シュタイン王妃視点 息子の元婚約者に地獄を見せてやると決めました
「何ですって! モウラス伯爵が失敗したというの?」
私はモウラスが我が息子に重傷を負わせた憎きリデイアーヌを連れてくるのを楽しみにしていたのに、やってきたのは失敗の報を持った伝令だった。
「はっ、申し訳ありません。インスブルクの巨大竜と飛竜部隊が我が主の館を攻撃してきまして、館は全壊させられ、我が騎士部隊にも多大なる損害を被りました」
「巨大竜とは何だ?」
私の隣のクラークが尋ねた。
「黄金色をした巨大な竜で、リディアーヌがドラちゃんと呼んでいたとのことです」
「何だ、それは? リディアーヌが巨大竜を飼っていたというのか? キャメロン、そのようなことを聞いていたか?」
「いえ、今初耳でございます。インスブルクの飛竜ではありませんの?」
私が首を振って聞き返すと
「普通の飛竜と比べると大きさが桁違いに違いました」
伝令が否定した。
「その竜が暴れて館は全壊して、その間にインスブルクの飛竜部隊が魔導爆弾を使用して騎士達に多大な損害が出ました」
「そうか、インスブルクの飛竜部隊が攻めてきたというのだな」
「はい」
伝令は頷いた。
「肝心のリディアーヌはどうしたのです?」
私が聞くと、
「その巨大竜に乗って逃走いたしました」
「おのれ、モウラスも役に立たぬの。本人はどうしたのですか?」
文句の一つも言ってやろうとしたのだが、
「主は斬られて重傷でございます」
「そうなの? 大丈夫なの?」
「命には別状はございません」
私が驚いて聞くと死にはしなかったようだ。
「おのれリデイアーヌはオズモンドだけでは飽き足らずに、モウラスまで殺そうとしたのですね」
私は怒った。
「そうか。ご苦労だった。下がって休むが良い」
クラークが伝令を下がらせた。
「あなた、どうするのですか?」
「インスブルクは飛竜部隊を出してきたのだ。飛竜部隊と言えばインスブルクの主力だ。リデイアーヌを救うためとは言え、これは我が国に対する攻撃だ。これを見過ごす訳にはいかん」
「で、どうなさいますか」
宰相が聞いてきた。
「まず、インスブルクに抗議の使者を送ろう」
「リデイアーヌの身柄はどうするのですか」
「ふんっ、決まった事よ。直ちにインスブルクにリディアーヌの身柄の引き渡しを命じるだけだ。バウディを呼べ」
クラークは、相手に威圧感を与える大柄で少し傲慢なところのあるバウディ伯爵を呼び出したのだ。
「バウディ、ただいま参りました」
不敵な面構えのバウディが入ってきた。このものならばなんとかしてくれそうだ。
「よく来たな。バウディ。その方、リディアーヌの件、知っておるな」
「はっ、何でも、モウラス伯爵を傷つけてインスブルクの飛竜部隊に助けられて逃げていったとか伺いましたが」
「そうじゃ。そこで、使者としてその方にインスブルクに赴いてもらいたいのだ」
「宣戦布告を行いますか?」
私は思わずバウディに頷きそうになったが、
「インスブルクなど攻め込んでもたいした土地はあるまい。まず脅せば十分だろう。それでその方を呼んだのだ」
「どのように脅せば宜しいので」
「文章は宰相に用意させるが、まず、我が息子に対する暗殺未遂。それと第八騎士団への攻撃。最後はモウラス伯爵領への飛竜部隊の攻撃の件に対する抗議だ」
「その3点ですな」
「そうだ。最初の1件は罪人リディアーヌの引き渡しだ。次はオズモントを殺したノーラ辺境伯の息子の引き渡し。最後はインスブルク王国の飛竜部隊が我が国の伯爵家を攻撃したのだ。これは完全な侵略行為だ。我が国としても重々抗議せねばなるまい。インスブルクに対して損害賠償として金貨10万枚の供出を求めてこい」
「なるほど、金貨10万枚を求められて右往左往するインスブルクの奴らが見物ですな」
バウディは笑ってくれた。
「しかし、陛下、インスブルクが10万枚も金貨を出せますかな」
宰相が聞いてきた。
「ふんっ、なんとしても出させるのだ。なあに、いざというときはインスブルクに攻め込むと脅せばすぐに出すだろう」
クラークは笑って言ってくれた。
「御意。直ちに向かう準備をいたします」
「怒ったインスブルク側が襲撃してくる可能性もある。貴様には1個騎士団つける。第七騎士団を連れていけ」
「陛下宜しいのですか。そのようなことをして戦争になるかも知れませんぞ」
宰相が言ってきたが、
「ふん、戦争になれば我が方が圧倒的に有利だろうが。併合して飛竜部隊を傘下に収めても良かろう」
「ありがとうございます。もし、うんと言わねば実力行使させていただきます」
「そうだな。頼むぞ」
「バウディ、頼みましたよ。リディアーヌをなんとしても連れてくるのです。あの娘には我が息子を傷つけたことを罰をもって償わさせねば私の気が収まりません。途中で何をしても良いですが、必ず生きてこの地まで連れてくるのです」
1万人も連れて行けばインスブルクも諦めて娘を差し出すだろうと私は思った。
「生きていればどうなっていても良いとおっしゃるのですな」
バウディは嫌らしい笑みを浮かべた私に確認した。
この顔は碌な事をしない顔だ。まあ、連れてくる途中であの娘を手込めにしようが私が知ったことではない。
「そうです。あやつには生きたまま地獄を見せてやるのです」
私はリディアーヌを絶対に許さないと心に決めていたのだ。








