第39話 獣人族の村
更新遅れて申し訳ありません。
少し長めのエピソードになります。
ウアン湖の畔には沢山の青い花が咲いていた。
透明度の高い湖面に森林の木々が写り美しい。
湖面を縁取る様に咲く可愛らしい青い花は、風にゆらゆらとゆらめいていた。
この草花はサラ曰く『弟切草』というらしく傷薬などになるので重宝されているそうだ。
人間界にいたら護符やロールで傷はたちまち治ってしまう為、俺もシグヴァールも馴染みは無かったが、森の民は弟切草を加工して傷薬を作っているそうだ。
俺たちは皮袋に数束の弟切草を刈り取って入れた。
これでとりあえずギルドのミッションはクリアだ。
あとはサラの返事次第で獣人の村に行けるかどうか決まる。
「ミカエルは獣人の村で何か調べたい事があるの?」
「強い魔力の持ち主の正体が気になるにゃ」
「エリザベッタさんかもしれない?」
「それは無いと思うにゃ、人間は魔獣や精霊と違って魔術を使う時しか魔力はもれないにゃ。もし強い魔力を放出し続けたらエリザベッタでも3日もせず死んでしまうと思うにゃあ」
「ふーん、そっか。じゃあ何で調べてみようと思ったの?」
「森になんだかの異変が起きたのは間違えないにゃ。それがエリザベッタに関わる事の可能性はあると思うにゃ」
俺たちはそんな話をしていると、サラが戻って来た。
後ろにはシグヴァールよりも一回り以上大きいであろう、立派な体格の獣人がついて来た。
「シグヴァールさん、ミカエルちゃんお待たせなの」
手を振りながらこちらに小走りで近づいてくる。一緒にフサフサの尻尾も動いているのがかわいい。
「こんにちは、私は族長のダウ。この度は娘を助けてくれた様で、感謝する」
ダウは丁寧な物腰で頭を下げた。近づくと体格はさらに大きくおそらく2メートル以上はあるかもしれない。
腰には剣を携えており、サラよりも鋭い爪と牙は年季と威厳があった。
「わざわざ足を運んで頂いてありがとう、私はシグヴァール。 こちらは私の魔術の先生のミカエル」
ま、魔術の先生??
まあ、その方がいいかもしれない。
俺はシグヴァールの肩によじ登った。
この大男を見上げるのも肩が凝る。
「こんにちはダウさん、ミカエルだにゃあ」
「おお、本当に喋る猫なのだな! 娘から聞いた時は半信半疑だったのだよ」
「俺も獣人に会うのは初めてだにゃ。 と言っても生まれてから半年ほどだにゃあ」
「あははは、そうか。 それなのに魔術の先生とはすごいな!」
「これには深い事情があって……」
「なるほど……。ここじゃなんだから我々の村に来ないか? 娘を助けてくれた礼もしたい」
「良いのかにゃ? 迷惑じゃないかにゃ?」
なんかシグヴァールが首を振っているが気のせいだろう。
「いやいや、是非招待させてくれ。 ただし他言は無用でお願いするよ、お嬢さん」
「はい!! もちろんです」
なんか横で急に暖かい光が発せられた気がする。
「ダウさん、よろしく頼むにゃ」
それから俺たちは獣人の村に向かった。
シグヴァールはご機嫌で足取りが軽い。
サラも嬉しそうに尻尾をブンブン振っている。
ウアン湖から10分ほど歩いた森の中で、ダウさんは止まった。
「ここが入り口だ」
ダウさんが示す方にはただ木々が生い茂っていて道も無く、奥にも村のようなものは見当たらない。
「いいからいいからそのまま進むの」
サラがシグヴァールの背中を押し、茂みの中に足を入れると、辺りの景色が一変した。
目の前には立派な門があり、左右には壁が村を囲む様に続いていた。
足元は石畳で整えられていて趣のある古都に迷い込んだが如くであり、先程まで木々が鬱蒼とした所にいたとは思えない。
俺たちが何が起きたのか分からず立ち尽くしていると、ダウさんがイタズラに成功した少年の様な顔をしていた。
「驚いたかい? 妖術を使ってここが知らない人に見つからない様になってるのだよ」
「ああ、びっくりしたにゃ。 同じ道を辿っても二度と辿り着けない自信があるにゃあ」
「本当! こんな立派な建物があるなんて思わなかったわ」
「ここに人族が入るのは私が族長になってからは初めてだな。 かつては少人数の信頼できる人族との交流があったそうだがね」
「そうなんだにゃ、獣人族についてはもはや伝説級のおとぎ話になっているにゃあ。 こうしてお目にかかれて光栄にゃ」
「ふふふ、ミカエル君。 私も喋べる猫に会えて光栄だよ」
俺たちは村の中に進む。
中央のメインストリートは石畳で舗装され、左右には木造の古い建物が並んでいる。
さっきまでの鬱蒼とした森が嘘の様だ。
道を進むと一番奥の突き当たりには一際大きな建物が見えた。まるで古い寺院の様な作りで厳かで美しい建物だ。
どうやら族長宅はこの建物の様で、俺たちは中に案内された。
中に入ると、大きなフロアが最初にあって集会場の様になっていた。床の板は鼈甲のような光沢を持っていて年季を感じる。中央には大きな囲炉裏があって、俺たちはそこに腰を下ろした。
「改めて我が娘のサラを助けて頂いてありがとう。ささやかだが宴席を用意した。楽しんでいただけたら幸いだ」
ダウが手を叩くと奥から数人の獣人が料理を運んできた。
この囲炉裏で魚や野菜を焼いて食べる趣向らしい。素晴らしい!!
炭火で炙った川魚は香ばしく、一噛みすると甘い脂が口の中に広がり幸せが体の中を駆け巡った。
野菜も森で取れる山菜や、長芋の蔓の実や栗などが並べられ、遠火でじっくり焼くと、甘みが増していくらでも食べられる。
「お、おいしい!!」
シグヴァールも頬に手を当ててめを輝かせている。
宴席には珍しい人間と喋べる猫を見ようと村の人々が変わる代わる訪れていたが、俺たちの邪魔にならない様に軽く挨拶をして帰っていった。
秩序のある良い人々だ。
「こんな宴席までしてもらって感謝するにゃ。ただでさえ部外者を入れたく無いはずにゃのに」
「いや、実はそうでも無いのだよ。 若い世代は人族と交流したいと思ってる子も多い。 特にサラはおてんばで隠れてミッドナスマインを覗きに行ったりしている」
「……バレてたの」
「それに、森の民の中にはメタモルフォーゼが得意な種族も存在して、人間に化けて交易をしてる者もいる。 例えば今日の料理の塩や金属製の道具は人間界から来たものだ」
「そうなのかにゃん。不可侵の誓いというのは大丈夫なのかにゃ?」
「うむ、あれは人族にかけられた一方的な呪いみたいなもので、我々には関係ないのだよ」
「一方的な呪い?」
「人族には我々のことが極端に認識できない様に魔術がかかっていると言えば分かりやすいかな? もし偶然出会ってしまっても存在が認識できない。まるでオバケや霊的な何かと同じ様に」
「それはすごい魔術だにゃ。 その魔術師はにゃんていう人にゃ?」
「古いハイエルフで『黄昏の女神』と呼ばれてたらしい」
「黄昏の女神……。昔の魔術の効果が今も残っているかにゃ?」
「そうだな、エルフ族は長命だからあるいはまだどこかで生きているから、効果が続いているのかもしれない」
「あるいは、死んでも永続的に効果が続くシステムなのかもしれないにゃ」
「そんなことができるのか?」
「やったことはにゃいけど、強力な魔石に術式を刻み定期的に魔力を注げばできるかもしれないにゃあー」
黄昏の女神、王都の文献にもその名前は刻まれていない。もしそんな優秀な魔術師がいたとすれば極端に情報が少ない建国前の人物だろうか?
それに呪いがかかっているとして、猫の俺はともかくシグヴァールもサラをしっかり認識していた。
術にかかりやすさや寿命があるのだろうか?
どちらにしても興味深い。
「そう言えば、冒険者ギルドの試験で大森林に来たそうだが、この村に来たかった目的はなんだい?」
「ああ、そうだったにゃん。 大森林に出現したという強い魔力の正体に興味があるにゃ。 実は俺は行方不明になっている人間界の王を探しているにゃん」
「人間界の王……エリザベッタ・ダラゴナか?」
「知ってるかにゃん?」
「名前だけならな。 女王が魔力の正体だと?」
「いいや、人間はそこまで強い魔力は発し続けられないにゃ。 ただ何か関係があるかもしれないから、調べてみたいにゃ」
「ふふ、まるで自身が人間の様な口ぶりだな」
「う、それには深い事情があるにゃん……」
それから俺たちは色々な話をした。
シグヴァールもサラや他の獣人たちと喋ったり飲んだり楽しそうにしていた。
もう日が落ちる時間になった為、俺たちはここに一晩お世話になる事にし、次の日一旦ミッドナスマインに帰ることにした。
歓迎の宴が夜遅くまで続いたことは言うまでもない。
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