大国王妃視点 ついに小国に攻め入ることになりました
「な、何なのですか? その汚らしい者は」
私はその者を見て目が点になった。
なんかドロドロに汚れた男で、それも何か、饐えたような匂いがしてくるのだ。
謁見の間が汚れるでは無いか!
「何故、そのような汚い者を連れてきた?」
クラークも怒ってくれた。
「も、申し訳ありません。この男、王宮の裏の畑の肥だめに落ちていたのですが」
「肥だめですって!」
私は悲鳴を上げた。
「直ちにつまみ出せ!」
クラークも汚物を見るような目で見てくれた。
「それが、この男、ドラクエ在駐インスブルク大使だと名乗りまして、親書を持っていると。前陛下の命により国からの使者はまず、何を置いてもここに連れてくるようにとなっており」
近衛騎士が報告した。
「なんとそのような命令が残っていたのか? これからはせめて風呂に入ってからここに来さすようにしろ」
不機嫌な声でクラークが叫んだ。本当にその通りだ。このような汚物を見せられるとは今日は本当に最悪だ。ここに来る男も男だ。せめてきれいになってから来れば良いのに!
私もとても不快になった。
「陛下、申し訳ありません。インスブルクの奴らにこのような目に遭わせられまして」
ドラクエ子爵とおぼしき汚らしい汚物が何か叫んでいる。
私は言っては何だがとても気持ち悪かった。さっさとつまみ出してほしかった。
「それでインスブルクはなんと申してきたのだ」
「何も聞かずにここまで転移させられましたので、詳しくはこれに」
汚物が何か汚れた紙を差し出した。
侍従も嫌そうにそれを取って、クラークに渡した。
「直ちにドラクエを風呂にでも入れてやれ」
クラークは言ってくれたが、私としてはそのまま肥だめに返してほしかった。
王宮が汚れる。
汚物が部屋から連れ出されて私はほっとした。
しかし、インスブルクもなんてことをしてくれたのだ。本当にやることが下品だ。まああの小娘も礼儀作法は全然なっていなかったが……
クラークは鼻をつまんで封筒を開けて読んでいるが、どんどん顔が険しくなってきた。
私はそのように汚い物をよく読めると見ていたのだが、
「あなたどうなさったのですか?」
さすがに聞いてみた。
私が聞くとクラークが書面を私に寄越そうとした。
「いえ、そのような汚い物は」
私が思わず身を引いた。
クラークはそれを見て嫌そうにしたが、その紙を宰相に渡す。
宰相はそれをひっつかむように読み出した。
良く汚物に触れられると感心してみていると、
「な、なんとこれは、損害賠償として金貨100万枚を請求してきておりますぞ」
「な、何ですって! 金貨100万枚ですって!」
私は思わず叫んでいた。
「金貨100万枚など下手したら一国の一年間の予算ですぞ」
外務卿が驚愕していた。
「何という身の程知らずな」
「小国の考えは判りかねますな」
周りがざわめく。
「そもそも、今回の件はリディアーヌがしでかしたことではありませんか! 何故我々が損害賠償を払わないといけないのです」
私はヒステリックに叫んでいた。
そうだ。払うのならばインスブルク側だろう。
「インスブルク側は今回のリディアーヌ様の行いは全てエイベル様が作ったえん罪であると申しておりますな」
「何ですって! エイベルに全治三ヶ月の重傷を負わせながら何という戯れ言を言うのですか?」
冷静な宰相の言葉に思わず私は打擲しそうになった。
「許されませんな、そのような戯れ言を吐くなど」
「本当に」
周りの貴族達が私に賛同してくれた。
「インスブルク側はリディアーヌ様はアラベラ・トレント公爵令嬢を虐めたこともなく、襲わせようとしたことも無いと。全てはエイベル様とアラベラ様の作り出したえん罪だと申しております」
「何ですって。そんなわけは無いでしょう」
「そうです。娘はあの事件で傷つけられて部屋に閉じこもっておりますのにそのような事は言いがかりです」
トレント公爵も私の言葉に頷いてくれた。
「しかし、我々がしらべたところえん罪の可能性が高く」
「はああああ! 宰相、あなたいつからインスブルクの犬になったのです」
「そうだぞ! ムタース。襲われた娘はあの後リディアーヌを恐れて部屋から出れなくなったのだぞ」
私たちは宰相に食ってかかった。
「このシュタイン王国の王太子である我が息子が傷つけられたことには変わりあるまい。おのれ、インスブルクめ。素直に娘を差し出し、賠償金10万枚を渡せば穏便に事を済ませてやろうとしたものを、もう許さん!
何が元々前陛下が無理矢理婚約を結んだだ。王家が娘をどんなことがあっても守ると誓っただと! 笑わせるな。なんであのような粗暴な娘を我が国が求めたというのだ。ふざけたことを申しおって! このシュタイン王国に逆らったらどうなるか目に物を見せてくれるわ」
クラークが叫んでくれた。
「陛下、いかがなさるのですか?」
「決まっておるわ。インスブルクを征伐する」
「しかし、陛下。インスブルクは山多く攻め入るのは大変かと」
「ふん、ここまで虚仮にされたのだ。許すわけにはいかん。トレント!」
「はっ、御前に」
トレント公爵がクラークに跪いた。
「貴様に10万の軍勢を預ける。直ちにインスブルクに赴き、インスブルクを制圧し、リディアーヌの小娘等を予の前に引き出すのだ。予自ら成敗してくれようぞ」
「御意」
トレントが頭を下げた。
「軍務卿。直ちに侵攻する10万の軍勢を選び指示を出せ。人選等は任せる」
「御意」
周りは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「しかし、陛下!」
「ムタース、これはもう決定事項だ。その方も征伐に協力せよ」
「はっ」
あくまでも反抗しようとしたムタースは仕方なしに頷いていた。
「ふふふふ、これでリディアーヌも捕まえられるわ」
私は征伐の準備に右往左往する群臣を見ながら、エイベルを傷つけてくれた小娘をどのように料理して痛めつけるか考え出したのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
ついに戦争の勃発です。シュタインの大軍を前にインスブルクはどうするのか?
リディの運命やいかに?
続きは今夜です。
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