大魔術師が余計なことを新聞記者に言ったので私は淫乱王女になってしまいました
私は砦の上でシュタイン軍の攻撃から砦を守っていた。
敵兵がドンドン壁をはしごを使って登ってくる。
私はそれを必死に斬って落としていたが、敵兵はドンドンはしごを登って増えてきたのだ。
本来は私が圧倒的に強いはずなのに、敵兵がドンドン増殖してくるのだ。
「えっ、そんな馬鹿な」
私が叩き斬っても叩き斬っても敵は増えてくるのだ。
私がいい加減に疲れてきた時だ。
後ろからズブリとナイフで突き刺されたのだ。
えっ!
何で後ろから、と慌てて後ろを振り返るとそれは兄嫁だったのだ。
「リディアーヌさん、ごめんなさいね。ビリー様のためにはあなたはいない方が良いのよ」
兄嫁はそう言うと笑ってくれたのだ。
ギャッーーーーー!
はっとして私は目覚めた。
砦の中の個室の白い壁が見える。
目覚めとしては最悪だった。
私は戦闘服に着替えると外に出た。
「どうしたんだ? 変な顔をして」
食堂に行くと、そこに集まって事務仕事をしてくれていたレックスが聞いてくれた。
「変な夢で飛び起きたのよ」
私は首を振って言った。
「王妃様にでも怒られる夢でも見たのか?」
「その方が余程ましよ」
私がレックスに答えると
「判りましたぞ。姫様。レックス様を他の女に取られる夢ですな」
訳知り顔してレナードが言ってくれた。
「いや、レナード様。俺はリディ一筋ですから」
レックスは言ってくれたけれど、
「はいはい、そういうおべんちゃらは良いから」
私が首を振ると
「いや、リディ、俺は本気だって」
「待ったー、レックス、抜け駆けはなしだ。リディアーヌ様。私めは浮気者のレックスと違ってリディアーヌ様一筋です」
ハワードが横から出てきた。
私は頭が痛くなった。
「リディ、信じてないだろう」
レックスが何か言っているし、
「ま、冗談と取られるほどレックス様は全然目がないということですな」
レナードがなんか訳のわからないことを言っているし。
「姫様。私も立候補していいですか」
調子に乗ってチャーリーまで言い出してくれたんだけど……
「貴方たちね、冗談ばかり言っているんじゃ無くて、少しは真剣に考えなさいよ。私は昨夜も寝ずに敵軍をこの砦まで引き刷り出す方法をずっと考えていたのよ」
私がむっとして言うと、
「何か思いついたのか?」
「ドラちゃんが勝手に暴走したってことにして、この砦まで後ろから追い立ててもらうのはどうかしら?」
レックスに聞かれて、私は自信満々に提案したのだ。
「どう、最高の意見でしょ」
私が皆を自慢げに見渡したら、皆の反応が微妙だ。
レックスは頭を抑えているし、アーチはあさっての方を見ているし、レナードなんて残念な者を見るような目で私を見てくれていた。
「ピー」
何故かドラちゃんまでとても不機嫌なんだけど……
「えっ、だめ?」
私が小首をかしげてレックスを見たら、レックスがこめかみを押さえながら答えてくれた。
「リディ、そもそも、砦から出撃してシュタイン王国内に攻め込んだらいけないって言われているんだろう?」
「だから私は砦にいるわよ」
私が答えたが、
「リディ、ドラちゃんは基本的にリディのペット扱いなんだから、敵軍を襲った段階でリディの指示があったと兄上らに取られるんじゃないのか」
「だから、ドラちゃんが勝手に暴走して」
「ピー」
私の言葉にドラちゃんが非難の声を上げる。
「そんなの誰が信じるんだよ」
「俺だったら絶対に姫様の指示だと思います」
「龍神の化身のドラ様が暴走なさるというのは無理があるのでは」
皆で否定してくれるんだけど、
「ええええ! ドラちゃんは時に私の言うことを聞かないこともあるじゃない。ね、ドラちゃん」
私の声にドラちゃんは
「ピーーーー」
と横を向いてくれた。
ご機嫌を損ねたらしい。
「ほら、見ろ、ドラちゃんも否定しているじゃないか」
レックスが言ってくれた。
「リディアーヌ様。そんなことはありません。素晴らしい案です。それでいきましょう」
横からハワードが言ってくれたんだけど、その言葉を聞いた途端に私は自分の案がレックスの言うようにどうしようもない案だと思えてきた。
「えっ、リディアーヌ様、素晴らしい案ですって」
ハワードは基本的には私の意見を何でも肯定する傾向がある。そのハワードからして少し反応が遅れたのだ。こいつも最初はレックスが考えたように取ったに違いないのだ。遅れて反応したことからしてそうだ。
「うーん、良い案だと思ったのに」
私が残念そうに言うと、
「いや、リディアーヌ様とても良い案ですって」
「それよりも、レックス様が素晴らしい案を考えて頂いたのです」
「えっ、レックスが?」
私はハワードを無視してレックスを見た。
「そうだ、あの案はリディの案に比べたら良いと思ったぞ」
「いや、リディアーヌ様の案は素晴らしいぞ」
「ハワードも喜んで記者に話していたじゃないか」
「えっ、新聞記者と何か話したの?」
アーチとハワードが言い合っているのを聞いて私は不吉なものを感じた。
「いや、敵をおびき出すには挑発するのが一番良いかと思ったんだが……」
何故かレックスの目が泳いでいた。
「何したのよ?」
私が心配になって聞くと
「こちらでございます。姫様」
レナードががさっと新聞の山を見せてくれたのだ。
『竜姫様、シュタイン軍の弱さに呆れる』『竜姫軍、祝勝の祝いで砦で大宴会』『シュタイン軍、反省会はお通夜のよう』『竜姫様、シュタイン軍の目の前で昼寝』『竜姫様【敵の大将を跪かせて靴をなめさせてやるわ】と豪語』
なんか凄い見出しが並んでいる。
「なによこれ、私は死んでもトレント公爵に靴なんかなめさせないわよ」
むっとして私は言った。
「怒るのそこかよ」
アーチが呆れて言ってくれた。
「えっ、何々、『竜姫様はシュタイン軍のあまりの弱さに呆れかえられている。【あんなに弱いのなら私一人でシュタイン王国を制圧できるわ】と豪語されていた』って私はシュタイン王国を占拠するつもりなんてないって。治めるの面倒くさそうだし」
「なんか突っ込みたくなるところ満載だけど」
「一人で占拠できると思っているんだ」
レックスとアーチが呆れてくれたけれど、まあ、私も一人で占拠は出来ないとは思うけれど……
「さすが金髪の山姥」
「なんか言った?」
調子に乗ったザカリーを睨み付けると
「ヒィィィィ」
悲鳴を上げて私から逃げてくれた。
「これが良いですぞ」
レナードが新聞を渡してくれた。
「えっ、何々、『竜姫様は【シュタイン国王夫妻も私の強さを知って震えていると思うわ。何でもエイベルをお詫びに奴隷として差し出すって言っているそうだけれど、あんな役立たずの不能はいらないわ。ここには若い男もいっぱいいるのよ】と日々若い兵士達を侍らせてたのしんでいらっしゃいます』って何なのよ!これは? 誰! こんなありもしないことを言ったのは」
私はそう言うとザカリーを睨み付けたら
「姫様違いますって、いくら僕でもそんな不敬なこと言えませんよ」
日頃は口をよく滑らせているザカリーが必死に否定しているけれど、似たことは言ったはずだ。
「リディアーヌ様。奴隷ならここにいます」
「ハワードは黙っていなさい」
私は余計なことを言うハワードを黙らせた。
「まあまあ、姫様、これを見たらいくらシュタイン軍でも攻めてこずにはいられませじゃろ」
笑ってレナードは言ってくれたが、こいつか余計なことを言ったのは!
「レナード、私のどこが若い男を侍らせて楽しんでいるのよ」
「姫様は騎士達に日々稽古をつけて楽しんでいらっしゃるではありませんか」
「それはそうかもしれないけれど、この記事読んで誰がそう思うのよ」
「変ですな。私はそういうつもりでは言っておらんのですが」
こいつは絶対に新聞記者がそう取ると思って言ってくれたのだ。
私がレナードを睨み付けたけれど、レナードはびくともしなかった。
こんな記事が広がったら本当に私は嫁に行けなくなる。
私は本当に泣きたくなったのだ。
レナードの策略で、ショックを受けたリディです。
さて、シュタイン軍の反応は?
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