婚約破棄されたので王太子を張り倒しました
マックとか言う大使館の男が土下座して謝りだした。
私は大きくため息をついた。
「エイべル様、これはどういう事ですか?」
呆れてハワードが聞いていた。
「何を言う。ハワード、貴様が脅したから、怖くなってその男は証言を翻したのだ」
エイベルが言い切った。
「何を言うんです。どう見ても、この男は本当のことを言いましたよね」
「違う。貴様に脅されたんだ。皆もそう思うよな」
エイベルが周りを見た。
「さ、さようでございます」
「リディアーヌ様に命じられたハワードの脅しに屈しただけだ」
「そうだ」
「そうだ」
取り巻き達がついでに周りの貴族達が叫びだした。
「何だと」
「どう見ても本当のことを話しただけだろうが」
「くだらない芝居をやりやがって」
剣術部の面々が怒りだした。
「止めなさい」
私は剣術部の面々に言い放った。
これをほうっておくと完全に乱闘が始まるだろう。
でも一応、エイベルはあれでもこの国の王太子だ。
そして、剣術部の面々もクラスの面々もこの国の人間だ。これ以上、この国の王太子ともめるのは良くない。
「しかし、リディ、こんな茶番を認めるのか」
レックスが驚いて振り返った。
「認めるわけはないでしょう」
私は首を振ると前に出ると振り返った。
「Eクラスの人たちと剣術部の皆、今まで本当にありがとう」
私はクラスと剣術部の面々を見回して言った。
「リディ」
「どうするんだ」
「国に帰るのか」
皆はあっという間に私を囲んでくれた。
「リディ、今まで楽しかったわ」
「私もよ、ベティ」
「リディ、どうするんだ」
「どうするもこうするも王太子に婚約破棄されたんだから、国に帰るしかないわ」
レックスの声に私は答えた。
「そんな、リディアーヌ様はこの国を見捨てられるのですか」
後ろで必死の顔でハワードが嘆いているんだけど
「何言っているのよ。婚約破棄されたのは私よ」
「おのれ、あの無能の王太子め」
「ハワード、それは不敬よ。ここからは慎みなさい」
振り向いて言うハワードに私は首を振ったのだ。
「しかし……」
「ここまではいろいろとありがとう。でも、ここからは私がやるわ」
「リディアーヌ様」
「「「リディ」」」
「ごめんね。ここからはリディアーヌ・インスブルクとしてのけじめがあるのよ」
私はそう言うと皆に別れを告げて、歩き出した。
ゆっくりとエイベルに向かって。
「ほう、リディアーヌ、やっと自分の罪を認める気になったのか」
エイベルが笑って言ってくれた。
「何を言っているの、エイベル」
私は心底馬鹿にしたように言ってやった。
「リディアーヌ、き、貴様俺様を呼び捨てにするとは何事だ」
怒り狂ってエイベルが言ってくれたけれど
「エイベル。あなた馬鹿なの?」
「な、何だと!」
「元々この婚約はわがインスブルク王国とこのシュタイン王国の対等の婚約なのよ。私があなたを様つけて呼んでいたのはお母様からシュタイン王国は男尊女卑が酷いから婚約者には様付けで呼びなさいと言われていたから仕方なしに呼んであげていただけよ」
私は肩をすくめてやった。
「な、何だと貴様!」
「この婚約にしても、あなたのおじいさまがこの国に来ればケーキが食べ放題だと約束してもらったから来ただけよ。もっとも王宮の面々はケチだからそんなこととしてくれたこと無かったけれど、明確な契約違反よね」
「な、何だと」
「ケーキにつられるなんて」
「本当にリディらしいわよね」
怒りの王太子に後ろからクスクス笑うクラスメートの声が聞こえる。
「頼まれたから来てやったのに、その相手の王太子は婚約者がいるのに公爵令嬢風情とベタベタしているし、周りもそれを注意しないなんて王太子の周りは礼儀知らずしかいないの?」
「な、なんだと」
「言いたいことを言いやがって」
「それ以上、前に進むな」
近衛騎士が私の進路を塞ごうとした。
「無礼者!」
私は一喝した。
その瞬間だ。男は私の威圧をもろに浴びて吹っ飛んだのだ。
私と王太子の間にいた近衛も何人か気を失って倒れた。
皆唖然としてみていた。
私はその中、エイベル目指して歩み始めた。
「婚約の話をあなたのおじいさまと話している時にお母様が
『あなたはがさつだから婚約者に嫌がられて婚約破棄されるに違いない』
って言ったのよ。
『えっ、そんなことされたら婚約者を張り倒してしまうかも』
って私が答えたら、あなたのおじいさまは
『そうなったら思いっきり張り倒していい』
っておっしゃったのよね。父と母が
『それは冗談ではすみませんから』
って必死に言うのにあなたのおじいさまは
『死なない程度にな』
って笑っておっしゃられたのよ」
私はにこりと笑ってやったのだ。
「ふん、やれる者ならやってみれば良い。返り討ちにしてやるわ」
エイベルが笑って言ってくれた。
こいつは馬鹿だ。
剣を握っているから私が近づいたら剣で無礼打ちにでもするつもりかもしれない。
先日は私が枷があったからやられただけだ。
でも、その枷もさっきのエイベルの不用意な一言で割れてしまったのに。
私との婚約が自分の身を守ってことに気づかないなんて……
私はゆっくりとエイベルに近づいた。
次の瞬間、エイベルが剣を抜こうとした。
パシーン
私の怒りの張り手が一閃した。
周りにいた取り巻きとアラベラを巻き込んで、エイベルは吹っ飛んでいたのだ。
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話はまだまだ続きます