兄嫁に説明して前線に向かいました
「リディアーヌさん。あなた、この国を戦争に巻き込むつもりなの!」
兄嫁は声高に私に言ってくれたのだ。
王宮の廊下で大きな声で。
これには私の騎士達や飛竜騎士団の面々がむっとして兄嫁を睨み付けていた。
「コーデリア様。あなたは」
「チャーリー止めなさい!」
叫びだそうとしたチャーリーを私が止めた。
「まあ、あなた、私の補佐官のシュバルツに暴力を振るって謹慎中の身ではないの?」
兄嫁がヒートアップしてきた。
「お義姉様。その件は非常事態につきお父様から許可を得ました」
「なんですって!」
更にヒートアップしそうな兄嫁にうんざりしたが、
「チャーリー。シュバルツに謝りなさい」
私が指示した。
「しかし、姫様」
「暴力を振るったのはあなたです。騎士相手ならいざ知らず、文官相手に暴力を振るったのは事実でしょう」
「さすが姫様。自分はシュタインの王太子に暴力を振るったのに……」
ザカリーが何か言っているが一瞥で黙らせた。
私が更に促すと、仕方なさそうにチャーリーは頭を下げたのだ。
「シュタイン補佐官、申し訳ありませんでした」
「まあ良いでしょう」
せっかくチャーリーが頭を下げたのに、この補佐官は何を鷹揚に頷いているのよ。
ギンガルメ王国は確かに我が国の二倍あるが、戦力的には圧倒的に我が軍の方が強いのを理解していないのかしら。
私はむっとして思ったが、ここは我慢だ。
私以上に隣のチャーリーが一触即発で暴走しそうなんだけど……
「では」
私は危険を避けるために、さっさと去ろうとしたのに、
「リディアーヌさん。まだ話は終わっておりません」
私の前に兄嫁付きの近衞が出てくるんだけど、ギンガルメ王国から付いてきた奴らなんだろうか? でないと恐ろしくて私の前を塞ぐなんて危険なことはしないはずなのに!
元々インスブルクの連中はそれを見て慌てて後ろに飛びすさったんだけど、それはそれで近衞としてどうかと思う。私は思わず手が出そうになったハワードを止めた。
そう、私の側近は私よりも単細胞が多いのだ。
「なんですか? お義姉様。あまり時間がないのですが」
仕方なしに私が聞くと、
「シュタイン王国の大使殿に対して、何故あのような扱いをしたのかと聞いているのです」
「大使のボタンを切り取ったのは失礼な態度を取った大使に対してハワードが暴走した結果です。大使に水をかけてシュタインの畑の肥だめに転移したのはレナードです。私ではありませんよ」
私が否定すると
「二人ともリディアーヌ様の部下ではありませんか」
「お義姉様。それは違いますわ」
私は兄嫁の言葉を否定した。
「どう違うのですか?」
「今もそうですが、ハワードはお義姉様と国境も接しているシュタイン王国のノール辺境伯の跡継ぎです。私の部下ではありません」
「そんなリディアーヌ様。私はあなた様に一生涯ついていく所存です。奴隷でも何でもいいのでおそばにおいて下さい」
こいつ今良いところなのに、ややこしいことを言わないでほしい。
「でもレナードはあなたの守役でしょう」
「お義姉様。一応私はレナードからは呼び捨てで良いと言われていますから呼び捨てにしていますが、彼は大陸最強の魔術師で、父が頼み込んで私の守役になってもらっているのです。立場はお父様の客分扱いです。お言葉には十分に気をつけてください。特にシュバルツ。次はあなたが肥だめに放り込まれますよ」
私は前もってシュバルツに注意した。そう、下手したらレナードは切れたら活火山の火口の中に転移させかねないのだ。私の言葉にシュバルツは唖然としていた。
「そんな」
兄嫁は絶句しているが、
「レナードを配下にしようと帝国やシュタイン王国もいろいろと手を打ったそうですが、レナードは全く無視してここにおりますから、この国の王太子妃といえどもご注意下さい」
私は注意すべき所は注意したと思う。
「では」
そのまま立ち去ろうとしたのだ。
「待って、リディアーヌさん。シュタイン王国を怒らせたら戦争になるわ。その時はどうするの? あなたは問題だけ起こしておいて責任を取らなくて様子見をしていたら良いかもしれないけれど、前線に立つのはあなたのお兄様なのよ。それに対してはどう思うの?」
本当にこの兄嫁はしつこい。私はうんざりした。
「あのうお姉様。何をおっしゃっていらっしゃるのかよく判りませんが、私は前線に出ますよ」
「はい? 何故王女のあなたが前線に出るのです?」
兄嫁は何も知らないみたいだ。
「王女であろうが関係ありません。元々シュタイン王国に行く前は私が前線の指揮官でした。今までは私がいなかったので、やむを得ずお兄様には不慣れな司令官をやって頂いていましたが、私が帰ってきたのですから、当然前線の指揮は私が執ります」
「えっ、そうなの?」
兄嫁は全く知らなかったみたいだ。
元々私がお転婆なのもあるが、前線の指揮は私が執っていたのだ。
まあ、私の剣術がこの国最強ランクというのもある。私に比べると兄は武に関してはからきしだめなのだ。完全に文官に特化していた。文治能力の高い兄が後継者で戦闘能力の高い私が、この国の指揮官なのだ。まあ最終責任者は国王のお父様になるが、それ以外の戦略等は基本は私に一任されているのだ。
そして、シュタイン王国に今まで好き勝手にされた借りを返さないといけないと私は決意していた。
今までの私に対する扱いを思い知らせてやるのだ。
「だから、お義姉様はお兄様と後方でゆっくりなさって下さい。たとえシュタイン王国軍が100万の軍勢でかかってきても砦は抜かせませんから。では失礼しますね」
私は兄嫁にそう言うと、一団を引き連れて飛竜部隊の詰め所に向かったのだった。
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