第4話 事件は夕闇に
10話くらいまでの書き溜めはあるので、頑張って推敲中です。
ブックマークなどしてくれたら嬉しいです。
3日後、茜空が群青色に飲み込まれ、赤い月が東の空に輝きを放つ頃、事件は起こった。
ドンドンと玄関を叩く音が響いた。
「シグヴァールさんいるかい?ハルホスニ家に仕えるドーフです」
どうやら隣の地主のハンターのようだ。
ご主人様は扉を開ける。「どうかしましたか?」
外にはいかにも魔術師という風貌の男が3人立っていた。ドーフという男は濃い緑のフード付きのローブ、短いメイスを持ち、顔の右側に刺青が入っていた。他の2人はフードをかぶっていて、1人は杖、もう1人は短剣を腰に差していた。
ハルホスニ家の農地はホードゥの家のよりも川下で、根菜などを中心に栽培をしていた。ご主人様と巡回する時は境界線まで見にいくが、彼らは一度も見かけた事がない。
「ハインさんが魔物にやられて重体だ。他のメンバーも討伐に手こずって手が離せない。それで私たちが知らせに来たんだ」
「え、どう言う事?小鬼や魔狼の討伐で叔父さんがやられる訳ない、何か、何かの間違えじゃない?」
ご主人様は明らかに狼狽えている。顔から血の気が引いていくのが誰の目にも明らかだ。
「私たちも現場にいた訳ではない。伝言を伝えて欲しいと言われ、アンタを連れてくるように言われたんだ。申し訳ないけどすぐ支度してくれるかい?」
ご主人様は虚な目をして視線が定まらない。しかし「わ、分かったわ。すぐ準備をする」と言って身支度を始めた。
金属製の胸当てと小手を身につけてレイピアを左手に持つ、白いパンツにロングブーツを履いて表に出て行った。ご主人様は5分もかからずに準備を整えた。
昼間の巡回にはここまでの装備はしない。これで背中に羽根でも生えていれば、戦いの女神だと言われても疑わない、そのような容姿をしていた。
「待たせたわね、さあ急ぎましょう」
庭先の岩に座っていたドーフは「早いな、では街に急ごう」と言って立ち上がり、ローブをマントのように翻し、颯爽と歩き出した。
他の2人は路の端で雑談をしながら待っていた。
「ミカエルはお留守番しててね」とご主人様は玄関を閉めた。
小走りの足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
☆シグヴァール視点
叔父さんがやられるなんて、信じられない。
ハイン叔父さんは私の母の弟で、この街ウルズヘルムの出身だ。
姉弟は天才魔術師として有名だった。2人とも水と光の魔術の適性があり、2人で編み出した強力な雷の魔術を得意としてた。王都にある王立魔術学校に入学し、卒業後母は鉱山都市で魔法石や魔道具の研究に携わり、叔父さんはウルズヘルムに帰りハンターになって農地の管理を生業としたのだ。
父は鉱山都市ミッドナスマインの冒険者だった。そこで母に出会い私が生まれた。
私がまだ小さい時に鉱山の奥から魔物が大量発生する事件が起きた。かつてない魔物災害となったこの事件で町にまで魔物が溢れ出し、母は私を庇って死んだ。
父は母の遺品を故郷に届ける為、私を連れウルズヘルムに来た。そして私の安全を考えこの街に腰を落ち着けたのだった。
ハイン叔父さんには小さな頃からよく遊んでもらったし、父にはできない初恋の相談にも乗ってもらった。その恋は実らなかったが......
そしていつの間にか魔物のハントを手伝うようになったが、ハイン叔父さんが魔物に遅れをとるどころか、怪我をした所すら見た事が無いのだ。
一体どんな魔物にやられたのだろうか?何かの間違いでは無いのか?
叔父さんは強い、だけど万が一という事もある。不意打ちがあったのかもしれない。
そんな事を考えていたら、心臓を握りつぶされている様に苦しい。不安と動悸で水の中でもがいてるみたいに気持ちが悪い。
今、私はどこら辺を歩いているのだろう。周りを見渡しても街の城廓はまだ右手の方に見える。ドーフに尋ねようとすると、彼は足を止めてこちら振り返る。
「叔父さんは?街に行かなくても良いのですか?」
ドーフは右手のメイスを振りかざしこう言った。
「ダークバインド」
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