大国に婚約破棄の損害賠償として金貨100万枚請求することになりました
私はお母様に延々と怒られていた。
お父様はというとお母様の手前、一緒に注意はするが言っても無駄だと思うと顔に書かれていた。
「判っているのですか、リディ! あなたは女の子なんですよ。なのに、婚約破棄されたからって、エイベル王太子を張り倒して三ヶ月の重傷を負わせるってどういう事なの?」
「そうだぞ、リディ! せめて一ヶ月くらいにしておかないと」
「あなた。普通の女の子はたとえ張り倒しても相手の頬に張り手の跡がつくくらいです。一ヶ月もの怪我をさせていいわけは無いでしょう!」
お父様の言葉は更にお母様の怒りに火をつけた。
「あなたは小さい頃からおてんばで、一人で王宮を飛び出して魔物を退治するわ、ダンジョンの制圧をするわ。勝手に巨大竜の子供を連れて帰ってくるわ。本当に心安まる時はなかったのですよ」
私が怒られているのを同席しているレックスやアーチは面白がって聞いているし……出来たら思いっきり足くらい蹴飛ばしてやりたかった。
「こんなのであなたを嫁にもらってくれる人なんて現れるのかと心配していたら、シュタイン王国の前国王陛下があなたを孫の嫁にと言っていただけたのよ。私はどれだけ安心したことか。なのにその相手を張り倒して出奔してくるなど言語道断です。これが世の中に知れたら今度こそ嫁のもらい手がなくなるじゃない」
お母様は怒りだしたら止まらないのだ。私も言いたい事はあるが、一言返せば10倍になって返ってくるのだ。仕方なしに私は縮こまって聞いていた。いつもはお気楽なドラちゃんも自分のことが言われた時にはピクッと震えていた。
私はドラちゃんをなでるとその口の中にスープを入れてやった。
「聞いているのですか? リディアーヌ!」
お母様がそれを見て、怒りだしたんだけど、
「でも、お母様、今は食事中ですし、ずっとお母様のお小言を聞いていたら食べられません」
私は思わず反論してしまった。
「何を言うのですか、リディ! そもそも食事中にペットを持ち込むのは良くないといつも申しているではありませんか」
お母様の言葉にドラちゃんはまたピクリと震えて私の胸に顔を埋めてくれるんだけど、とても可愛い。
思わずぎゅっと抱きしめたら
「リディ!」
お母様の叱責が飛んできた。
「まあ、ダリア。竜は我が国の守り神様なのだから、別にリディが同席させても問題あるまい」
さすがにお父様が助け船をだしてくれた。
「さようでございます。王妃様。ドラ様は竜神様の使いとも言われております。久々に姫様が戻られて甘えたいのでございましょう」
同席していたチャーリーの父のエイブ・アルトス飛竜騎士団長まで言い出して、さすがのお母様も少し考え込んでくれた。
「まあ、そうかもしれませんが、これでリディの嫁ぎ先がなくなったかと思うと私は」
「王妃様。その事ですが、ドミバン族からは是非姫様を嫁に欲しいと言ってきたと聞き及んでおりますぞ」
レナードが余計なことを言ってくれた。
「ドミバンってシュタインの南方に盤踞している蛮族ではありませんか」
お母様か目をつり上げて怒りだした。
「そのような蛮族にリディをやる訳には参りません」
「そうだぞ。レナード、そんなところにリディをやってみろ。あっという間にシュタインを占拠して大帝国を立ててしまうわ」
お父様がまた余計な事を言ってくれた。
「あなたなんて事を言うのですか? 私のリディをそんな蛮族のところにやるというのですか」
お母様が更に眉まで逆立てて怒りだした。
「いや、ダリア、だからやらないと言っているだろう」
「当たり前です。もしやるというなら私にも考えがあります」
「いやだから冗談だから」
二人で痴話げんかを始めたんだけど、いい加減にしてほしい。後でお父様に文句を言ったら誰のせいでこうなったと思っているのだと逆に怒られてしまった……
結局、私にとっては無駄な時間、いや、悲惨な時間を過ごした私はお母様から解放されて、別室でお母様抜きで今後の対策を練ることにしたのだ。
「で、どうするのだ?」
お父様が聞いてきた。
「どうすると言われても」
私に考えがある訳ではなかった。私は久々のインスブルク王国でのんびり過ごせればそれで良いのだ。
「そもそも今回の件はシュタイン側に非があります。シュタイン王国には我が国の至宝竜姫様を婚約者としてお預けしたのです。それをあまつさえ向こうの過失で婚約破棄して、なおかつえん罪で姫様を捕まえようとしたこと。これは許されることではありません。賠償として金貨10万枚を請求してはどうでしょうか」
マトライ宰相がとんでもないことを言い出した。
「金貨10万枚なんてシュタインが払うと思うか?」
「まあ、中々難しいでしょうな。しかし、常識としては妥当な線だと思いますが……」
「竜姫様を婚約破棄してくれたのだ。なおかつ、竜姫様に襲いかかったとか。これは我が国に対する宣戦布告と同じ事です。本来ならば金貨100万枚を請求したいところですな」
レナードが更にとんでもないことを言い出したんだけど……
「馬鹿を申すな。それでは戦争をふっかけているのと同じではないか」
「既に竜姫様に襲いかかっているのです。シュタイン側は戦争を仕掛けてきておりますが」
お父様に対してレナードが反論した。
「シュタインの攻撃に対して、我が方は飛竜部隊を出撃させて、既に交戦しております」
エイブが報告してくれた。
「えっ、あれは私を助けに来てくれたんでしょ。交戦は不可抗力だよね」
私が聞くと
「姫様に対して、シュタインが剣を抜いた段階で我が国はシュタインから攻撃を仕掛けられたと認識しております」
エイブの言葉に私の取り巻きとお父様以外は全員頷いているんだけど。
「それは我が国の常識ではそうだが、そこは穏便にだな、なんとかならんか」
お父様が皆を見渡して言い出した。
「我々が黙っていてもシュタイン側が何か言ってくると思います。奴らは事の重大さを理解していないのです。奴らの感覚では小国の姫を婚約破棄してやったくらいにしか考えていないでしょう。ここは先制攻撃でガツンと言って奴らに考え違いをだたしてやる必要があると思われますが」
マトライ宰相は首を振って言い出した。
「判った、金貨10万枚の損害賠償請求するのか」
「陛下、どのみちシュタイン側は払いますまい。ここは10万枚などみみっちいことは言わずに100万枚で宜しいのでは」
横からレナードが言い出した。
「いや、しかし、さすがに100万枚は一つの国の年間予算だぞ」
お父様が驚いて反論したが、
「さようでございます。姫様の価値は金貨100万枚以上の価値がございます」
「まあ、インパクトは大きい方が宜しいかと」
騎士団長が言い出して宰相までが頷いてくれたんだけど。
「貴様ら、完全に戦争するつもりだろう」
お父様が頭を抱えてくれた。
私は自分の価値が金貨100万枚の価値があると聞いて良く判らなかった。
昔シュタインの王宮のシェフ特製のケーキが金貨1枚の価値があるとシュタインの前国王が言われていたので、ケーキ100万個ってどれだけなんだろうと馬鹿なことを考えていたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次はシュタイン大使を呼び出します。
大国の大使は尊大そうですが、その大使の運命やいかに
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