第37話 冒険者になる
エリス・ベネットは深い緑色の瞳と青みがかった黒髪で20代後半位に見える容姿をしていた。
いつからそこにいたのが分からないのに、目が合うと底知れない魔力と強者特有の覇気を感じた。
齢からして生前の俺と同じくらいのはずだが、王選の儀には参加してなかったと思う。
もし参加していれば今の王は彼女だったかも知れない。
もちろん戦ってみなければ分からないが、それほどの逸材ではないか?と感じた。
この若さでギルド長になっているというのも納得だ。
エリスは書類に目を通しながらシグヴァールに質問をする。
冒険者に成りたい動機やこれまでの経歴などを聞かれていた。
シグヴァールはウルズヘルムでハンターをしていたことや、王立魔術学校を目指して王都への旅の途中である事などを話をしていた。
「なるほど、一応実力の程は問題なさそうだが、一応試験を受けてもらう。 なあに、そんなに難しいものではない。 最低ランクのクエストを達成できたら合格だ」
「ええ、どんなクエストがあるのかしら?」
「そうだな……こんなのはどうだろうか?」
カウンターの下から一枚の紙を出した。
「えっと『大森林の調査』ね、……C級のクエストになってるじゃない?」
「ははは、そんなに危険は無いはずだから問題ないはずだ。 大森林の奥にウアン湖という湖がある。 その湖畔に咲いている水色の花を持って帰ってくればクエスト達成だ。 もし強い魔獣に遭遇したり、進むのが困難な出来事があった場合も引き返して構わない。 判断力と無事帰ってくる事も評価対象だと思って欲しい」
「分かったわ。 調査って書かれてるけど何を調査して報告すれば良いのかしら?」
「うむ、何もなければそれでも良いのだが、最近大森林の様子がおかしいらしい」
「おかしい?」
「そう、普段はクエストで強い魔獣の討伐や素材回収が大きな収入だったりするのだが、最近全然出現しないらしいのだ。 その原因となる事を発見するのが本来の依頼目的だ。 君たちにはそこまで期待していないよ。 だが変わったことがあったら報告をお願いしたい。 もちろん報酬は払うよ」
「大体了解した。 ところで大森林の地図の様なものはあるだろうか?」
「ああ、ウアン湖までは一本道だから迷うことは無いと思うが、一応持って行くと良い」
そういって、羊皮紙の地図を貸してくれた。
「ウアン湖までは往復1日で帰って来れるはずだ。 今日は宿でもとって明日の早朝に出かける事をオススメする」
「ありがとう。そうするよ」
「では、帰って来たら受付に報告すれば大丈夫だ。 あと、これは仮のギルド証だ。 これがあれば衛兵が通してくれるはずだ」
シグヴァールはギルド証の鍵型のペンダントを受け取った。
真面目な顔をしてるが、目元と口元がニヤけて怖いですよ、シグヴァールさん。
「では、気を付けて。 猫ちゃんもまたね」
「うん? ああ、また」
俺たちはギルドを後にした。
シグヴァールの足取りは軽い。まるで優雅に水面を行く白鳥の様だ。
旅の疲れが無いか心配なのに、このはしゃぎようを見るとそんなことはどうでも良く、むしろ微笑ましい気持ちになってくる。
しかし、油断は禁物だ。大森林は今だに未開の地域。
それにあのギルドマスターは確かにこう言ったのだ『君たちには』と。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次の日の朝早く俺たちは出かけた。
朝靄が濃く、街から見る大森林は雲海の中に埋もれていた。
昨晩は宿に帰ってから決して無理しない様に釘を刺した。
シグヴァールは確かに強い。魔法を使わなくても魔物を倒せる身体能力に加えて聖術もものになりつつある。
アザエル戦で見せた瞬発力に身体強化が加われば、並の魔獣や魔物なら相手にならないと思う。
だからといって100%安全では無いのだ。
街に入る時は東側の山道から入ったが、大森林への道は南側から続いている。
ミッドナスマインは建国後に発展した為城壁は存在せず、街の中心部から放射状に街が広がっていた。
街の南に進むにつれ標高が少しずつ下がり、家屋などが少なくなり、畑などが目立つ様になって来た。
大きな街道はだんだんと寂しくなって行き、見窄らしい畦道の様になり、やがて道は無くなった。
地図によるとウアン湖は南西方向に流れている小川に沿って行けば辿り着くらしい。
道なりに流れていた生活用水の様な川がそれだろう。
森の中に足を踏み入れると、気温が少し下がった様にひんやりした空気が流れる。
足元は深い苔に覆われており、高級な絨毯の上を歩いている様だった。
川は少し低いところを流れていて、川沿いを歩くのはそんなに難しく無かった。
どれくらい歩いただろうか?おそらく1時間くらいだと思う。
突然あたりに魔獣の咆哮が響き渡る。
直後に大きな地響きが起こった。
「シグヴァール!!」
「うん、あっちね!」
シグヴァールは聖術を纏い、咆哮のする方向に俺を抱えて走り出す。
少しひらけた場所で、獣人族の女の子が2体のベヒーモスに襲われていた。
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