お父様達にこの国にいろと言われて安心しましたが、今回の件について延々とお小言を頂戴することになりました
私は兄嫁が私にインスブルク王国から出ていってほしいと思っているのを聞いて固まってしまった。
「でも、シュタイン王国がリデイアーヌさんの身柄引き渡しを言ってきたらどうするの?」
「そんなことがあるはずないだろう」
「そんなの判らないわよ。シュタインの王妃様は怒り狂っているそうよ。もし言ってきたらどうするのよ」
「そんなの拒否するに決まっているだろう」
お兄様はあくまでも私を守ってくれるみたいで私は少しほっとした。
「シュタインは大国なのよ。拒否して戦争になったらどうするのよ」
「それはそうだけど、リディを引き渡すことなんて絶対に出来ないぞ」
「だからそう言ってくる前に、リディアーヌさんに出ていってもらった方が良いって言っているのよ」
そうか、兄嫁は私がこの国にいたら迷惑なんだ。
兄嫁は私がシュタイン王国に行く前に隣国のギンガルメ王国から兄嫁が嫁いできたので、私はあまり兄嫁のコーデリアのことを知らなかった。確かに兄嫁の言うように、シュタインがこの国に私を引き渡せと言ってくる可能性は十分にあった。十分なやっかいごとだ。
私が唖然としていたら、後ろから止める暇もなくノーラが飛び出していった。
「王太子妃様、姫様に出て行けなんて、なんてことをおっしゃるのですか!」
ノーラが私の代わりに文句を言ってくれたのだ。
「ノーラ、お前侍女の分際でコーデリアになんてことを言う……」
そこでお兄様は扉の所に私が突っ立っているのを見つけてくれたのだ。
「リディ、お前聞いていたのか」
お兄様は慌てて私を見た。
「ええ」
私はぎゅっとドラちゃんを抱きしめて言った。
「ウーーーー」
私の腕の中でドラちゃんがお兄様と兄嫁に対して唸ってくれた。
「いや、俺はリディに出て行けなんて言うつもりはないぞ」
「殿下。私も進んで出て行ってほしいなととは申しておりません」
お兄様と兄嫁が言ってくれた。
「さようでございます。コーデリア様はリディアーヌ様のお帰りを心からお待ちされていたのです」
王妃の後ろにいた男が話し出した。確か兄嫁がギンガルメ王国から連れてきたシュバルツ補佐官だ。でも、私は素直にその言葉には頷けなかった。兄嫁としては私がシュタインで捕まった方が良かったと思っていたのではないかと勘ぐってしまった。
「ただ、シュタイン王国は我が国に比べて大国です。リディアーヌ様はその王太子殿下に重傷を負わされ、捕まえようとしたシュタイン軍と交戦されたとか。シュタインがリディアーヌ様の身柄の引き渡しを求めてくる可能性があります。その前に、リデイアーヌ様は隣国にでも逃れられた方が良いかと……ギャ!」
話していたシュバルツは真横からチャーリーに跳び蹴りされて地面に激突していた。
「貴様。我らが姫様になんてこと言うんだ」
そう言って更にシュバルツに飛びかかりそうになって
「止めろ! チャーリー」
お兄様の近衞に後ろから羽交い締めにされていた。
「シュバルツ大丈夫?」
兄嫁がシュバルツに駆け寄った。
「うーーー」
地面に顔をぶつけたシュバルツは顔を押さえながら起き上がった。
「あなた私の従者になんてことをするの」
兄嫁はチャーリーを睨み付けた。
「チャーリー、シュバルツに謝りなさい」
私が命じたが
「嫌です。謝るのは姫様に出て行ってほしいと言ったこいつでしょう」
「何ですって。シュバルツは私の意見を代わりに言ってくれただけよ」
「じゃあ、あなたが出て行けば良いでしょう」
「チャーリー! 何を言うんだ」
チャーリーの言葉にお兄様が注意した時だ。
「何を騒いでいる!」
そこにお父様らが入ってきた。
「申し訳ありません。実は……」
お兄様が説明してくれた。
「チャーリー、暴力をふるったお前は1週間の反省房行きだ」
「判りました」
お父様の言葉にチャーリーが近衞に連れて行かれた。
「お父様。私、この国に邪魔だとお思いならばいつでも出ていきますけれど」
私が申し出ると
「何を言っている! リディアーヌ。俺はお前を追い出すようなことは考えておらん。それはコーデリアだけの考えだ」
お父様が首を振ってコーデリアを見た。私はお父様にそう言ってもらえてほっとした。
「しかし、陛下、このままでは下手したらシュタインと戦争になってしまうのではないですか」
「リディが出ていったところで、シュタインが難癖をつけてくるのは変わらんよ。その時はリディが責任を取ってなんとかするだろう」
「あなた、リディに戦場に出ろと言われるのですか」
お父様の言葉にお母様が噛みついた。
「ダリア、リディは出るなって言っても出るだろう」
「はい」
私はお父様に見られて思わず頷いていた。
「リディ、あなたは女の子なんですから。もう少しおしとやかにしなさい」
お母様が怒って私を見た。
やばい、余計なことを言ってしまった。
この後がまずい。
私は思わず首をすくめた。
「まあ、王妃様。姫様は我が国のお転婆姫ですからな。今更直りますまいて」
そこにでてこなくて良いのに、レナードがしゃしゃり出てきて、更に余計な事を言ってくれた。
気分を害した兄嫁らは退室したが、食事会の間中私はお父様とお母様から延々とお小言を頂戴することになったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
続きは今夜の予定です。