ハワードが隊長を叩き斬ってくれて私達は残った敵を潰走させました
私達は完全に囲まれていた。ざっと見渡した限り、千人以上はいる。敵は前方に厚く、側面と後方は手薄だった。
でも、戻るのは悪手だ。両側に山が迫っていて一本道なのだ。そして、他の道をたどるとなると結構遠回りになる。
両横は薄いがその先は林で馬を駆けさせるのは中々厳しそうだ。何しろ私の乗っている馬は王都にいた普通の馬なのだ。領地の林を駆け抜けるのになれた馬ではない。今でも体力的には結構きつそうなのだ。
最後の正面も結構分厚そうだ。これを突破するのに、斬らないで突破は難しい。シュタイン王国と戦争の可能性が出てきた。
私は心配して3人を見た。
でも3人は頷いてくれたんだけど、どういう意味で頷いてくれたんだろう。
本当にシュタインと戦っても良いのか?
そう思った時、再度敵の指揮官が叫んできた。
「もう一度告げる。私は第8騎士団第1大隊長のオズモンド男爵である。貴様ら4人は完全に包囲された。元王太子の婚約者のリディアーヌ・インスブルク。公爵令嬢のアラベラ様を傷つけ、王太子殿下に傷を負わしたこと。重罪である。直ちに剣を捨てて降伏せよ。さもなくば、その体を裸にひんむいて磔の刑にしてやろうか」
なんとも指揮官は下品だ。
配下の者達がどっと笑った。
「リディ、抑えろ。これは敵の策だ」
レックスがぷっつん切れた私を抑えようとした。
「えっ、あのはげを叩き斬って一点突破で」
「いや、それはまずいだろう。ここは穏便にだな……」
私の言葉を遮ってレックスが何か策を言い出そうとしたときだ。
「おのれ!」
私以上の単細胞なハワードが飛び出したのだ。
「そこのオズモンド!、貴様、インスブルクの王女殿下であらせられるリディアーヌ様をそこまで侮辱するとは許しがたし。不敬罪でその首、跳ね飛ばしてやるわ」
そう叫ぶと剣を抜いて、ハワードが馬を駆りだしたのだ。
「ちょっとハワード、待ちなさいよ!」
でも、私がハワードを止める間もなかった。
「おい、追いかけよう」
「あいつ本当に策も何もないじゃないか」
アーチと舌打ちしたレックスが駆けだした。
仕方なしに私も続く。
「何を言う。貴様こそ、死にたいのか? えっ?」
オズモンドが叫んだ時にはハワードは既にオズモンドの真ん前に迫っていた。
怒り狂った時のハワードの怖さをこいつは知らなかったのだ。
「皆の者、やれ、やるのだ……」
オズモンドは叫んだが、ハワードのスピードが勝っていた。
逃げようとした指揮官は遅かった。
敵がハワードを止めようとしたときには既にハワードは指揮官の目の前で剣を振り上げていた。
指揮官の顔が恐怖に歪むのが見えた。
「死ね!」
叫ぶと同時にハワードの巨体から剣が振り下ろされた。
オズモントは剣で防ごうとしたが、その剣もろともヘルメットがたたき割られていた。
私は敵を殺さずに逃げようとしていたのに、怒り狂ったハワードの前には関係無かった。
私に不敬なことを叫んでいたオズモンドは怒り狂ったハワードに真っ二つにされていた。
「オズモントは不敬罪で、処刑した。次に不敬罪で死にたいのは誰だ?」
その声に敵兵はさああああああっと引いたのだ。
この辺りの騎士団は実戦経験が少ないみたいだった。
いくらハワードが恐ろしいからって、普通は戦いで避けるなんてあり得なかった。
本来ならば無血逃亡する予定が、ハワードが男爵とはいえ、指揮官を叩き斬ってしまった。
一人でも二人でもこうなったらもう同じだ。やるしかない。
その開いた穴に私達が飛び込んだのだ。
「誰か我が剣の前に出ようという不届き者はいないのか?」
「ハワード行くわよ」
なおも挑発を続けるハワードに叫ぶと私達はそのまま敵陣に向かって駆け出したのだ。
慌ててハワードもついてくる。
「お退き!」
私はそう叫ぶと、指揮官をなくして右往左往する敵を追い散らしたのだ。
「「「わあああ」」」
「化け物だ」
「化け物が攻めてきたぞ」
慌てた敵兵が蜘蛛の子を散らしたように逃げ出してくれた。
私は前を逃げていた兵士を馬で弾き飛ばしたくらいで、抵抗してくる兵士達はいなかった。
そのまま私達は北上したのだ。
あっさり1個大隊を突破して私はほっとした。
私はこの戦いが私達が4人が1個大隊を殲滅したと噂されるようになるなんて思ってもいなかった。
地上に金髪の山姥が現れて鬼のハワードに命じて指揮官を惨殺すると残った兵を剣で撫斬りにして皆殺しにしたと噂されたのだ。
これを聞いて「鬼のハワードか」
といってハワードは喜んでいたが、
「金髪の山姥って何よ」
私はぷっつん切れたのだ。
王女相手に金髪の山姥だなんて、絶対に不敬だ。許せない。
「まあ、突撃する時の怒り狂ったリディは顔が少し怖いからな」
「何か言った?」
アーチが言ってくれたので、睨み付けたら首をすくめていた。
次からは突撃する時はもう少し凜々しい顔にしようと密かに私は決意したのだ。
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