼び出せ」
「しかし、陛下、この新聞社はボルツアーノの資本が入っています」
「関係無い。直ちに呼び出すのだ」
「あなた、どうしたのです?」
私が聞くと
「これを見てみろ」
クラークが新聞を私に突き出した。
『シュタイン軍意気消沈』
とでかでかと書かれていた。
「まあ、トレントも10万の軍を率いていながら、1回の敗戦で意気消沈するなどどうしようもありませんわね」
「そこではない。ここだ」
私はクラークの指の先を読んだのだ。
「『竜姫様は国境の町に閉じこもっている軟弱なシュタイン軍を一喝すれば潰走するのは確実。それを追ってシュタイン王都に進軍して、シュタイン王国の国王夫妻を自分の前に跪かせて靴の先を舐めさせてあげるわと兵士達に豪語しているそうだ』って、あなたなんなのですか。これは!」
私はその新聞を地面に叩きつけていた。
「私があの小娘の前に跪くですって! 良くそんな戯言がほざけるわね」
「そうだ。何故シュタインの国王たる俺がそんな小娘に膝を屈せねばならないのだ」
私とクラークはきれていた。
「あなた、いつまであの小娘にいい気にならせておくのです。これもそれも国境の町ですくんでいるトレントのせいですよね」
「そうじゃな。もう許さん。マトライ、直ちに征伐軍、全軍で攻撃しするように伝えろ。なんとしてもでかい口を叩いた小娘を痛い目に遭わせてやるのだ」
「そんな甘いことで、どうするのです。このような生意気なことを言った舌を引っこ抜いてやらねば気が済みません。トレントにどのようなことをしても生きてさえいれば良いから小娘を引っ立ててこいとお命じ下さい」
私はいきり立っていた。
絶対に小娘は許さない!
私は決意したのだ。
宰相によって王命として即座の総攻撃と小娘捕縛令が出された。
遅くなりましたが、更新しました