大国国王視点 竜娘を嵌めて、過去最盛期の賢王への道が開かれました
俺はこの大陸南部で一番広い領土と一番強力な軍隊を持つシュタイン王国の国王だった。
いつもは平然と玉座についていれば良かった。
あの竜娘を父が息子婚約者として連れてこなければ!
俺はいや、我がシュタイン王国はその竜娘に散々な目に遭わされてきたのだ。
父が死んで二年。
息子は婚約者の竜娘を嫌っていた。
それはそうだろう。基本、聖女を信仰しているわがシュタイン王国と竜を信仰しているインスブルク王国は相容れないのだ。何をとち狂ったか、父はその竜娘を息子の婚約者にしてしまった。
合うわけはないのだ。
案の定、二人は破局、でも、エイベルは竜娘を婚約破棄して断罪しようとして、逆に張り倒されて重傷を負っていたが……
息子を傷つけられて怒り狂った妻の王妃と一緒になってインスブルクを攻撃したが、竜娘とその連れている竜は強大で我が軍は次々に敗れ去った。
最初にアラカルト男爵のところで独立したと聞いた時は、自棄になって暴走したのかと呆れたのだが、あれよあれよという間に巨大勢力になって周りを併合し始めたのだ。
気づけば、インスブルクはもとより手を回していろいろ画策させたギンガルメも併合して、一大勢力を築き上げていた。
更には、竜娘に仕返しがしたいと言い張った息子にシュタイン王国軍20万預けたが、あっさりと竜娘にやられて、捕虜になってくれた。
竜娘の攻勢に日頃はおとなしかった属国や周辺諸国が騒ぎ出し、ドミバン族が攻勢に出てきたのだ。
そして、今度は王都周辺の貴族どもが次々に竜娘に降伏を始めた。俺には信じられなかった。
情勢は我がシュタイン王国にとって日増しに悪くなってきたのだ。
軍を集めても、周辺の貴族どもは今までの恩義も忘れてほとんど兵を送ってこなかった。
「どういう事だ? 何故マクレガー家が援軍を送って来ぬ!」
大貴族ですら兵を送ってこなかった。俺は完全に切れていた。
王都から南に向かう街道は避難する人で大混在していた。最近は近衛兵からも逃亡兵が出だしたということだ。集まった戦力は一万もいなかった。
これでどうやって戦えというのか?
俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。
このまま滅亡か、その2文字が頭に浮かんだ時だ。
宰相が聖女アラベラとやってきたのだ。
「陛下、どうされたのですか? やつれた顔をなされて?」
俺の顔を見て、宰相は呆れたように言ってくれた。
「この状況でどうやって、のほほんとしていられるのだ!」
俺はむっとして宰相を睨み付けた。
「陛下、我がシュタイン王国は今まで何度も竜王国には痛い目に遭っております。それは歴史が証明しております」
宰相が話し出した。
確かにかつて、我が王国は発展する過程で、竜王国と戦って何度も負けていた。
「一度など、王都に攻め込まれて、存亡の危機に立ったこともあります。しかし、そのたびに聖女様のお力で竜王国を撃退しているのです」
宰相がそう言って、隣のアラベラを見た。
「しかし、聖女教の大聖堂も焼き討ちされたではないか」
俺は白い目で聖女と宰相を見た。
「大聖堂では教皇猊下が聖女様を頼らずに勝手に暴走されたのです。その結果、竜娘に良いように暴れられて大聖堂は廃墟と化したのです」
宰相は話してくれた。
「そうなのか?」
俺は胡散臭そうに宰相と聖女を見比べた。
「我が国も最近聖女様との関係をないがしろにする傾向にありました」
宰相の言葉に、
「父が竜娘を息子の婚約者に連れてきたからな。それからだろう」
俺は頷いた。
「しかし、こうなっては聖女様のお力をお借りするしかありますまい」
宰相はそう言ってくれたが、聖女に何が出来るというのだ?
俺は疑問しかなかった。
「エイベル様が捕まったと聞きます」
聖女のアラベラは真剣な目つきで俺を見てきた。
「なんとしてもリディアーヌを捕まえて、エイベル様を解放させます」
アラベラは決意に満ちた目で俺を見てきた。
「しかし、どうするというのだ? 既に王都の周辺貴族の大半が寝返った現状だぞ」
俺は事実を言った。こんな状況でどうするのだ?
「なあに、竜娘さえ退治すれば大半の諸侯はあっさりと寝返るはずです。その上でギンガルメとインスブルクを併合すれば良いのです。我がシュタイン王国の領土は過去最高になりましょう。貴族どもを罰するのはそれからで良いのです」
宰相は不敵な笑みを浮かべて言ってくれた。
「しかし、どうやるのだ? 聖女のよりどころの大聖堂は焼き討ちされ、王宮も廃墟と化しているのだぞ。周辺貴族は裏切り者だらけだ。
やりようがないではないか!」
俺が投げやりに言うと、
「まだ、この地下に宝剣の間が残っています」
宰相が言いだしてくれた。
「宝物庫か?」
俺には、地下の巨大な倉庫になっている古くさい宝物が置かれているところだという認識しかなかった。
「その更に下に聖女の間があるのです。そこに竜娘を招き入れるのです」
宰相が言ってくれた。
「しかし、どうやって招き入れるのだ?」
俺が聞いた。
「とりあえず、降伏するのです」
「何じゃと、降伏するだと!」
俺は大声になった。
「陛下、一時の方便です。竜王国は今は竜娘しかおりません。竜娘さえ倒せば後は自然と瓦解いたしましょう」
宰相は平然と言い切ってくれた。
「しかし、降伏するというのは……」
「兵士も逃亡が相次いでいるのは事実です。降伏すると言えば油断して少数の敵を引き連れてこの王宮にやってくるはずです。竜娘に宝剣を渡すと言えば少数でついてくるでしょう。そこを仕留めるのです」
宰相が当然のように言ってくれたが、
「しかし、竜娘は一人でも強いのだぞ。聖女で勝てるのか?」
俺はか弱いアラベラを見た。
「竜娘は大聖堂でも竜殺しの秘宝で苦しんだと聞き及びます。聖女の間も特別なのです。竜娘といえども聖女様には逆らえなくなるでしょう。何も抵抗できなくなった竜娘は聖女様によって銀の十字架に突き刺されれば死ぬしかないのです」
宰相は言い切ってくれたのだ。
「本当にそんな事が可能なのか?」
俺は半信半疑で、宰相とアラベラを見た。
「前竜王国の初代竜王はその聖女の間で時の聖女様に倒されたのです」
俺には初耳だった。
「前陛下はその竜王の血を王家に入れようとなさいました。しかし、所詮竜は爬虫類、人類とは相容れないのです」
宰相は言いきってくれた。
「しかし、降伏するのか?」
俺は嫌そうに言った。
「なあに、陛下。一時だけ爬虫類どもに勝利を譲るだけです。最後に笑われるのは陛下です。陛下が、シュタイン王国の全盛期を作られるのです」
宰相の言葉に俺様もやる気になった。
「そうじゃな。一時、爬虫類どもに良い目を見せてやろう。殺される前に、良い目を見れば良い」
そう言うと俺は高笑いした。
「左様でございます」
「苦しみ、命乞いするリディアーヌの顔が今から楽しみですわ」
宰相と、聖女も笑いだした。
三人の勝利の笑いが、臨時の謁見の間に高らかに響いたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
続きは今夜、お楽しみに








